校庭の砂を集めて教頭先生を助けよう!
月曜日の4時間目、3年1組は体育の授業だった。
いつも教えてくれるのは、教頭先生だ。子どもたちは、教頭先生の体育が好きだった。陽気な音楽に合わせて変なたいそうをしたり、時間の半分を使ってドッジボールや鬼ごっこをさせてくれたりするからだ。時には、体育館いっぱいにマットを引いて、ヨガのまねごとをした。
この日は、校庭でキックベースをすることになっていた。子どもたちは教室でさっさと着替えると、走って校庭に出た。
ところが、チャイムが鳴ってしばらく経っても、教頭先生はやってこなかった。心配になった学級委員のコウヘイとスズナが職員室に先生を探しに行ったけれど、いなかった。そこにいた別の先生によると、教頭先生は朝から学校に来ていないらしい。
がっかりした2人に、その先生は
「教頭先生の代わりに、他の先生が教えにいくから」
と約束した。
2人が校庭に戻ると、クラスメイトたちはタイヤ跳びでじゃんけん競争をしていたが、教頭先生の不在を告げるとみなしょんぼりした。
「先生、病気なのかなあ」
「金曜日は元気だったよ。お家に帰る時も旗振ってくれたもん」
「先生のかわりにだれが来るんだろう?」
それからわいわいと、どの先生が来るのかあてっこをした。担任のミヨコ先生だと言う子がいれば、いつもジャージを着ているサワミ先生だと言う子もいた。
けれど、やってきたのは、だれも知らない女の先生だった。
その先生は、真っ黒なジャージを着て、長い黒髪を背中にたらしていた。とても美人だけど、目をつり上げて怒っているようだった。子どもたちは、自然と固まってその先生をまじまじ見つめた。
女の先生は、つかつかと子どもたちに近づくと、こわい声で言った。
「教頭先生は、わたしが捕まえました」
子どもたちはびっくりして、ささやき交わした。けれど先生がぎろりとにらみつけ、また言った。
「今は、だれにも見つからないところに閉じ込めています。だから、あなたたちの授業にはもう来れません」
スズナが、勇気を出して手を挙げた。
「先生はだれですか? どうして、教頭先生を捕まえたんですか?」
先生が答えた。
「わたしは、魔法の先生です。ふだんは、あなたたちの前に出てくることはなく、魔法使いや魔女の子どもたちに授業を教えています。けれど、先週の金曜日、酔っぱらった教頭先生がわたしのたいせつな水晶玉を粉々に割ってしまいました。教頭先生を捕まえたのは、その罰です」
「水晶玉で、未来を見るんですか?」
本を読むのが好きなミユウが質問した。
「そうです。未来だけでなく、何でも見ることができたのです」
「教頭先生は、どこに捕まっているんですか?」
と、体育が大好きなユウト。
「それは、秘密です。だれにも見つけられないでしょうね、ほっほっほ」
魔法の先生は、声をたてて笑った。子どもたちはぞっとして、押しくらまんじゅうをする時のようにぴったりとくっつきあった。
コウヘイが、おそるおそる手を挙げた。
「どうしたら、教頭先生を許してくれますか?」
魔法の先生は、じろりと子どもたちを見回し、言った。
「水晶玉が元通りになったら、考えてあげましょう」
子どもたちは、ほっとした。希望が見えた気がしたのだ。ああ、だけど、どうやって壊れてしまった水晶玉を元に戻せばいいのだろう?
