2 やっぱ俺にはナイフしかないのか
「セイノ・ケイ。貴様などいらん。もう死ねアホ」
国王はそう言って俺を追い出した。
勇者は聖武器に導かれて異世界に降り立つらしい。
逆に言えば、聖武器を所持していれば、勇者を呼び寄せることができるということ。
それを俗に『召喚』と呼ぶそうだ。
クリストンベルグ晶王国は4つの聖武器を保有していた。
『大剣』『長杖』『魔導書』、そして、『聖剣』。
大剣枠がオーブリで、ナガツが長杖枠。
魔導書枠で野呂本賢治が召喚された。
残った聖剣枠が俺。
……と、なるはずだった。
異世界転移の興奮冷めやらぬ中、俺はドギマギしながら聖剣に触れた。
直後、強烈なスタンガンでも食らったみたいに弾き飛ばされた。
聖剣に拒絶されたのだ。
それが、俺が追放されるに至った顛末だった。
聖武器を装備できるのは、勇者だけ。
そして、勇者が装備できる武器も聖武器だけ。
そう決まっているらしい。
理由は知らん。
海水がしょっぱいのと同じで、そう決まっているからそうなのだろう。
唯一の例外はナイフだ。
これはオーブリやナガツでも装備できた。
おそらく、サブ武器枠とかがあるのだろう。
サムライで例えてみよう。
刀を聖武器として所持し、予備として脇差を持つ。
まあ、理屈はなんだっていい。
要諦はこうだ。
俺はナイフしか装備できない――。
この一点に尽きる。
「あぐ……っ」
武器屋に並べられた剣に触れた途端、俺は電撃を浴びた猫みたいに跳ねた。
勇者が聖武器以外の武器に触れると、こうして拒絶反応が出る。
聖武器と勇者は相思相愛。
だから、浮気すると引っぱたかれるのだ。
厄介なことに、正妻のいない俺にもこの制裁は適応される。
よって、俺はサブ武器のナイフしか装備できない境遇に置かれていた。
「おいクソガキ。売りもん落としてんじゃねえよ。刃こぼれしてたら弁償だからな」
「不注意だった」
俺は落とした剣を拾い上げて店主に返した。
装備するという意識で触れると弾かれるが、こうして単に移動させるだけなら勇者にもできるようだった。
「やっぱ俺にはナイフしかないのか」
俺はお世辞にも業物とは言えないナイフを手の中でくるりと回した。
冒険者登録をした折、受付で借りたものだ。
大量生産品らしく、この店でも同じものが投げ売りされている。
ゴブリンの血で早くもサビが浮いていた。
「なまくらめ」
こんな武器では魔物と戦えない。
だが、戦わないわけにもいかない。
女神は勇者にノルマを課した。
魔物――すなわち、「魔王の眷属」を一定数以上倒す必要があるのだ。
ノルマを果たせなかったらどうなるのかはわからない。
だが、無能と判断された者がどんな目に遭うか、俺は先刻承知済みだ。
今度は世界そのものから追放されるかもしれない。
そうなれば、行き先は天国か地獄か。
あまり考えたくはない。
こんな俺だが、いちおう救いもある。
スキルポイントの存在だ。
これは勇者のみが持つもので、これを使えば技能や武技、魔法を瞬時に習得できる。
女神は1人につき300ptずつ付与されると言っていた。
ただし、ここから初期コストが差し引かれる。
・女神の加護『異界語翻訳』:コスト20pt
・女神の加護『魔力付与』:コスト20pt
・女神の加護『魔力操作』:コスト10pt
・女神の加護『聖武器装備』:コスト200pt
合計250ptが初期コストとして引き落とされる。
よって、自由にできるスキルポイントは50ptしかない。
「ステータス・オープン」
しかし、俺のステータス画面には『聖武器装備』が載っていない。
俺が聖剣を装備できなかったのは、女神の加護を受けられなかったためらしい。
よって、俺の初期コストは50ptのみ。
幸か不幸か、俺には250pt分の余裕があるのだ。
ほかの勇者の5倍もスキルを習得できる。
これは、みんなにはない俺だけの強みだ。
窮地を打開する鍵もここにあるだろう。
魔法は杖がないと極端に威力が落ちるらしい。
だから、選択肢に入らない。
俺の武器はどこまでもナイフだけ。
ナイフで魔物退治となると、差し当たって、
「剣技、とか?」
王都にある剣術道場の前で俺は難しい顔をする。
入門料:5000クリス。
月謝:1万5000クリス。
剣技の伝授:1技につき10万クリス。
――とある。
ちなみに、俺の所持金は250クリス。
ゴブリン討伐1匹分の報酬だ。
「フッ」
俺はひとつ笑って、算数ができない子の設定で門戸を叩いた。
ナイフ用の剣技を教わりたい。
でも、金はない。
だから、住み込みで雑用をさせてくれ。
いかめしい顔の師範にそう告げる。
「お前はあれか? アホの子なのか?」
師範はムキムキの腕を組み、その上から同情の目で見下ろしてきた。
「剣術のスキルを身につけたいがナイフしか使いたくねえ、金も払いたくねえってか」
「そうだ」
と俺は胸を張った。
アホさが数段増したのが自分でもわかる。
「はあ。そもそも、あのな? 剣とナイフはまったく違うんだよ。お前はパン屋にパスタの作り方を聞いてやがるイカレ野郎だ。帰れ」
圧倒的正論に真っ向から打ちのめされた俺はすごすごと退散した。
もう俺はこのまま野垂れ死ぬしかないのだろうか。
路地裏で絶望していると、ダッダッダ、と上のほうから足音がして、屋根を踏み抜いた何者かが屋根瓦と一緒に降ってきた。
絶世の美女だ。
と思った次の瞬間、
「ぐやッ!?」
俺は大きな尻の下敷きになったのだった。
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