表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1.

辻褄が合わない箇所等は大目に見てくださいますよう、お願い申し上げます。

(そのうち直します。たぶん)


「殺された?ベックマン子爵が?」


ユーフェミア・リーゼロッテ・イシュラーナは、驚いて目を丸くした。


「はい。今朝レーヌ川の畔で遺体で発見されました。昨日の晩、子爵が街の酒場で男と言い争い、その後男に追いかけられて逃げる姿が目撃されており、殺人事件として捜査することになりました。私はベックマン子爵のここ最近の行動を調べておりまして、こちらへお邪魔した次第です。ベックマン子爵は、複数回イシュラーナ公爵家を訪れているようですが…」


騎士服の男、アシュフォード・エリクセン・ベルクーアは、ユーフェミアの様子を注意深く観察しながら、そっと頭を下げた。

ユーフェミアはレンガルド王国の筆頭公爵家、イシュラーナ公爵家の一人娘だ。

機嫌を損なわぬよう、アシュフォードは最新の注意を払った。


「ベックマン子爵と何を話されたか、お教えいただけませんか」


ユーフェミアの驚いた顔は一瞬だった。

スっと姿勢をただし、アシュフォードの頭を上げさせてソファを勧める。

ユーフェミアはアシュフォードに向かい合う形で腰を下ろし、ゆっくりと口を開いた。


「…ベックマン子爵は、寄付のお願いに来たのです」


「寄付、ですか」


ユーフェミアは小さく頷き、記憶を辿るように小首を傾げた。


「ベックマン子爵が有名な慈善家だったことは、ご存知だと思います。子爵家の孤児院では、大勢の身寄りを無くした子供の面倒を見ていたとか。そこの孤児院に、寄付をしてくれないかと言うお話でしたわ。領内の自然災害の影響で資金繰りに困っていたようです。一か月前と、昨日のことですわ。…二回目はお断りしましたけれど」


「それは、一体なぜ?」


ユーフェミアは少し眉を顰め、声を落とした。


「ベックマン子爵の、良からぬ噂を聞いたからです」


「噂ですか」


「ええ。子爵は、人身売買に関わっていると」


「人身売買!?そんなまさか!!」


思わず、アシュフォードは身を乗り出した。

レンガルド王国で、人身売買は重罪だ。

昔の話だが、近隣諸国では奴隷制度を導入している国が多かった。

その国々で人身売買が横行する中、レンガルド王国では建国以来厳しく禁止されてきた。


「あくまでも、噂です。ですが、火のないところに煙は立たないと申しますでしょう?」


ユーフェミアはゆっくりと紅茶を一口のみ、そっと立ち上がった。

キャビネットから書類を取りだし、アシュフォードへ差し出す。

そこには美しい文字でベックマン子爵家の歴史がまとめてあった。


「ベックマン子爵が最初に当家に来たのは、一ヶ月ほど前の事です。その時も寄付のお願いでしたわ。父が不在でしたので、わたくしの自由になる物を渡して、売上を寄付させて頂きました。けれどその後、気になってベックマン子爵家について調べたのです。…この国では、人身売買は重罪です。ですが、かつて裏の世界では密かに、人身売買が行われていた。180年も前の事です。かつて存在したベラーノ公爵家が裏で手を引き、複数の貴族が関与していたと当時大問題なった事件を知っていますか?その中に、ベックマン子爵家の名前があるのです。事件に関与した貴族家は全て取り潰され、主犯のベラーノ公爵家の者は全員処刑されました。ですが、当時のベックマン子爵は身寄りの無い子供を保護し、養子縁組の手助けをしていただけだと主張しました。確かに、ベックマン子爵が仲介した子供たちの大半は、きちんとした家庭に引き取られていたようです。しかし何人か行方の分からない子供がいて、その子供の養子縁組の時期は、子爵家が困窮した時期と重なります。…ですが結局、疑惑は疑惑のまま、ベラーノ公爵の処刑をもって事件は解決となりました」


「しかしそんな、昔の事件の疑惑を鵜呑みにする訳には…」


「そうですね。しかし、今もいるとしたらどうでしょう。ベックマン子爵の仲介で養子に出され、行方知れずとなっている子供たちが」


アシュフォードの背を、嫌な予感がふとよぎる。

うっすらと滲んだ汗を拭い、そっと紅茶に口をつけた。

ユーフェミアは窓の傍に歩み寄り、外の景色を眺めている。


「しかしご令嬢。そもそも何故ベックマン子爵家を調べようと思ったのです?」


「ユーフェミアで良いですわ。…我がイシュラーナ公爵家は、建国王ラオン・レンガルドの弟、リオンが興した家門であり、準王族として長い間この立場を守って来た、最高位の貴族です。爵位を傘に着るような振る舞いはしていないつもりではありますが、貴方がもし子爵だったとして、なんの縁も接点もない最高位貴族に、不躾に寄付を強請るような真似をしますか?」


「それは…出来ないでしょうね」


ユーフェミアは軽く頷き、音も立てず再び椅子に腰掛けた。


「しかし…それではなぜベックマン子爵は突然イシュラーナ公爵家を訪れたのでしょうか」


「余程切羽詰まっていたかもしくは、寄付が目的ではなかったか、ですわね」


アシュフォードは考え込んだ。

王家の血を引く最高位の公爵家と、地方のしがない子爵家。

なんの関わりもない子爵家の当主が、紹介状も無しに公爵家を訪問するだろうか。

災害に対する寄付のお願いという形でなければ、不敬罪に問われる行動だ。

捕えられなかったのは、ユーフェミアが目をつぶったからに他ならない。


「もしベックマン子爵が寄付目的でないとしたら、何故イシュラーナ公爵家へ…?」


「それがわかれば、解決の糸口になりますかしら」


「調べる価値はあると思います」


ユーフェミアはにっこりと笑い、立ち上がった。


「では、微力ながら協力させていただきますわ」


「感謝いたします」


「ロイド。一ヶ月前と昨日、勤務していた使用人をリストアップしておいてくれるかしら。それから、外出の用意を。行先は王立記録院よ。貴族の公式資料を閲覧したいから、許可を頂いてちょうだい。戻ったら勤務者のリストを確認するわ。夕方頃にはできるかしら」


「もちろんでございますお嬢様」


隅に控えていた執事が、恭しく頭を下げる。


「では、ベルクーア卿。リストが出来るまでの間、ベックマン子爵家について調べに参りましょう」


ユーフェミア・リーゼロッテ・イシュラーナ

イシュラーナ公爵家の一人娘。

黒髪に水色の瞳。

クール美人。


アシュフォード・エリクセン・ベルクーア

ベルクーア伯爵家の次男。

第一騎士団所属。

黒髪に青い瞳。

背の高いイケメン。


ロイド

ユーフェミアの執事。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