19話 魔叡創、異名だそうです。
グラタンを食べ終え、丸テーブルで紅茶を嗜むソイレーンさんとミーシャ。
「ふぅ……ミナトは紅茶を淹れるのも旨いのだな」
「ですねぇ」
「そうかな?」
3人分の皿を洗いながら答える。
「それにしてもグラ↑タン↓の中に入っていた空洞のあれは何だ?」
お、流石に気付いたか。
「あれはマカロニって言ってね。まぁ、保存食見たいな物だね」
「ほう、マカ↑ロニか」
てか、そのイントネーションはわざとなの?
などと、心の中で思う。
ちょうど良く皿を洗い終わり、布巾で手を拭って近付く。
ミーシャ、ソイレーンさんの対面になるように座る。
「さて、ミーシャとも合流した訳だ」
「ですねぇ」
「と、ここで実はもう一人紹介する」
手を二回叩く。
「「?」」
え?何今の間は……。何も、てか誰も来なかったけど?
ほら、思わずソイレーンさんが左右に首降って誰かを探しているし。
ミーシャは、
「グラタンに紅茶……美味しいですねぇ」
何か満喫してる。
と、思った瞬間だろうか、テーブルに置いてあったフォークを取り、2人は同じ方向へ投げ飛ばしていた。
フォークが木製の壁に突き刺さる。
え?何?虫でも居ました?
もしかして、アニメでたまに見る虫をフォークとかで突き刺して、壁にビィーンって感じで突き刺さる奴?
そんなことを思うと、次はナイフを持とうとした瞬間、
「ま、待って!待って!!冗談ッ!冗談だからッ!!」
姿が見えないのに声だけが聞こえる。
直後、急に姿を表した。
黒髪ショートでクセッ毛なのか、何故かてっぺん位の所で髪が湾曲に立ち上がっている。
因みに白のベレー帽を被り、肩に丈の短いマント?ローブでショートパンツ、ブーツを履いた女の子が表れたのだ。
「何をしていた、サラ」
「実験と勉強をね、ごめんごめん」
「はぁ……まぁいい、ミナト。紹介する、十傑の1人、魔叡創のサラだ」
「メイベル・ルーティー・サラスヴァーティーよ、宜しく。まぁ貴方の事はシオンから手紙で聞いてるから」
「なるほど……」
軽く挨拶?を済ませた所でメイベルさんが、一歩前に出て此方を睨むように凝視してくる。
顎に手を付け、何か考えている様だ。
「祝福ねぇ……ふぅん」
何だろう、この子はミーシャやソイレーンさんよりも小さい分……頭が丁度良い位置にある。
ふと、自然と手が伸びてメイベルさんの頭を優しく撫でる。
数秒撫でた後、勢いよく手を払われた。
そこで自身の行動に気がつく。
「ごめんなさい!」
頭を下げて謝罪する。
数秒後、顔を上げて相手の様子を伺う。
「……」
こちらを睨み付ける様にしているメイベルさん。
うわぁ……すっごく軽蔑している気がする。
いやまぁ、そうだよな。
会って間もない男に頭を撫でられたんだから。
その空気を変える様に笑う2人。
「良かったな、サラ」
「は、はぁ!?な、なんで!?」
「だってぇ貴方は頭を撫でられるのがぁ好きじゃあ無いですかぁ」
「ち、違うッ!」
「何が違うんだ?」
「あ、会って間もない奴に頭を撫でられるとか、あり得ないッ!それに私、男嫌いだから!」
「ああ、それもあったな」
「あぁ、そんな事もありましたねぇ」
顔を赤く染め、目尻に涙を溜めながら此方を睨む。
勢いよく指を差し、
「タカセ!アンタのせいだから!!」
「そう、ですね」
「私は本当に男が嫌い!でも!アンタはシオンから信頼されてるから、近くに入ることを許可してるの!!その辺、理解しておいてッ!」
ふんッ!と言って、此方に背を向けて、何処かへ行こうとするサラさん。
何処に行くのだろう。そう思うと、
「何処に行くんだ?」
「……自室」
「ああ、行ってらっしゃい」
少しだけ足を止めてから、こちらに行き先を伝えて早足でラウンジから出ていった。
残された3人。さてまぁ、俺が悪い訳で。
「ミナト」
「は、はい?!」
ちょっと考え事をしていたタイミングだったから、少し声が上ずった。
「変な声が出たが……まぁいい、サラの事だ」
「あ、はい」
「悪い子ではぁ無いんですよぉ」
「口は悪いがな。でも、サラは良い奴なんだ、すまんがキツく当たられても怒らないで上げてくれ。まぁ、余りにも酷い時は助けるがな」
「分かりました」
それから俺はメイベルさんに謝罪するべく、彼女の部屋を訪れる事にした。
部屋の前に立ち、深呼吸を2回。
気持ちを整えた所で、扉に手を伸ばす。
伸ばした瞬間、扉が開けられた。
「……」
「……」
目と目が合う。しかし、互いに話すことが無い。
「え、と……」
「何で扉の前に立ってたの?」
「それは謝ろうかと思って」
「何に?」
「撫でた事に」
「あぁもう気にしてない」
「そっか」
「うん」
「「……」」
いや、俺はコミュ障か!?少し話を弾ませる位出来るだろう!?
