ピグミー小人とクロノス
予言を司る偉大な地母神ガイアの息子、農耕の神クロノスは、その高い背を揺らしながら近所の林に赴きました。
豊かな低木林の地が、原初の神のせがれを迎え入れます。
クロノスは川のせせらぎを聞き取りました。
林へと続く木々から、小鳥がさえずる声も聞こえます。
長身の神は梢の入り口に立ちました。
ふと、地面の下から声が聞こえました。
モグラではありません。アリでもありません。ミミズでもありません。
確かに地面から声がします。
鍬と鎌の神クロノスはその巨大をかがませて、耳をそばだてました。
かすかな歌が聞こえてきます。
それが段々に近づいて来ました。
やがて一人の小人が、クロノスの耳の穴のすぐ近くに飛び出してきました。
「わあ!」
「おお!」
二人が叫んだのは同時でした。
彼らは互いにまばたきをし、そしてまた、同時に自己紹介をしました。
「私はクロノス。君は誰?」
「僕はピグミー。君は誰?」
そうして互いに話す言葉が同じな事に驚き、そして喜び合いました。
「君達は昔話によく聞く小人かい? 寝ている間に靴とか上着のボタンを直してくれる小さい奴らかい?」
言った後でクロノスは付け加えました。
「小さい奴らなんて失礼な言い方だね。済まない。」
ピグミー小人は勤勉な神クロノスに答えて言いました。
「とんでもない。僕は君に会えて光栄だよ。君の様に大きなものと会話が通じるなんて知らなかった。それは今日の喜びで、そして明日の喜びでもあるだろうよ!宜しければ僕の家でもてなしするよ!ついておいで!」
と、ピグミーは自らの住居を指します。
クロノスの握った拳がようやく入るほどの、小さな地面に空いた穴でした。
黒い太陽クロノスは首を振りました。
「君の大きさは私にとって等しくない。私の大きさは君にとって等しくない。よって生業によって場所を交えるにふさわしくない。」
小人は目を見張り言いました。
「何て難しい物言いだ! あなたはとっても頭が良いんだね!」
賢明なるクロノスは答えます。
「いかに賢くても、僕は君の家に入ってもてなしを受けることが出来ない。賢さは時に無力だね。」
「もしも良ければ」
とピグミー小人は言います。
「僕の父親を連れて来るから、そしたらお話をしようよ。僕の父さんはね、珍しい話とかが好きなんだ。」
「いいね。私に父親はいない。母ガイアが私達を育てた。」
とクロノスは言いました。
「その点においても、私達は等しくないね。」
ピグミーは慌てたようにして、巣穴に駆け込んで行きました。
静寂の睡蓮クロノスは黙ってそれを見送りました。




