3 キャッツ姉さんとでも呼びな
俺の上に降ってきた美人は長い脚をバタバタさせて死ぬほど痛がっていたが、俺の視線に気づくと、くわえていたタバコを高楊枝にした。
地面に散らばった金貨やジュエリー。
それをサッと拾い集めて尻ポケットにしまい、まずいところを見られたわ、という苦笑いをする。
屋根から落ちてきたことも加味すれば、この女の職業をうかがい知れるようだった。
鮮やかなピンクの髪に、同じ色の猫耳と尻尾。
獣人族だ。
種族柄、背が高く胸が大きい。
ボンキュッボンという言葉がぴったりなナイスバディで、かっこいい系のお姉さんだった。
ただ、ブーツのつま先にカミツキガメみたいなものが食いついていた。
「あっはっは……。下敷きにしちゃったねぇ。逃げてる最中にネズミ捕りを踏んじゃったんだよ。ごめんね?」
「かっこ悪……」
全然かっこいい系ではなかった。
ドジっ子系だ。
この派手な配色でどうやら盗っ人をやっているらしいところが、またドジっぽい。
さて、逃走中ということは当然追っ手がいるわけだが……。
どかどかと屋根が鳴り、上のほうから男が2人顔を覗かせた。
衛兵だった。
「いたぞー! こっちだ!」
「おい坊主。その女は王城侵入の重罪人だ。捕まえるのに協力したら褒美が出るぞ!」
ほう。
それは、聞き逃せない情報だ。
俺は立ち上がって逃げ道を塞いだ。
路地は袋小路になっている。
「袋のネズミだな」
「アタシゃ猫だよ。窮鼠だって噛みつくんだ。猫を追い詰めたら八つ裂きにされたって文句言えないよ?」
女盗賊はニッと笑った。
両手の長い爪に力がこもるのがわかった。
そのとき、女盗賊の背後で蛇のようなものが動いた。
それは、赤い小石のようなものを投げつけてきた。
尻尾だった。
尻尾から投げられたものは俺の鼻っ面めがけて飛んでくる。
俺は顔をそらして避けた。
赤いものは壁に当たると、粉末に変わって霧散した。
色からして唐辛子パウダーを固めたものらしい。
「な、この距離で今のをかわせんのかい!?」
女盗賊は目を白黒させていた。
「アンタ、いい目してるね。判断も早い。そこ通してくれるなら、アタシの弟子にしたげるよ?」
「それは盗賊スキルを教えてくれるということか?」
「もちろんだよ」
俺はスッと道を譲った。
「あ、おい坊主てめえ!」
「逃走幇助だぞ! 一緒に焼かれてえか!」
衛兵はああ怒鳴っているが、俺は国王との間に遺恨がある。
王城から宝を盗み出した女盗賊は俺にとってヒーローみたいなものだ。
「なんと呼べば?」
「そうさね。キャッツ姉さんとでも呼びな」
「よろしく。姉さん」
ということで、俺は女盗賊に弟子入りしたのだった。
◇
「さっそくこれで酒買ってきな。一番度数の高いやつだよ」
「あー、わかった……」
「気のない返事だねぇ」
キャッツ姉さんは盗賊にしては目立つ容姿をしている。
日の高いうちは外を歩けないので、買い出し全般は弟子である俺の仕事となった。
「アタシはね、人より目端が利いて手先が器用で度胸があって体を動かすのが得意なのさ。お酒とお金が大ぁい好き。けど、かたぎの仕事は大っ嫌い。体も売りたくない」
「なんの話だ?」
「盗賊を始めた理由だよ」
「要するに、だらしないんだな」
「ま、そゆことさね!」
こんな奴でも盗賊としては一流らしい。
それは、盗賊スキルの数々を見ていれば一目瞭然だった。
「あんたもナイフ使い目指してんだろ。盗っ人の武器といやコレだよねぇ」
いつ盗まれたのか俺のナイフはキャッツ姉さんの胸の谷間を鞘にしていた。
やはり一流だ。
「短剣術も教えてやるよ」
「それはありがたい」
盗っ人というと聞こえは悪い。
だが、シーフはファンタジーの鉄板ジョブだ。
別に人の財布をスろうってんじゃない。
このへんは開き直って折り合いをつけることにした。
「アンタ、やけに物覚えがいいね」
「そうだろう」
俺もキャッツ姉さんから盗み返した。
スキルポイントを消費すれば、スキルはすぐに習得できる。
だいたいの技を一目で盗めるから天才になった気分だ。
「アタシの教え方がいいのかしら……」
キャッツ姉さんはしきりに首をかしげていた。
とはいえ、スキルポイントには上限がある。
一度消費すれば戻ってこない。
本当に必要な技だけを選んでいくのがミソだ。
そうして、あっという間に数日が過ぎ、衛兵たちの目も幾分か和らいできた。
「最後に奥義を伝授したげる。――あっはーん!」
「色仕掛けかよ」
「悩殺術と呼びなさい」
「俺がやったら露出狂だ」
俺は内心いいものを見たと満足しつつ、キャッツ姉さんにここ数日分の感謝を述べた。
習得したのは、短剣術全般と盗っ人七技――『抜盗術』『逃走術』『忍び足』『鍵開け』『潜伏』『壁走り』『目利き』。
「アンタもこれで立派なクソ野郎だね」
キャッツ姉さんも満足げだった。
「あ、そうだ。アタシ、妹を捜してんだった。見つけたら拾っといてくれるかい?」
「猫みたいに言うな」
「そんじゃ、よろしくね!」
投げキッスを残すと、キャッツ姉さんは夜の闇に溶けて消えた。
自由人だな。
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