「メイベルさん」
「なに?」
「好きな食べ物と、嫌いな食べ物を教えて貰えないかな?」
「何で?」
「俺が今料理を提供しているからかな」
「……」
「……」
え?黙り込むの?俺何か変なこと言った?
もしかして、男の作った料理はいらない的な?
「卵」
「え?」
と、思ったら卵と答えるサラさん。
「卵が好き、嫌いなものは無い。終わった?なら、じゃあね」
扉を閉められ、会話終了でございます。
試合終了の鐘の音が聞こえる気がする。
トホホ……これは俺のコミュニケーション能力が低いせいだ。
でも、まぁ進展はあった。
卵ね。卵が好きなのか……なら、色々出来る。
なら、今日は卵料理だな。
ラウンジに戻り、仕込みをする前にやることがある。
実は俺自身この世界に来てから、魔法の勉強をしているのだ。
だが、いかんせん上手く行かない。
何でだろう?書いてある文字を書き起こして、それを読むだけなのに上手く行かない。
これは俺自身に才能が無い奴か?
「何でだろうな?」
「……構成がなってない」
「え?」
声のするほうへ振り返ると、壁に肩を預けて腕を組んでこちらを見ているメイベルさん。
若干面倒臭そうにしながら、近付いてくる。
そして、テーブルに置いてあるインク入りのペンで文字を書き起こしていく。
「これ、初級の本だけど書いてある所が応用編」
「え!? あ、本当だ。いや、でもファイアは出せないからページが違うのかと」
「はぁ?どういうことよ、貸して」
サラさんに本を渡してから、数秒でこちらに帰ってくる。
その後、深いタメ息を1つ。
頭に手を付けてから、むしゃくしゃしているのか髪をくしゃくしゃに掻く。
それから勢いよく立ち上がるのと、同時に机を叩いた。
「……メイベル、さん?」
「何処で手に入れたの?」
「え?」
「何処でこれを手に入れたのッ!!」
「マクシミリアンの本屋で……初心者にも優しい本、だと……聞いたから……」
「あーーーッ!!もぅッ!!なぁんで、偽物がまだ流通してんのよッ!!」
頭を抱えながら叫ぶサラさん。
その光景に思わず、言葉を失う。
「あのねぇッ!!それ偽物ッ!!何でか分からないけど!半月前から何故か偽物が販売されてんのよッ!!」
「え、そうなの?」
「はぁ……何で気付かないのよ……」
「ごめん、俺この世界に来て1年未満だから……」
「それは……ごめん。でも、それじゃあ勉強も出来ないし……うーん……」
数秒悩んでから、出した答えは、
「私の部屋に来て」
「え?」
「私の部屋に来て、もう面倒だから直接私が教える」
「いや、その……」
「何?何か文句でもあんの?」
「メイベルさんは男が苦手じゃ?」
「苦手よ。でも、魔法を学ぼうとしている奴を放ってはいけない。だから、来なさい」
「あ、はい」
それしか言えなかった。
その後、俺は流れでメイベルさんの部屋にお邪魔することになった。
そこでこの世界に来て一番驚いた気がする。
「部屋ヒッッッロ!」
いや、明らかに可笑しい。俺の部屋は8畳位で、メイベルさんの部屋は明らかにそれ以上。
本棚の数、机、ベッド、テラスみたいなのもある。
船にこんなスペース絶対に無い。
しかし、本やら何やらが散乱している。
「……ちょっと、散らかってるけどそこのテラスに座って」
