24話 実力を確かめたいそうです。
商業都市ウェンテイの裏路地、1人の男性が息を切らしながら路地を駆け抜ける。
その後を追うように、全身ローブに身を包まれた存在がゆっくりと後を付けていた。
「はぁ……はぁ……クソッ!」
男は思う。何故、俺なんだ!厄日だ!
他にもいるのに、その中で俺なんて最悪だ、と。
衝撃音と共に太ももに激痛が走る。
突然の痛みと態勢を崩し、そのまま倒れる。
「ぐぅおおおおおおおッ!! いてぇ!!!」
痛みに悶えていると、いつの間にローブにの存在に追い付かれ、何か鉄の様な物を突き付けられる。
「クソ! ウチの上の奴か! テメェ!」
怒りを露にするが、相手は無反応。
そして、男は衝撃音と共にその場に倒れるのであった。
「終ったカ?」
突如気配のする方へ鉄の様な物を向ける。
だが、知った顔を確認するとそれを下ろす。
一息付いてから縦に頷く。
「それじゃ、宿に帰るアル」
「……うん」
そしてその場を離れるのであった。
ーーーーーー
商業都市ウェンテイの飛空挺所に到着した俺達。
飛空挺の階段を下りて背中を伸ばす。
「んん~~ッハァ……着いたぁ」
その後にソイレーンさん、ミーシャ、サラが階段を降りる。
そして、
「さて、商業ギルドに行こうかミナト」
「ではぁ、商業ギルドに行きましょうかぁミナトさん」
「じゃあ、商業ギルドに行こうミナト」
「「「ん?」」」
凄い、ほぼ言葉は違うけどハモってる。
その後、笑顔で互いの顔を見つめ会う3人。
「いやいや、ここは、私が!ミナトを送ろう」
「いえいえ、私がぁミナトさんをぉ送りますぅ」
「私がミナトを送るから、大丈夫だけど?」
一歩も譲らない3人。さてはて、どうしたものか。
話を掛けようとしたとき、背後に気配を感じて振り返る。
そこには白いローブを身に纏っている誰かがいた。
「およ?気付かれたアル」
「……どちら様?」
警戒レベルを自身の中で引き上げる。
ローブのせいで胴体が見えない。
下に何か仕込んでいるかもしれないな。
思っていると、身体を横に反らして背後にいる3人を見ているのだろうか、口が軽く開いていたが、閉じて歯を見せてニシシと笑う。
「こっちにくるアルー!」
急に手を引いて、何処かへ向かう白いローブの存在。
「ちょっ!」
って待て、俺……何か、身体軽くないか?
それに辺りが凄い勢いで通り抜けていく。
……あ、これ結構速い速度で移動してる。
それに俺身体に力入らないし。
「いやぁやっぱり、楽しいナー」
ニシシと笑う白ローブ。
てか、誰だ……コイツ。
「あー大丈夫、君の事は聞いてるヨ。タカセミナト!」
「って、事は?」
俺の事を知っている事は、もしかして?
「十傑の1人、門静崩烈拳2代目当主のファン・リンファ! 異名は千手王拳!」
「やっぱり」
「え?やっぱり?」
「俺の名前を知ってるのと……この原理どうなってんのか理解不能な事を出来る辺り、そうなのかなって思ってた」
イヤだって、未だに俺片腕だけで引っ張られてるし、何か宙を舞ってるし、俺軽そうなんだもんよ。
そんな事を出来るのは、まぁ……十傑だろうな。
まぁ、慣れたよ、うん。
「って、何処に向かって走ってるの?」
「ん!仲間の場所に向かって走ってるヨ!ちょっと待っててネ!」
とりあえず、もう1人十傑の人がいる。それだけ把握したのであった。
ーーーーーー
言い合いの最中ふと、ミナトの方へ視線を向けると、
「……あれ?」
「ミナトさんはぁ?」
「何処に行ったんだ?」
3人揃って首を横に傾げると、そよ風が舞いそして紙が1枚、ヒラヒラと宙を舞いながら落ちてくる。
それを掴み、紙を見ると、
「リンファだ……」
落胆するソイレーンであった。
ーーーーーー
数分走った所で、速度を徐々に落とすファンさん。
そして、地面に足が着く頃には到着している、と思う。
「着いたヨ!」
どうやら、正解だったらしい。
一体何処に連れて来られたのか……全く見当もつかない。
辺りを見渡すと、裏路地の何処か、としか言えないな。
だが、大勢の話し声が背後から聞こえる。
振り返ると、大通りだろうか人の往来が良く見える。
うん、間違いなく裏路地だ。
それに、
「カフェ、か」
「入るアルー」
扉を開け、こちらを見ながら言うファンさん。
とりあえず、ファンに続いてカフェに入る事にした。
入るとマスターが1人、カウンター内でコップを拭いている。
カウンターに1人若い男性……俺と同じぐらいか?
