魔物奴隷
「魔王が死んだ」
その知らせは瞬く間に大陸中を駆け巡った。
まだ魔物達が自由に草原を駆け、森を支配し、人と争いを繰り返していた時代。
長い間、人と魔物は互いに奪い合い、殺し合い、忌み嫌い続けてきた。
魔王を殺せば、国はまた平和になる。
幾度となく流れる血を止めるため...国王から聖剣を授けられた一人の青年が、魔王の討伐を命じられた。
4年もの歳月の果てに、青年は王の騎士となり、国民の『勇者』となり、魔王を殺すための国の道具となった。
それでも国のため、民のため...自身に与えられた使命を全うするため。
魔王城へと数人の仲間と乗り込み、命懸けの決闘の末...魔物の支配者『魔王』をその聖剣で撃ち取ったのだ。
...これは勇気と感動だけで終わっておけばよかった物語。
「ついに!ついに!!真の勇者が魔王を滅ぼした!これからは我らの時代がやって来るぞ!」
「金品を持ち出せ!魔物を生捕にしろ!国王様が報酬を下さる!!」
「魔物を逃すな!逃げる奴は皮を剥がせ!」
勇者に敵う魔物はおらず、王を失った魔物たちは戦意を失い逃げ惑った。
行き場を無くした魔物たちが、次々と生きたまま捕らえられていく。
魔物好きで変わり者だった国王は、魔物の毛皮や爪などの戦利品よりも魔物そのものを望んだ。というのも、元々他国の商人も行き来することが多かったこの国は...遥か昔から続く巨大な『奴隷大国』だったのだ。
その王国の名を『ルディシャ王国』。
捕らえた魔物たちを奴隷として調教するため、様々な薬や魔法が生み出された。
鋭い牙を溶かしていくように、痛みと魔法、薬で支配し続け従順な魔物を作りだした。
かつて魔王との戦いに勝利し、多くの富と権力を手に入れた名誉の国は...やがて大陸で唯一の『魔物奴隷』を扱う王国として名を馳せていった。
…それから2年。
魔物は奴隷として取引され、商人や貴族、王族の間で消耗品のように扱われていた。
自然に生きる魔物は減っていき、高値で売れる魔物を捕らえようと森の中まで荒し始めた人間の手によって緑の豊かさも奪われていく。
我が子を魔王城での戦いで失った母親が、まだ立つことすらままならない魔物の赤ん坊を親から引き離し、死ぬまで蹴りつける姿を見ても、この国で止めようとする者はいない。
それが奴隷の立場であり、魔物の存在価値だった。