ガイアと4人の息子
女神ガイアには4人の子供がいました。
母たる神ガイアはいつでも、息子たちの事で頭を悩ませていました。
次男クレイオスはその頑迷さとワガママで、いつも母を困らせていました。
彼は初めから老人の様にしわくちゃで、髭を生やした顔で産まれました。
そして目に見えるもの全てにワガママを言い、文句をつけました。
しかし星を見るのは好きでした。
彼は星と星とを結び合わせて絵を作りました。
「あれは熊に見えるぞ!あれは牛だ!」
彼は星座を作りました。
そして頑迷なるクレイオスは自分が定めた星の見方を他者に強制し、押し付けました。
「あの星の並びがサソリだなんて考えられない!見方によるじゃないか!」
あるものがこう言いました。
クレイオスは激怒しました。
「あれはサソリだ!お前の目は魚の眼か!それとも鶏の目ん玉なのか?お前の頭はどうかしてるぞ!あれはサソリなんだ!私が決めたんだ!」
クレイオスは他人の意見に耳を傾けません。
それどころか自分のものと違う考えを持つ者を罵り、酷く責め立てました。
クレイオスはいつも一人。
夜になると星空を見あげてブツブツと独り言を言います。
「あの星とあの星が、いや違うぞ…」
ガイアはそんな次男を見て、ため息をつきました。
そんなクレイオスと同じに、末子のハイペリオンもガイアの悩みの種でした。
「皆が僕を見下している!」
ハイペリオンは言います。
彼はチビでした。
他の神々の半分の背丈。
彼は見下されるのを極度に恐れました。
「お母さん、お母さん! 宮殿が欲しいんだ。高ーい、高ーい塔の上に僕は住みたい。そうしたら僕をバカにしてきた奴らを逆に見下して、バカに出来るんだ。」
ガイアはハイペリオンの為に宮殿をこしらえました。
空の上に浮かぶ、白い城壁を持った尖塔が並ぶ宮殿。
その一番高い塔で、ハイペリオンは地上を見下ろします。
その高慢ちきな顔を下から見上げて、ガイアは深い溜息をつくのでした。
そして。
ガイアにはまた、この2人など問題にならないくらい、大きな心の苦痛の元になっている息子がいました。
三男のイーアペトスの事を思います。
刺し貫く者イーアペトスは魔法の槍を持っていました。
その槍は、投げれば必ず敵に当たります。
そして持ち主の手の中に、自然と帰って来るのです。
その槍を使ってイーアペトスは、人や神を突き刺すのを楽しみにしました。
沢山の人々と神々を突き刺したのです。
彼は特に、若い女神や人間の女に槍を突き刺すのが好きでした。
女神や女に飽きると、小さな男子や若い小さな神を刺しました。
刺された者の多くは死にましたが、生き残った者もいました。
しかしその生き残りは、自らの心の苦しみを語りませんでした。
それは非常に恥ずべき事とされました。
ガイアはこのことについて深く悲しみ、涙を流しました。
それでも、そのことについて誰かと話し合おうとはしませんでした。
紫色のマントを羽織り、家を出ていくイーアペトスを見送るガイア。
その表情には諦めが満ちていました。
他の兄弟達も、皆一様にその事について話したがりませんでした。
それはただ黙っていれば良かったので、簡単な事でした。
そんな女神ガイアにも自慢の息子がいました。
農耕の神クロノスは彼女の長男。
彼は朝から晩まで畑や林で仕事をしました。
彼は身長が高く、どれくらい大きいかというと他の神々の2倍もありました。
すなわちハイペリオンの4倍もあったのです。
その大きな身体で彼は仕事をしました。
1日も休むことなく、休憩を取ることもなく、黙々と働きました。
そのおかげでガイア達一家は裕福に暮らしました。
大地の底には奈落が広がっています。
その近くで家族は暮らしていました。
ガイア達家族はその底なしを恐れていました。
「お母さん。この底なしの奈落もいつか埋め立ててしまおう。僕が埋めてあげるよ。」
息子の言葉に、母親は喜びの涙を流しました。
しかし、彼女は同時に恐れを抱いていました。
息子クロノスにはどこか計り知れない暗さがありました。
恐ろしい何かが潜んでいるような気がしました。
クロノスは自分の考えを正直に語りません。
心の奥底に本当の、正直な意見を隠してしまうのです。
ガイアは言いました。
「なあお前。たまにはどこかに遊びに行ったらどうだい?」
クロノスは答えました。
「それなら近所の林に、いい薪を探しに行くついでに散歩してきます。」
クロノスはその長くて大きな身体を揺すって、歩いていきました。
「気をつけてね。」
見送るガイアをじっと見つめる、たった一つの眼。
二羽のカラスを連れた旅人が、丘の上から彼女を見下ろしていました。




