番外編 デビュタント・ボールの裏側
ルイス・ウェルズリーは、ハイランド王国第二王子、ギルバート・ファーン・オブ・ハイランドに仕える侍従として、主人に付き従ってデビュタント・ボールに出席していた。
と言っても、ルイスの役目は裏方だ。
飲み物を運んだり、衣服や髪の乱れがあれば直しに行ったり、ギルバートを独占しようとして離さない困った招待客を角が立たないように引き離したり――。
主人が少しでも快適に夜会で過ごせるよう、先回りして気配りするのが仕事である。
今日はそれに加えて、もう一つ重要な仕事をルイスは密かに自分に課していた。
それは、主人が特別視している女性を見定める事である。
その女性、メルヴィナ・アンブローズを一目見て、ルイスは悟った。
特別視どころではない。完全に堕ちている――と。それも随分と前から。
そう思った根拠は、彼が描いた『メル』の似顔絵である。
ノルトライン大使館で攫われたミリアムの救出に貢献した褒賞として、『メル』――幽体離脱中のメルヴィナは、自身の素性を探して墓前に献花して欲しいと望んだらしく、ルイスは彼女の素性探しを仰せつかった。
似顔絵はその時に渡されたものだ。
ギルバートの絵の技量はよく知っている。彼は趣味というのが惜しいくらいに写実的でかつ雰囲気のある絵を描く。
似顔絵と本物のメルヴィナは非常によく似ていた。ただし似顔絵の方が一割増ほど美人に描かれていた。
(殿下にはああ見えているという事か)
ギルバートの気持ちを見せつけられた気がして、ルイスは思わず遠い目をした。
ちらりと横目で主人の様子を窺うと、アンブローズ侯爵と踊り始めたメルヴィナをさりげなく追っている。
(幽体離脱中からそんな雰囲気は漂ってたんだよな……)
当時はメルヴィナが生きているとは思っていなかったから、釘を刺すためにルイスは彼女の捜索を依頼された時、自分でもどうかと思う言葉をギルバートにかけた。
具体的には首吊り遺体がどれだけ無惨かを語って聞かせたのだが、それを思い出すとメルヴィナに対する罪悪感が湧いた。
◆ ◆ ◆
メルヴィナが祖父と、続いて父と踊り終えるのを見計らって、ギルバートは動いた。
今日のデビュタントの中で、一番身分が高いのはメルヴィナ・アンブローズだから、ギルバートが彼女の所に真っ先に行っても特別な不審感を抱かれる事はないはずだ。
とはいえ、平民として育ちながら、ある日突然アンブローズ侯爵の孫として現れた彼女には、好奇や嫉妬、粗を探してやろうという悪意が含まれた視線が降り注いでいる。
(苦労するだろうな)
ダンス中のメルヴィナが体勢を乱した時、嘲笑を浮かべた招待客が何人かいた。
比較的裕福な平民――上級中流階級の出身とはいえ、上流階級のしきたりや作法は特別なので、そこに馴染むには時間がかかるはずだ。
今後も社交界では平民上がりというレッテルがつきまとい、厳しい視線が向けられるのだろう。
そしてそれは、彼女には申し訳ないがルイスも同じだ。
幽体離脱中の行動や、独自に調査をした印象では、性格に大きな問題はなさそうだが、学歴や行儀作法面は心許ない。
メルヴィナが、もし第二王子妃としてギルバートの隣に立つのなら相当な努力を強いられるはずだ。
その努力をする覚悟が彼女にあるのか、また実際に対面して話さねばわからない部分を、ルイスは確認したいと考えていた。
願わくば、書類上の印象通り、素直に支えたいと思える人物であって欲しい――。
メルヴィナは、ギルバートの誘いを受け、ダンスを踊るようだ。
大広間の中央に向かう二人の背中に、ルイスは観察者の眼差しを向けた。
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