21 ふおお……
10日ぶりに王都に帰ると、表通りは人であふれ返っていた。
七色の紙吹雪が舞う中を巨大な竜の頭が引かれていく。
晶峰竜討伐を祝して盛大にパレードを行っているのだとわかった。
華やかなオープン馬車の客室にオーブリとナガツの姿がある。
二人とも断頭台に向かう死刑囚みたいな浮かない顔で、機械的に手を振っていた。
人の手柄で祝福されても嬉しかないわな。
ご愁傷様。
「ケイ様が討伐したのに……」
ペルセーニャは尻尾の毛をぶわっと逆立てていた。
今にも、やんのかステップを始めそうだ。
衛兵にとっ捕まる前に、俺はペルセーニャの襟首を掴んで裏通りに連れ込んだ。
「大人の事情ってやつだ。名誉じゃケツも拭けない」
とはいえ、10億は欲しかったな。
10億あってもノルマは消えないから、どっちみちゴブリンを倒す日々になると思うけど。
「お、お前、左腕は?」
行きつけの武器屋に顔を出すと、店主が真っ青な顔をした。
「竜に食われた」
「りゅ、竜に!?」
「とりあえず、前のと同じマチェットをくれ」
明日からまた1匹250クリスのゴブリンを狩って、地道に治療費を返済しないと、だ。
隻腕だと手こずりそう。
お先は真っ暗だが、絶望感とかはない。
まがりなりにも強敵を打ち破ったという自負があるからだろう。
ゴブリンくらい、なんとかなりそうな気がする。
「マチェットもいいが、お前にはもっとお似合いの武器があるぜ。ギルドに顔出してみな」
店主は訳知り顔でそう言った。
そして、珍しく屈託のない笑顔を見せた。
「おめでとさん! 大偉業だな!」
この様子だと晶峰竜を討伐したのが誰か知っているようだ。
「おっと。ウチのナイフで討伐してくれたわけだしな。なんかサービスしてやらねえとな」
店主は店の奥でガタガタと音を立てていたが、ほどなくして戻ってきた。
鎧の左腕部を持っている。
「隻腕だと舐められっぞ。冒険者を専門に狙う山賊もいるからな。これをくれてやらぁ」
「礼しか言わないぞ?」
「十分だろ、ハハッ。別に礼もいらねえよ」
さっそく腕を突っ込んでみた。
俺の左腕は肘の先で途切れている。
いちおう肘を曲げることはできるが、手首や指は動かない。
「……」
ワイヤーを巻き付けて固定するか。
と思ったところで、俺はふと光を見た気がした。
人間が手足を動かせるのは、筋肉が収縮し骨格を動かしているからだ。
骨はなくなったが、骨格はある。
この鎧がそうだ。
あとは筋肉があれば動くのが道理。
そして、俺には『鉄線操術』という便利スキルがある。
試しに指にワイヤーを通してみた。
ワイヤーに魔力を流し込み、息を呑んで見守る。
動け動け動け……。
死体みたいに力なく手のひらをさらしていた左腕部がギギッ、と音を立てた。
そして、――ぐんっ。
いびつなグーになった。
ペルセーニャと店主が声にならない声で歓喜した。
続いて、別のワイヤーを引く。
すると、握り拳は伸展してパーになった。
ぐっぱー、ぐっぱー。
チョキは……さすがに難しいか。
でも、ワイヤーの張り方を工夫すれば、不可能ではない気がする。
握力も右手よりずっと強いくらいだ。
「ふおお……」
俺は柄にもなく喜びの声を上げた。
『魔爪』を生やすのは無理だが、ナイフは握れる。
戦える。
急に未来が開けた気がした。
「見ろよ、ペルセーニャ。もう左腕はいらないみたいだな」
「ニャぐ……。け、ケイ様。左腕は2本あってもいいと思います! なんなら私、2本目の右腕もやりますから」
俺の背後に回って千手観音みたいに腕を振るペルセーニャであった。




