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5 動きはとろそう。顔はブサイク。おつむのほうも犬以下だろう


「あっ、ケイさん」


 手裏剣をくるくる回しながら冒険者ギルドの掲示板前で依頼書を眺めていると、背中に声をかけられた。

 受付嬢がモップを持って立っていた。

 まだ小6か、せいぜい中1くらい。

 この世界では6歳で働きに出されることも珍しくはない。


 名前はなんだったか。

 たしか、リスだ。


「またゴブリンですか? 今月に入って、もう120匹ですよ。ゴブリン狩りすぎ注意報ですっ!」


「まずかったか?」


 魔物にも生態系とかあるのだろうか。


「いえいえ、狩り尽くしてくださって結構ですよ。でも、ゴブの人たち、最近用心棒を雇ったようですよ」


「用心棒?」


「なんと、あの『巨醜鬼』ことトロールです!」


 リスは小さな体を目いっぱい伸ばして怖い顔をした。


「雅称持ちか」


 強い魔物は異称を持っている。

 腕利きの用心棒を雇ったとなれば、たしかに注意報だ。


「俺では狩れないだろうな」


 自嘲気味に笑うと、近くにいた冒険者たちが非難めいた目を向けてきた。

 なんだろう?


「あーもう。またタバコのポイ捨てですぅ。自分でつけた火は自分で消すのがマナーなのに」


 リスは小さなブーツを床にこすりつけている。

 ただの愚痴だが、俺に向けられた言葉でもある気がした。


「……」


 なるほど。

 非難めいた視線と、リスが言わんとしていることの意味がわかった。

 俺のせいでトロールがうろついている。

 迷惑だから、自分で始末をつけてこい。

 と、そういうわけか。


 リスは笑顔だった。

 だが、俺を見上げる目の奥には恐怖の色がある。

 冒険者は乱暴者揃いだ。

 受付嬢なんてしていたら殴られることもあるのだろう。

 俺を刺激したくない。

 だが、意図は伝えたい。

 そんな幼くも涙ぐましい努力に俺はすっかり胸を打たれた。


 リスの頭に手を伸ばす。

 小さな肩がびくりと震えた。

 殴るわけないだろ。

 頭をなでながら俺は言った。


「リス、そのトロール、俺が片付けてこよう」


「……あの、わたしリリアナです。その女、誰ですか。ケイさん浮気してません!?」


 ホッとした様子でけらけら笑うリスあらためリリアナの笑顔は歳相応に無邪気だった。

 見ているとホッとする。


「でも、大丈夫なんですか? ケイさん、まだ駆け出しですよね? 上位の冒険者さんに討伐依頼を出すって手もありますよ」


「そんな金はない。だが、マナーは守る。それが良識ある大人だからな」


 そう大見得を切って王都を出た俺だったが、現在、茂みの中で顔を青くしているところだ。


「でっか……」


 トロールでかくね?

 森の木々と同じくらいの背丈だ。

 第一印象はデカイ。

 第二印象は巨大な水死体。

 ぶくぶくに膨れた青白い体は醜悪そのもの。

 特に尻と腹が異様にでかい。

 垂れ下がった腹が前掛けみたいになっている。


 動きはとろそう。

 顔はブサイク。

 おつむのほうも犬以下だろう。

 だが、あの巨体はそれだけで脅威だ。

 手持ちの毒で殺し切れるか微妙なところだな。


「ま、無理なら何回かに分けて仕留めるか」


 エリア移動を繰り返しながらヒット&アウェイでHPを削り切る。

 そういうプレイスタイルもある。


「ま、気楽に行こう」


 俺はたっぷり毒を塗った投げナイフを耳の後ろに構えた。

 俺は右利きだ。

 ナイフを右に持つ都合、立ち回りはトロールに対して時計回りになる。

 よって、優先度は右目>左目>脚。

 まずは右目を潰して死角を作る。


「おい、ウスノロ!」


「ヴオォギョ?」


 トロールは振り返って知性とは無縁の顔で瞬きをひとつ。

 その右目にナイフが吸い込まれた。


「ヴギョオオオオオオオオオオオオオオ」


 森を震わす大音声だった。

 地団駄で震度3が起きる。

 奴がパニックを起こしているうちが勝負だ。


 俺は茂みから飛び出した。

 第2候補の左目は手が邪魔で狙えない。

 よって、次は脚。


「『生駒抜き』――!」


 一直線に股下に飛び込み、最速の短剣術を振るう。

 すれ違いざまに足首の腱を断つと、巨体が膝を屈して轟音が響いた。


「よし」


 片足を潰した。

 これでいざとなったときでも逃げられる。


「っ!」


 振り返ったとき、そこには巨大な手があった。

 大きな手がおもちゃでも拾うみたいに伸びてきた。

 意外と速いな。

 俺は反射的に短剣術を使っていた。

『避迅斬り』――。

 蝶のようにひらりとかわす中でマチェットを振り抜く。

 大人の脚ほどもある指が2本、地面を転がっていった。

 また悲鳴が響く。

 うまくやった、という高揚感。

 でも、掴まれたら終わりという悪寒のほうが強い。


 そこから先は一寸法師VS鬼の対決だった。

 ひらりとかわしてチクリと刺す俺。

 トロールのほうは残った左目を守りながら片腕片脚での戦い。

 でかい赤ちゃんをいじめているみたいだった。


 とはいえ、ダメージはなかなか通らない。

 脂肪の鎧が厄介すぎる。

 マチェットの刃渡りでは太い血管まで届かない。

 そうすると、毒の周りも遅くなる。


「だっる……」


 初期武器で中盤の敵を相手にしている気分だ。

 明らかに攻撃力不足。


 30分ほどして、ようやく巨体が倒れた。

 ひいひい言いながら頭によじ登り、討伐の証の、うちわ大の耳を切り落とす。

 こいつの耳垢、汚物みたいな臭いだ。

 ナイフも脂でぎっとり。

 もう二度と関わりたくない。

 討伐できた達成感より、うんざり感のほうが数段上だ。


 さあ帰ろうか、というとき、枝が折れる音がして、いっせいに鳥が飛び立った。

 木々の枝葉を暖簾のように押しのけて、青白い巨人がぬうっと姿を現す。


「2体目か」


 用心棒が1体だけと決めつけたのは早計だったか。

 毒も投げナイフも使い切った。

 さすがに分が悪い。

 逃げる算段を――


「大剣技『風舞大刃かまいたち』ッ!」


 横合いから三日月のようなものが飛んできた。

 それは、数十の木々をたちどころに薙ぎ払い、森の中に空閑地を作り出した。

 悠然と佇立していたトロールの両腕がごどん、と落ちる。

 ヘソの上に斜線が走り、そこから上が横に滑って轟音とともに落下した。

 一撃だった。

 似たような光景をあの雨の晩も見た気がする。

 あのときは氷魔法だったが。


「よお、クソ雑魚」


 声の主は、大剣を軽々担いでいた。

『大剣の勇者』大淵麟児郎。

 オーブリだった。


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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