13 どーよ……
「あんたかよ……」
リリアナが連れてきたのは、全体的に情けない雰囲気のおっさんだった。
その熟柿顔には見覚えがある。
せんだって闘技場で隣席になったダメ親父だ。
今日も酒と敗北の臭いを色濃く漂わせている。
リリアナは、ばばーん、と効果音を発しながら言った。
「二ツ星冒険者のゼンベット・アルコスキーさんです! 晶峰竜に詳しいことと借金だけはしないのが数少ない取り柄なんですよ!」
「へえ。破産とヤケ酒以外にも取り柄があったのか。すごいおっさんだな」
「ぐふ。ご両人、ずいぶんなご挨拶じゃねえか」
ガキ二人になじられて、ゼンベットは酔いが醒めたようだった。
リリアナが冒険者ギルド2階に個室を用意してくれたので、そこで話をする。
ゼンベットは茶も出ねえのか、とボヤきながらスキットルをあおり始めた。
こいつで大丈夫なのか?
「おいらはな、飲み代と賭ける金欲しさに何べんもあの山に登ってんのさ。奴の巣にゃ、剥がれた鱗やら抜け落ちた牙やらがたんまり落ちてやがるのよぉ。そいつを拾い集めて売りさばく。これがおいらの商売よ」
「全体的に小者臭いな」
「ほっとけやい」
しかし、そんなでも俺より稼ぎはいいらしい。
ゼンベットの節くれだった指には金の指輪がごちゃついている。
ところどころ金歯で、襟元にも耳にも光物が見える。
俺の視線に気づいてゼンベットはニヒッと歯を金光りさせた。
ちょっと負けた気分。
「でぇ、なんでまた晶峰山なんぞに登ろうと思うんだ?」
俺は、ペルセーニャが恩人の妹かもしれないことを正直に話した。
様子が気になるから、こっそりついて行きたい。
案内役がいると助かる。
ゼンベットは赤くなった顔でうなった。
「なるほど合点だ。するってえと要するに、こういうこったな? 好いてる女のことが心配で夜も眠れねえ。だから、ついて行きてえと」
「どうしてそうなる?」
「かあーっ! 泣かせる話だねえ。おいら目頭にジンときたぜ」
酔うと涙もろくなるのかゼンベットは目を潤ませている。
まあ、理屈はこの際なんでもいい。
で、返答は?
「おめえさんには銀貨を山ほどもらったしな。それに、ちょうど遊ぶ金が欲しかったとこだぁ」
もらった銀貨を使い果たしたと白状したに等しかった。
あえてツッコミは入れないが。
「それに勇者サマが戦うとこも見てみてえ。きっと闘技場がお遊びに思えるような世紀の大決戦になるぜぇ。なんせ相手は王国最強生物と名高けえ晶峰竜だかんな。酒持って行かねえと」
ゼンベットは気前よく机を叩いて言った。
「いいぜぇ。おいらが安全な登山道を案内してやんよ。大船に乗った気でいな」
そうして、何事もなく数日が過ぎたある日、勇者による晶峰竜討伐が国王の名のもとに布告された。
王都がその話題で持ちきりになる中、討伐隊の出陣式が盛大に執り行われた。
討伐隊の陣容は、総勢24名。
内訳は、勇者オーブリ率いる勇者パーティーが6名。
勇者ナガツとお付きの騎士隊が12名。
その他、荷運びや馬見役など非戦闘員5名。
そして、剣闘奴隷1名。
ソロ冒険者の俺目線では大所帯だ。
それでも、軍事行動という観点から言えば、かなり小規模。
過去には300名もの将兵を送り込んで全滅の憂き目に遭っている。
そこからも勇者の戦術的価値が見えるようだった。
「頑張ってくださいね、ケイさん! 奮闘に期待してます!」
王都の出入り口――城門前広場でリリアナにそう言われた。
受付嬢がほかにも数名見送りに来てくれた。
先刻出発した討伐隊に比べると寂しい門出だが、美女揃いだと悪い気がしない。
隣ではゼンベットがだらしない笑みを浮かべている。
「奮闘と言われてもな、俺には戦う度胸も能力もない。物見遊山だぞ?」
「いいんですよ、それで。さも討伐に貢献しましたって顔で帰ってきてください。ギルド側でそれっぽい武勇伝を考えておきますので」
「どーよ……」
俺は肩を竦めた。
リリアナがトテテ、と駆け寄ってきて俺の手を取った。
「でも、もし勲章ものの大活躍をしてくださったら、わたし、ケイさんのお嫁さんになってあげます! それが報酬です!」
「10年経ったらまたトライしてくれ」
「えー! ケイさんのいけずぅ!」
きゃんきゃんと小うるさい声を背中に聞きながら、俺は城門の外に踏み出した。