そして、店内は何処か古風な感じ、というかレトロチックで装飾が施されている。
窓際の席に女性が1人、って待て待て……。
何だ、あの頭の奴。
思っていると、ファンさんがその女性に近付く。
「お待たせしたアルー」
「……うん、大丈夫暇は潰してたから」
ファンさんの後に付いていくと、
「マスターお会計を」
カウンターでコーヒーかティーを嗜んでいた若い男性が立ち上がる。
それを避けると、同時に男性が財布落とす。
財布を拾い上げてから、
「あの、財布落ちましたよ」
声をかける。振り返る男性。
良く見てなかったが、銀髪で前髪を上げ、何処と無く優しい顔をした男性。
男性は財布を見てから、ゆっくりと自身のポケットを確認すると、
「あ!財布が無い!」
何処だ、何処だ?と突然探している。
いやいや、待て待て。
「あ、あの~……ここに……」
「おお!本当だ!いやぁ、ありがとうございます」
「あ、はい」
「ふぅむ、お財布を拾って下さったからこそ、御礼がしたいのですが……今はそんなに持ち合わせがなくてですね……」
「ああ、いえいえお気になさらず」
「いえ、そうはいきません。なので後日改めて!それで宜しければ、お名前をお聞きしても?」
「あー……高瀬湊人です」
名を名乗るをポカンと驚いている男性。
それもそうか、名前が珍しいからな。
「なるほど……では、タカセさんとお呼びしても?」
「構いません」
「では、タカセさんいずれお礼は致しますので、これで失礼します」
去ろうとしたが、男性は「あー」と言いながらこちらに振り返る。
「名乗り忘れてました。私、カインと申します。では」
カインと名乗った男性はそのままカフェを出ていく。
何だろう、何処か掴めない人だな。
ってまぁ、初見だし知らない人だから当たり前か。
「おーい、タカセミナトー早く来るアルー」
「あ、はい」
ファンさんの席に着いた所に到着する。
そして、席に腰を下ろす。
対面するようにファンさんと、多分十傑のメンバーだろう人物の前に座った。
咳払いが1つ。
「彼女は十傑の1人、砲狼皇のコーネリアス・イルザ」
「……くね」
くね? くね、とは一体何の事だろうか。
「イルザ、多分聞こえてないヨ」
「……う」
対面にいるせいか、聞こえない。
多分、俺の席からでは聞こえないだけで、もしかしたらファンさんには聞こえてるかもしれない。
「ファンさん」
「どうしたー?」
「コーネリアスさんは何て?」
「……」
ふと、コーネリアスさんの方へ向いてから、
「うん、私も聞こえてなイ」
「聞こえてないんかい」
まさかの回答であった。
寡黙、こんな中コーネリアスさんは喋らない。
そこで気付いた。
口元が動いている事に。
「……」
何て言っているんだ?
「どうしたー?」
「ちょっと待って貰っても?」
「ん」
口元を良く見てから、表情を伺う。
表情は変わらず、しかし何か言っている。
……小さい?何が、小さい?
わ、たし……こ、えが、ち……さい。
なるほど、そういう事か。
「コーネリアスさん」
「……?」
こちらを見て首を横に傾げる。
「確かに声は小さいかもしれないけど、何かあったら教えて欲しい」
「……! ……かる、の?」(……!分かる、の?)
「ギリギリ、かな」
「自信持って話せば良いと思う」
「……分かった」
そんな彼女は直ぐに行動に移す。
というか、移していた。
だって直ぐに声出すとか、びっくりするじゃん、
思っていると、どうやらファンさんも驚愕していた。
「久しぶりにイルザの声聞いたヨ……」
「……普段、あまり声に出さないから、ね」
「でも、何でいきなり?」
「……彼、彼は私の小さな声にも対応してくれるから、それは失礼かなって」
なるほど……うん、分からん。
話せるなら話した方が良いに越した事はない。
でも、何故あそこまでして話さなかったのか……。
「コーネリアスさん、とりあえずありがとう」
「……構わない、こちらもありがとう」
うん、理由は分からない。でも、今はそれで良いか。
「……そうだ」
「ん?」
「……私は改めて自己紹介を、私はコーネリアス・イルザ。十傑の1人。最近は各地で紛争や厄災王の欠片の討伐で転々としている。でも、この前シオンから手紙が届いてそこから、リンファと合流して色々な所に行ってから、ここまで来たんだ。それにしてもここのコーヒーは美味しい、もう一杯頂こうか悩んでいる所で、あーいや、ケーキも美味しいのだが、おかわりでもしようか、そこも悩んでいる。さて、こんな感じで自己紹介が終わりかな」
「「……」」
思わず……思わず、黙り込む俺とファンさん。
「イルザがまともに話すの久々過ぎて驚いた……」
「……別に話さない事はないよ」
「な、なるほどネ……あーそうそう、イルザ。どう、彼は」
ファンさんが問いかけると、こちらをジッと見てから、
「……分からない。けど、シオンが言うなら嘘では無いと思う。というか、他のメンバーも言ってるし、ね」
「そうなんだよネー」
うーん、と悩んでいるファンさん。
一体全体何の話なのか。
ソイレーンさんが言っている、他のメンバーも……か。
今までの事を思いだそう。
十傑のメンバーに会う度に言われる。
シオンから聞いている、つまりソイレーンさんから聞いていると言う事実。
そしてその後に言われたり、似たような事があるのが、
「実力はあるのかナ?」
やはりか、確かにソイレーンさんは俺の事をメンバーに知らせてある、と言っていた。
そして大抵は実力の有無を聞かれる。
「俺はこの世界の人の方が圧倒的に強いと思う」
正直な感想だ。それは間違いない。
俺の世界には魔法は無いし、ソイレーンさん見たいな人間離れした存在がいないから。
「ふーん、そうかそうか。でも、元の世界なら、自分は強いみたいな言いぐさに聞こえるヨ」
「それは……気のせいです」
「いんや、タカセミナト君の動きは明らかに素人ではないヨ。私には分かル」
「そうですね、素人では無いです」
「ほら、やっぱり。ならだよ、タカセミナト」
席を立ち上がるファンさん。
「私と勝負するネ」
突然の宣戦布告をされるのであった。
24話 終