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12 ポッと出の勇者様にかっさらわれるのは気に食わないんですよ、正直


「リリアン、晶峰竜について教えてくれ」


 冒険者ギルドに乗り込むや、俺は一番小柄な受付嬢を捕まえてそう言った。


「う、えっと、上から93・54・96です!」


 リリアンはいくぶん取り乱した様子でそう答えた。


「いや、スリーサイズではなく」


「わたしだってリリアンじゃないですよ。リリアナです。ケイさんったら、また新しい女を作ったんですか、この浮気者めぇ」


 小さな拳でぽこぽこされた。

 そして、手を引かれて受付カウンター横の柱の陰に連れ込まれる。

 まあリリったら大胆ね、などと同僚の受付嬢らがはやし立てている。

 リリアナは幼い顔を赤くした。


「ところで、ケイさん。晶峰竜の件、トップシークレットなんですけど。どこから聞きつけて来られたのですか?」


「おっと。秘密だったか」


「はい。ギルマス直々に職員を集めて箝口令を敷いたのが今朝の話です」


「それでスリーサイズを暴露してまで誤魔化したのか」


「も、もちろん嘘のサイズですからね!?」


「それはまあ一目瞭然だな」


「ふぎゅ……」


 リリアナは平たい胸を抱えて涙目だ。

 ちなみに、この世界の単位は『異界語翻訳』の加護により国際単位系メートルやキログラムに自動変換されている。

 コスト20ptはダテじゃないのだ。


「誰かうっかりしゃべってしまったんでしょうか。王命を漏らすなんて鞭打ちじゃすみませんよ」


「ああいや」


 俺が顔を近づけると、リリアナは照れたように目を泳がせた。


「実はな、勇者本人から聞いたんだ」


「え!?」


 俺が勇者であることは黙っておく。

 話したところで笑われるのがオチだしな。

 あまり深く突っ込まれても困るので、さっさと話を進めよう。


「それで?」


「晶峰竜というのは、あそこに住んでいるすっごく強いドラゴンさんのことですね」


 リリアナは窓の外に目を向けた。

 王城が見える。

 その向こう側に大きな山がそびえている。

『晶峰』クリストンベルグ山。

 国名の由来にもなった山で、なんとクリスタルでできているらしい。

 山体は灰白色。

 遠目には巨大な塩の山に見えるが、近くで見るとまた違うのだろう。


「勇者が討伐に駆り出されるということは魔竜種なのか?」


「それが、通常種なんですよね。だから、人里を襲うようなこともないんです。山から下りてきたことも一度もなく、お山の上で日がな一日のんきに魔石を食べて過ごしているみたいですね」


「じゃあ、討伐する必要はないのか」


「うーん。どうでしょう。国はもう100年以上も前から莫大な賞金を懸けていますからね」


 リリアナは賞金首を張り出した掲示板に目を向けた。

 背中から六角水晶を生やした竜に10億クリスの賞金がつけられている。


「晶峰竜がテリトリーにしているあの山には大規模な魔石鉱床があるんですよ。大掛かりな開発を行うとなると、どうしても山頂に住む晶峰竜が障害になるんです」


「なるほど」


 小難しい言葉を使うリリアナがおかしくて、俺は顔に出さない程度に笑った。

 それでも、リリアナには伝わったようだった。

 赤くなった顔を隠すように窓のほうを向き、こほんと咳払いした。


「えー、文献を読み返すとですね、晶峰竜の名が最初に出るのは実に300年も前のことなんです。以来ずっと山の頂を縄張りにしているんですよ。潤沢な魔石資源を巡って名だたる冒険者パーティーが幾度となく討伐に乗り出し、晶王国軍の派兵も何度かありました。しかし、いずれも大損害を受けて壊走しているんです。晶峰竜が王国最強と呼ばれる所以ですね。わかったかね、ケイ君さん」


「破軍の竜か」


 と畏怖の念を抱きつつ、俺は、わかりやすい説明をありがとうございます先生、と冷やかした。


「せ、先生じゃありませんよ。もぉ、からかわないでくださいー! ケイさんのばかぁ!」


 またぽかぽか叩かれた。

 そして、リリアナはふと表情を消して白い山を見上げた。


「晶峰竜って存在そのものがある意味国辱なんですよね」


「国軍を退け、国のてっぺんに君臨する竜……。たしかに国王からすれば目の上の瘤だな」


 富士山の山頂に別の国があるようなものだ。

 遥かなる高みから見下ろされては、王城の主も面目が立たない。


「国王としては、晶峰竜を下して、我こそはこの地の覇者なりと諸国万民にあまねく示したいわけだ」


 俺は玉座の間で見た男を思い出していた。

 ハゲ頭に王冠を載せた、稽古不足の力士みたいな醜男。

 玉座にケツがハマって動けないのか、移動するときは神輿を担ぐように玉座ごと運ばれていた。

 第一印象は、高そうな豚。

 お世辞にも賢王といった顔立ちではなかった。


 魔石資源は建前。

 本音は晶峰竜憎しなのではと思えてくる。

 冒険者も軍も駄目だった。

 だから、勇者を差し向けるのだ。


 魔竜種ではないから、討伐してもノルマにならない。

 タダ働き同然だ。

 乗り気だったオーブリはともかく、いいように使われるナガツは災難だな。


「晶峰竜のことならゼンベットさんが詳しいですよ。登頂ルートも熟知していますから案内役を買って出てくれるかもしれませんね」


 いたずらっ子な笑みを浮かべてリリアナが俺の顔を見上げている。


「案内役って。王命で箝口令じゃなかったのか? そそのかしているような気配を感じるのだが」


「だってだって晶峰竜討伐は冒険者ギルドにとっても悲願なんですもん。ポッと出の勇者様にかっさらわれるのは気に食わないんですよ、正直」


「ほんと正直だな」


「そ・こ・で、です! 偶然たまたま通りかかったナイフ使いの誰かさんが片手間でチョチョイと倒してくだされば嬉しいなぁとか思っちゃいます!」


 ほかの受付嬢が受付カウンターの奥でうんうんと頷いた。


「あんなところを偶然通りかかる奴がいるか」


 国軍を退けた無敗の竜をチョチョイと倒すのも現実的ではあるまい。


「そりゃわたしだってケイさんなんかに期待してませんよ。駆け出しの一ツ星冒険者ですし」


「ふぎゅ……」


 俺はリリアナを真似てショックを受けたフリをした。

 冒険者ランクの最上位は、五ツ星。

 一ツ星は最底辺だった。


「最終的には勇者様が倒してしまわれるのでしょう。でも、少しでいいんです。偶然たまたまその場に居合わせた冒険者が晶峰竜討伐にちょこっとでも貢献したという事実が欲しいんです。それで当ギルドのメンツも守られますから」


 またしても受付嬢らがコクコクと頷く。

 冒険者界隈には権力の支配を嫌うアウトローな気質がある。

 内心、王命に反感を持っているのだろう。


「ところで、ケイさんはどうして晶峰竜にご興味を?」


「俺は……」


 ペルセーニャが気がかりなだけだ。

 俺みたいなポンコツ勇者が曲がりなりにも生計を立てられているのはキャッツ姉さんのおかげだと思っている。

 その妹かもしれないペルセーニャが死地に赴こうというのだ。

 奴隷という立場を思えば、気になって当然だ。


「そのゼンベットという人物を紹介してくれ」


「喜んで!」


 リリアナは今日一番の笑顔で敬礼していた。


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