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2社交界に行く前に、第一王子マーコットが説明します


私は、マーコット・セ・ヲ・アキシラリス。

アキシラリス王国の第一王子であり、王位継承第一位という立場である。父王は、竜を倒した生ける伝説であり、王妃様はその同行者。王妃様の魔力の高さゆえに、二人の間には子は望めなかったが、母を筆頭に側妃から王子王女は幾人も生まれ、只今は国内外も安定している。





私は22歳という年齢故に、いつもは携わっている業務に頭を悩ませているのだが、ここ最近は、家庭内の問題に頭を抱えている。

因みに、キトヨミカ・セ・ユ・プレイジュという可愛い婚約者のいる、未婚。結婚まであと半年。本当なら式の準備とか、新婚生活に向けての宮殿の準備とか、そういった明るい未来について悩みたい。キトヨミカの部屋の壁紙についてとか、カーテンの質感は重い方がいいか、明るい色味の軽やかなものがいいかとか、玄関に飾っている大壺はやはりどけて、小ぶりの乙女の銅像に変えるべきかとか。

いやーー楽しすぎる。1日中考えていられるし、キトヨミカの反応を想像しても只ただ愛らしいし、実際それを話題に出してキトヨミカの反応を答え合わせするのなんて至福でしかない。





ごほん。

あぁ、思考が逸れた。

家族の問題である。

本日国立スクールが卒業式を行い、三日後はデビュタントーー社交界に新人を迎え入れる王宮の一大行事の日である。

第二王子の我が弟、ミネオラスト・セ・ヲ・アキシラリスも本日は新人として祝うので、昨年より多少予算が上乗せされている。それだけ、参加者も増えているということだろう。



だがしかし。



卒業パーティーで婚約破棄という祭り花火を勝手に打ち上げたミネオラストとその周囲。





「勝手に騒ぎ立てて、何が婚約破棄だ!」



話を聞き、日も変わろうという頃、浮かれたミネオラストの首根っこを引っ捕らえて、私は奴に詰め寄った。

父王の耳にも入るだろうが、どう対処すべきか検討するためにも、まずは現状把握である。

耳打ちされた内容だけでも頭痛ものなのだが、『浮かれたミネオラスト』の段階で(できれば外れてほしい方の予想の範疇ではあったが)あの場にいた者でも齟齬があることが分かる。





「婚約破棄の理由など、スクールに在学する者なら皆知っていることです。あの性悪女を王室に入れるわけにはいきません!」



エトワールをして、性悪女と呼ぶ。

底光りした目をこちらに向けて鼻息の荒い浅はかな男。はぁ。これが弟の姿か。



「ミツヤ・ビーツと言ったか…」



ソファーに腰掛け、無作法にも片側に寄りかかりながら、一つの名を出すと、ミネオラストはギラギラをさらに増して笑った。



「ミツヤは、性格も良く、勉学にも励み、学園の人気者です」



ーー誰に人気があるのだか。



「ええ、私が側にいることでやっかみをうけて辛いこともありましたが、それにもめげずに、健気なのです」



「健気な女が、婚約破棄を望むのか?」



「いいえ!それは私が決めたこと!ミツヤの願いではありません!

先程も申し上げましたが、王子妃たるもの、それに相応しい者でなくてはなりません。罪ある者が王室に近づくなど、あってはならない!」



「では、ミツヤは側妃に?」



「兄上!私は、ミツヤ・ビーツをただ一人の妃として望みます」



「ーーそうか。お前の気持ちは分かった」



瞬間、輝く笑顔を、笑いもせずに受け止める。



「頭を冷やせ。三日後はデビュタントだ。お前の立場も、エトワールの立場も変わってはいない」



「兄上!」



「王の定めた婚約を、王子の宣言一つで無かったことにできるとでも思っていたか?スクールで学んだものは、権力を振りかざしたあげくの越権行為か?」



ぐ、と真一文字に結ばれた口。

今ならまだなんとかなる。それすら気付けないなら、その先は。



「期限は3日だ。あと3日しかないと胆に命じろ。正式にデビューする王子に相応の態度で臨め。特別な見世物になぞなるな」



「それはっ」



「主催は王家ではない。王だよ。ーーお前の周囲の将来もかかっている」





これ以上ヒントを与える事もせず、私は部屋を出た。





ミネオラストの婚約者、エトワール・セ・ワ・レッドグローブ嬢。レッドグローブ子爵令嬢。

母親譲りの黒目黒髪が珍しく、沈着冷静、あまり感情を表情に乗せないが、両親の名声を除いて彼女自身の行いからも貴族の中でも名高い令嬢の一人だ。

ミネオラストとは生まれる前からの婚約であり、婚約者歴はキトヨミカと私よりずいぶんと長い。



生まれる前からーーというのも、エトワールの両親は、父王、王妃と共に竜退治に遠征した英雄だからである。

エトワールの父レッドグローブは、騎士として参加し、エトワールの母コナツはあのーー説明は難しいが、異世界からこの国の危機に対して神が遣わしたもうた、巫女である。聖女様などと呼ばれることが多い。

