王城にて(2)
「ご無沙汰しております。国王陛下。」
「よいよい、堅苦しいのは必要ない。よく来てくれた、我が騎士よ。久々の町はどうだ?随分と活気づいてきただろう。」
王は街の現状や魔法の進化のついて話し始めると、魔物が減ったことで襲われる者がいなくなったこと、森への行き来が楽になり、魔法石などの素材が手に入りやすくなったことなど意気揚々と語った。
その後、また娘たちに会いたいという他国の愚かな王子がいて…と愚痴りだしたところで、隣にいたリディア王女がそっと国王の肩に手を置き話を遮る。
「陛下。そろそろ本題に入りませんと…勇者様もお暇じゃありませんのよ?」
「おぉっと、すまない。久しい顔に話が止まらなくなってしまったな。…年を取る度、語ることが増えて仕方ないよ」
国王が革の手袋をはめている右手を掲げると、そこに紫色に輝く魔法陣が現れた。
複雑な文様が書き込まれているあの手袋には、少量の魔力でも吸収し増幅する力がある。魔術師にとって必衰の魔道具だ。
魔法陣の中心に何かを書き込むと、それと同時に右側の壁が透け始め外の風景が映り込む。
景色はやがて町に変わり、東の裏門を出るとそのまま草原を駆け抜けていった。やがて小さな川を2、3個越えた先に...鬱蒼と生い茂った巨大な森が現れる。
まだ人の手が入っていないのか、何かを覆い隠しているように暗く深い森だった。
「以前からこの森に、白い魔物が出ると報告を受けていてな。なんども兵士たちを向かわせたんだが、どういうわけか…森の奥に入ろうとすると皆迷いに迷った挙句、森の入り口付近に戻されてしまう。優秀な魔術師にも行ってもらったんだが、結果は同じだった。何か強い魔法が働いていることは分かるが…細かな魔力が森の中に充満していて魔道具がすべて壊れてしまった。」
国王は映像から視線を落とすと、ため息交じりに首を振った。
「勇者殿を呼んだのは他でもない。この森に住む白い魔物を、生きたまま捕らえてほしい。聖剣には魔物の位置を特定する力がある…お主に任せれば、何も問題はないだろう。」
掲げていた右手の魔法陣が揺らめき、煙のように消えると…映し出されていた森の風景が薄れ、何事もなかったように元の壁が現れる。
...この魔物も奴隷にするのか。
国王の命令に逆らうことは出来ない。
頭の隅に巣食う罪悪感を奥底に仕舞い込み、グリムは再び頭を下げると暗闇を見るように目を閉じた。
「...お任せください。」
これが国の幸せに繋がるのなら...何を迷う必要がある。
騎士の自分に選択権などありはしないのに。
「なに、魔力は高いが森から追い返されるばかりで誰も負傷者は出ていない。おそらく戦闘能力は低いのだろう。...勇者殿よ、この魔物捕らえたらお主の奴隷にするといい。」
「奴隷...?いえ!俺は...!」
魔物を捕まえても、自分の奴隷にする気などさらさら無い。
慌てて断ろうと顔を上げたが…王の、まるで何かを試しているような眼差しに捉えられ、グリムは反射的に口を閉ざした。