魔法の先生は、子どもたちがまた質問攻めにする前に、宣言した。
「では、わたしはもう魔法の学校へ帰ります。クロネコやコウモリに、跳び箱を教えなければなりません」
そして、くるりと背を向け、校舎へ帰っていった。
コウヘイとスズナは言った。
「水晶玉を、見つけよう!」
そこで、子どもたちは校舎の周りに散って、めいめい水晶玉らしきものを探した。何人かは、ガラスのゴミが捨ててあるゴミ置き場を探した。頭がよく回るタケシは、先生たちの駐車場を探した。先生たちはよくそこに車を置いて、近くの居酒屋に飲みにいくからだ。
けれど、水晶玉らしきものは、ちっとも見つからなかった。
大人しいミキが、校舎の前のたんぽぽの茂みや石段の下を探していると、不意にやさしい声がした。
「わたしたち、水晶玉がどこにあるか知ってるよ」
はっとして見上げると、そこには男の子と女の子の銅像が立っていた。2人はまっすぐに校庭を見つめ、指を差していた。
「粉々になった水晶玉は、校庭にばらまかれたんだ。わたしたち、それを見ていたよ。きらきら光る透きとおったかけらがたくさん散らばっているから、それを全部集めるんだよ」
ミキはおどろいたけど、
「ありがとう」
と言って、みんなを呼びに行った。
さあ、そこからはみんなおおいそがしだ。3年1組の30人で、校庭をいっしょうけんめいに探した。茶色や灰色の砂を、さらさらっと手ですくって、その中にきらりと光る粒を少しずつより分けた。
「がんばれ、がんばれ」
応援するのは、学校で飼っているハトや、ノラネコだった。みんな、教頭先生が好きなのだ。
どんどん時間がたって、このままだと給食の時間が来てしまう__そう不安になったコウヘイが、校舎の壁の大きな時計を見上げた。だけど、時計の針は、ちっとも動いていなかった。
「がんばれ、がんばれ」
きらきらのかけらは、水でぬらしたタオルの上にのせた。それを手先が器用なサエやユメノ、ユイカたちが、なんとか玉の形に組み立てようとした。かけらは米粒のように小さく、ちょっと風が吹いただけでもすぐに飛んでいきそうだった。
「あー、もうやだ!」
ヒロシがとうとう、砂の上にだらんと寝転がった。かけらを探すことに疲れてしまったのだ。つられて何人もの男子が、まねをした。
「ちょっと、まじめに探して!」
女子が怒る。でも、彼女たちも本当は休みたいのだ。
コウヘイは、にらみ合う男子と女子を見て、言った。
「疲れたら、ヨガだよ」
そこで、みんな休憩して、教頭先生が教えてくれたヨガをした。ヘビのポーズ、ネコのポーズ……。
ヨガの後は、またひたすらみんなでかけらを探し続ける。いつのまにか、応援していたハトやノラネコたちが集まって、かけら探しに加わってくれていた。
どれくらい時間が経っただろうか。子どもたちがすっかり汗だくになったころ、タオルの上に水晶玉のかけらの山ができていた。
「もう、全部集まったかなあ」
「きっと大丈夫だよ!」
「でも、どうやって元の水晶玉に戻すの?」
だれかの言葉に、みんなはっとした。割れたかけらを集めることはできるけど、そこからさらに元の玉にするのは、めちゃくちゃ難しいことだ。
「パズルが得意な人!」
スズナの問いかけに、何人かが手を挙げた。だがその時、ふとナオがあたりを見回した。
「あれ、イノリがいない」
イノリという、元気の良い女の子が、いつのまにかいなくなっていた。
みんな何となく不安になって、イノリを探したり、大声で呼んだりした。そうしているうちに、イノリが校舎から帰ってきた。
なんと、彼女の後ろには、あの魔法の先生がついてきていた。
魔法の先生は、急に静かになった子どもたちを見下ろして、たずねた。
「水晶玉は、見つかりましたか?」
「は、はい」
スズナとコウヘイは、タオルにくるんだ水晶玉のかけらをおずおずと差し出した。
「これですか?」
魔法の先生は、無言でそのかけらを見た。そして、おもむろに右手をかざし、一瞬でかけらを水晶玉の形にした。
つるんとした水晶玉は、すきとおっていて、地面に光る影を落としていた。みんな、思わず「おおー」とためいきをついた。
「まあ、水晶玉は元に戻ったのだから、許してあげましょう」
魔法の先生が言った。子どもたちはわっと歓声を上げる。
「教頭先生は、どこにいるんですか?」
魔法の先生は、微笑んだ。
「自分たちで見つけてごらんなさい」
そして、子どもたち1人1人を呼んで、水晶玉をのぞかせた。何も見えない子が大半だったけど、昼寝が好きなトモヤと、おしゃべり好きなアヤだけは違った。
「牛乳びんがいっぱい並んでいるのが見えます」
2人とも同じことを言ったので、子どもたちは連れだって給食を作る部屋に行った。そこに、すっかり洗って後は業者に出すだけの牛乳びんが、ずらりと並んでいた。
並んだびんの中で、ただ1つだけしっかり栓をしめたびんがあったので、力持ちのユウタが代表して栓をあけた。
ポンと音がして、子どもたちの目の前に、教頭先生が現れた。先生はネクタイをゆるめた、だらしないかっこうをしていたけれど、すっかり酔いがさめた顔で、照れくさそうに頭をかいた。
「みなさん、ありがとう」
子どもたちは大喜びで、教頭先生を取り囲んだ。そして、みんなで校庭に出て、残りの時間いっぱいキックベースをした。
それ以来、教頭先生はお酒を飲みすぎるのをやめたらしい。子どもたちは相変わらず、教頭先生のことが大好きだ。そして時々、学校で魔法の先生を見かけると、元気よくあいさつをするのだった。