この国を、ひいては世界を救った英雄に対して、子爵という爵位は低い。低すぎる。



竜との闘いで右腕を失ったレッドグローブが、『今後国への貢献は難しいから』と爵位を固辞し続けたり、聖女コナツが高位の貴族となることに難色をしめしたり、レッドグローブが自身の実家である伯爵家より上に立つことを渋ったりーーと、もう諸々難航して、何とか『魔の森』含む地領を治めていた彼らの前の貴族に倣って子爵を取り付けたと聞いている。



両陛下と宰相(も英雄)はともかく、その他の人間は英雄二人を国に留めるために、王家との繋がりを求めていることは確かである。

王妃と聖女の二人は、『そうなればいいねー』という軽い気持ちで交わした話だが、周囲の暗躍に外堀を埋められていったのだ。

元々親たちは、本人たちの意思に任せると言っていたのだから、男爵令嬢とやらに腑抜けたミネオラストの意思に従って、婚約破棄をすることは、不可能ではない。

周囲が許せば、だ。



その為の根回し、誠意、現状把握ーー絶対足りていない。







翌日、二日続けてキトヨミカの顔を見れる幸せに浸りつつ、プレイジュ侯爵邸でお茶をする。

最初は平謝りである。

ーー昨日の卒業パーティーの後、私は婚約者としての祝いをしにプレイジュ侯爵邸へ訪れる予定であった。が、その前に例の婚約破棄騒動の話を耳にしてしまった訳だ。現状把握にしろ、今後の展開予想にしろ、するべきことが山のようにできあがりーー、キトヨミカに祝いを言う時間はなんとか取り付けたが、『素敵な思い出』になどなれるはずもない、なんとも慌ただしい訪問となってしまったのだ。

今日も、門前払いを食らう覚悟でやって来た。それなのに、柔らかく受け入れてくれるキトヨミカよ!

中庭でお茶を飲む今ーーこれを至福な時というーー。





「スクールでは、この一年ずっと、奴は変わらなかったのだな」

「そうですわね、どちらかというと、悪化したのだと思いますわ」



はぁ~。



「今朝も顔を会わせたときに、余計なことはしてくれるなと釘を刺しておいたが…」

「殿下の御心を、理解しておりませんから。最初(はな)から無理でしょう」



キトヨミカは、笑顔のままばっさりと言う。



「面白くなりそうですわ~」



我が愛しのキトヨミカは、ミネオラストがその釘を引き抜いてしでかすことを望んでいる。画策しているーーというほど、悪どい行いではない。対するミネオラストが、役に相応しくないだけだ。

ミネオラストを転がせるキトヨミカの将来性は妃として喜ばしい限りだが、転がされるミネオラストの将来性は悲観的となる。



はぁぁ。

むーりーかーなー。



「しかし、何で昨日なんだろうね」

「卒業パーティーは、卒業生と、招待された極々一部の人間しか参加できませんものね」

くすくすとキトヨミカは笑う。

「本来なら、私がキトヨミカをエスコートするべきだったのに…」

「いいえ、殿下にはデビュタントでお相手いただけるのですもの。短期間にそう何度もお時間をいただくことなど、できませんわーー今は」



「結婚したら、ずっとだね」



「いいえ、側室の方も大切になさってください」

呆れたように言うーーかわいい。しかし、ここは強めに言うべき所だ。

「君が望まない限り、側室なんて私には要らないよーー君が望んでも」



ちょっと特殊な育ちをしたキトヨミカは、変わった感性をしているといって良い。しかし、貴族社会でしっかりと立ち回るだけの礼儀と常識は、妃として申し分ないので、そこの心配は無用である。



ただなんと言うかーー、幼なじみであるエトワール嬢の事を異常に好きなのだ。

友としてだけでなく、母親みたいな?『近所の子』として?親戚のおばさんとして?ファンと押しの関係?

色々説明されたが、よく分からない。



はっきりした事実として、キトヨミカはエトワール嬢を異常に好きで、ミネオラストをエトワール嬢から引き離すのなら、諸手を挙げて賛成する、ということ。





ミネオラスト~!

残りは明日投稿します。

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