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7 んごおおおおおおおおおおおおお……!


「おい坊主、賭けねえのか?」


 酒臭い息が耳のあたりに吹きかかり、俺は露骨に顔を歪めた。

 最前列の席が取れたのは幸運だった。

 だが、隣客には恵まれなかったらしい。


 はあ、と特大のため息が聞こえて、俺の前髪が揺れる。

 酒臭さが一段と強まった。


「まったくあきれた坊主だぜ。飲みもしねえ、賭けもしねえ。おめえさん何しに闘技場に来なすった?」


「そんなの剣闘士の闘いっぷりを観にきたに決まっているだろ」


 俺は眼下で行われる殺し合いに熱視線を向けたまま答える。

 もう少し正確に言えば、剣闘士たちが使う技を観にきた。


 トロール討伐から3日が経っていた。

 苦戦を強いられたことは、まだ記憶に新しい。

 技能スキル、武技、魔法。

 なんでもいい。

 俺にもオーブリの『風舞大刃かまいたち』みたいな強力な手札があればと思った。

 だから、この王都中央闘技場に探しに来たわけだ。


 剣術道場では門前払いを食らった俺だが、ここなら宿2泊分の金さえ払えば誰でも入場できる。

 そもそも、誰かに教わる必要などなかったのだ。

 スキルポイントがあれば、一目見るだけで技を習得できるのだから。

 腕に覚えのある猛者たちが一堂に会す闘技場はまさにうってつけの場所だった。


「おめえさん、若っけえのに夢がねえな。連中は命を懸ける。おいらたちは金を賭ける。そこに一体感ってヤツが生まれんのさ。闘技場を心底味わいてえなら賭けて飲め。異論は認めねえぞダハハハハ!」


 隣の客は完全に出来上がっている。

 目も俺を見ているようで見ていない。

 ダメな中年のお手本みたいなおっさんである。


「おら、おいらが貸してやるよ。なに、返せたぁ言わねえ、ドンと張りなせえ」


 渡されたのは小銅貨1枚だ。

 10円くらいの価値しかない。

 ドンも糞もない。

 最低賭け金にすら達していない。

 返そうとするもプイとそっぽを向かれる。


「仕方ないな。1回だけだぞ」


「おいらも初めはそうだった。気づけば万年金欠よぉ」


「この世界にも沼はあるんだな」


「住めば都だぜ?」


 賭けの対象は、剣闘士の「勝敗」「生死」「死因」「欠損した部位」「決着にかかる時間」など多岐にわたる。


「おいらの勘だと、あのゴリラ系獣人の圧勝だな。対戦相手のちっさいの、あっちゅう間にぺしゃんこだぜぇ。勝負の勘がな、そう言いやがんのよ。おいらってば、この勘で今日まで生きてきたってもんで――」


 沼に遷都したダメ親父の話などアテになるか。

 俺は「ゴリラ」が「首ちょんぱ」されて「即死」に100クリス賭けた。


「だー! そんなショボい賭け方じゃ勝利の女神様がケツ向けちまうぞ。おいらはバーンと10万よ!」


 10分後――。

 俺の手のひらは大銀貨10枚でずっしりと重くなっていた。

 100倍になって返ってきた。

 1万クリスだ。

 一方、隣のおっさんは10万クリスを0にすることに成功したらしい。

 酔いが去った後の虚しさが顔によく表れている。


「くそぉ。よく考えりゃ女神サマのケツってのはありがてえモンじゃねえか。おいらが馬鹿だったぜ」


 俺は白い世界で見た有翼の美女を思い出していた。

 胸は見られたものだったが、尻は絶壁だった気がする。


「しかし、すごい技だったな」


 袖の下に仕込んだ極細のワイヤーを魔力で操り、首をねじ切る。

 体格差をものともしない達人の技に超満員の観客席も沸きに沸いている。

 ワイヤーは武器ではなく道具だ。

 俺にも使えそうだな。


「よ、よかったな坊主。そいつが世に言うビギナーズラックだぜ。だが、世の中ってのは甘かねえ。おまえさんはついに一喜百憂の世界の入り口に立ったのさ。ま、せいぜい目ん玉かっぽじってよーく見やがるんだな、これから始まる地獄ってやつを」


 盛大なフラグが隣の席で立った。

 まあ、もう一回くらいなら付き合ってやるか。

 もちろん、本命のほうも疎かにはしない。

 魔力操作によって自分にバフをかける『身体強化』。

 幻影魔法による回避術『朧羽織り』。

 痒い所に手が届きそうな技が続々と登場して垂涎モノだった。


 面白いと思ったのは雷魔法を扱う拳闘士だ。

 紫電をまとった手で触れただけで、相手が卒倒する。

 スタンガン・パンチだ。

 これをワイヤーと合わせて使えば大きな武器になりそうな気がする。


『鉄線操術』:コスト5pt

『身体強化』:コスト7pt

『朧羽織り』:コスト10pt

『雷牙』:コスト5pt

 スキルポイント残高:170pt

 ――今日の収穫はこんなところだ。


「あぎゃあッ!」


「んごおおおおおおおおおおおおお……!」


 斬られた剣闘奴隷以上の断末魔が隣の席で上がった。


「おんごおおお! おいらの勘が。全財産がああ。なんだこれ、おかしいだろオオオイ……」


「賭けなんてそんなもんだ」


 などともっともらしいことを言う俺だが、膝の上には銀貨の山ができている。

 勝ちに勝ちまくり、ざっと10万クリスほどになるだろうか。

 日頃の行いかな。


「ばぶぅ……」


 おっさんは親指を根元までくわえて甘えるような上目遣いで俺を見ている。

 全財産を失ったショックで幼児退行したらしい。

 こうはなりたくないな。


「ほらよ」


 もらった小銅貨を利子込みで大銅貨にして返してやる。

 100円相当だ。

 それで一杯ひっかけたら帰って寝ろ。


『さぁーてお次はぁ、きゃわいいキャットファイトの時間だああああ!』


 超満員の闘技場に拡声魔道具で増幅された進行役の声が響き渡った。

 昇降機がせり上がる。

 奈落から姿を現したのは細身の少女だった。

 ピンクの髪を風になびかせ、長い尾が優雅に波打つ。

 遠巻きにも美少女とわかる顔立ちだった。

 憂いに満ちたその横顔はどこかキャッツ姉さんに似ていた。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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