王城にて
「ようこそお越しくださいました、勇者様。国王陛下がお待ちです。」
まるでグリムが来ることを分かっていたように、そこに立っていたのは王の側近を務める従者だった。
側近にしては若い見た目をした男は、中性的な顔に鮮やかな金眼に金色の髪をしている。
恐らく、美しい物が大好きな国王の娘達の趣味だろう。
ツキイロは従者の顔を見るや、すぐさま亜空間を開きコトハネの元へ帰ってしまった。
グリムは未だ揺れる頭を抱えて立ち上がると、従者は解答用紙に書き込んだような綺麗な笑みを浮かべる。
「お会いできて光栄です、勇者様。王座の間へご案内いたします。どうぞこちらへ」
スッと前を歩き出したその後を追って広間を出ると、導かれるまま真っ直ぐと続く広い廊下を歩いた。
2年前...制圧した魔王の城から手に入れたのであろう、銀のプレートアーマーや魔物を象った石像、魔力が宿った壺などが至る所に飾られている。
まるで魔王城に再び戻って来たようだと思いながら、随分と変わり果てた王城の姿から目を逸らした。
巨大な翼を持つ魔物の絵が彫られている、一際大きな扉の前まで足を止めると、まるで待ちわびていたように扉が音を立てひとりでに開いていく。
煌びやかな部屋の中には赤い絨毯が引かれ、中を照らすシャンデリアは魔力で宙に浮いていた。その光は、埋め込まれたいくつもの魔法石によって作り出されている。
隅々まで照らし出す部屋の両端には...均等に並べられたエルフ達の剥製が、男女ともに4体ずつ並べられていた。
恐怖、悲しみ、怒り、苦しみ。苦悶の表情を浮かべたエルフ達の姿に、グリムは思わず立ち止まり、顔を強ばらせる。
「おぉ!良く来たな勇者よ。待ちくたびれたぞ」
部屋の奥から聞こえてきた声に顔を向けると、そこには赤い玉座に腰を下した国王の姿があった。
実際の年齢よりも随分と若々しいその見た目も、6年前から何も変わっていない。
高い知能と商才に長け、更には魔力も持ち合わせる現役の魔術師。魔物を従わせる束縛魔法の作成にも、王自ら関わったと聞いている。
不敵に笑う王の隣には、長い黒髪のほっそりとした奇麗な女性が立っていた。
王の娘で、三姉妹の中の長女。リディア王女。
親譲りの魔力を持ち、その美貌は男女問わず目を引いた。実際他国から求婚の話もあったが、次期王女の座に就くであろう彼女を妻に迎えるには、国の一つや二つ捧げなければ王が承諾しないだろう。
…国王の姿を目にするや、頭よりも体が勝手に動くように、グリムは王座の前まで進むと赤い絨毯の上に跪いた。
視界に広がった鮮やかな絨毯の赤色が、先ほど見たエルフたちの表情と重なってまるで血の海のようだと思わせる。