「ちょっと?」
「何か言った?」
「いえ、何でもございません」
急いで椅子に座り、これから講義を受ける姿勢を見せる。
何やら、鈍い車輪の音を鳴らしながら近付いてくるメイベルさん。
何だ?と思いつつ、そちらに視線を向けると、黒板を運んでいた。
テーブルの前に配置して、何やら長めの棒を片手に持つ。
「それじゃあ説明していくわ」
「……何を?」
「ファイアの説明、さっきの話の続きよ」
「あーなるほど」
「そもそも、アンタ本を読んでいるけどさ。魔力感知はしてんの?」
え?何それ?魔力、感知?そんなの書いてあったかな?
記憶を辿るがそんな文字一切書かれてない気がする。
「……知らないのね、てか、あんなのに載ってると思わないけど。やり方を説明するわ、まず自身の中に流れる魔力を感知する。それをやるには目を閉じて、心を静かに保ち自身の内側を見るイメージをする」
目を閉じて、心を静かに……保ち、自身の?内側を?見る?イメージ……。
内側……ウチ側……内ガワ……ウチガワ……。
あれ、この温かい何かがそうなのか?
それが心臓に近い当たりにある。
「何か心臓の近くに何か……温かいのを感じる」
「……源ね、それ以外は?」
そ、それ以外?それ以外って感じないな……。
「感じない」
「了解、もういいわ」
ゆっくり目を開け、メイベルさんの方へ視線を向けると、何故か落ち込んでいる。
一体何故なのだ……何に落ち込んでいる?
あ、もしかして俺に才能が無ーー
「魔法の才能が無い」
「ですよねー」
「ですよねーって、アンタ……この世界は魔法が主なの。魔法が使えないって事は1人で何も出来ない可能性が高いって事なのよ、それ分かってんの?」
「え?才能が無いのと、使えないは同義なの?」
「え、あ、いや……そうじゃないけど」
「なら、覚えられるんでしょ?」
「覚えるまでが大変なのよ」
「良いさ、気長にやるよ。それで旅はどのくらい続くか分からないから、毎日ちゃんとやる……それが課題だな」
才能が無い=出来ないじゃない。
才能が無くても出来る。
ただその人よりも、成長率が低いだけ。
だから、出来る事をしていけば必ず覚えられる。
出来ないことをする訳じゃないからね。
うんうん、そんな事を思いながら時計を見る。
午後15時か……おやつの時間だな。
「よし」
立ち上がると、
「どこ行くの?」
メイベルさんが反応するので、
「3時はおやつのお時間だ」
笑いながら答えた。
その後、ラウンジにメイベルさんと向かう。
すると、ラウンジにはソイレーンさんとミーシャがくつろいでいた。
ソイレーンさんは読書、ミーシャは自身の武器の手入れをしている。
「ん、ミナトどうした?」
「あー3時はおやつの時間なんでね」
「おやつですかぁ?」
「うん、実はこっそーり作り置きをしておいたのさ、ジャジャーン」
冷蔵庫……ではないけど、保冷出来る入れ物に生クリームを取り出して、ダイニングに出す。
ここでオーブン的な何かを余熱で予め暖めておく。
それから、俺は小麦粉と卵、牛乳に砂糖を取り出す。
ボウルを出して、小麦粉と牛乳、砂糖に卵は卵黄と卵白を分けて、卵黄の方を入れ混ぜる。
ある程度、小麦粉のだまが無くなった所で、一旦置く。
次に卵白を混ぜて泡立たせてメレンゲを作る。
メレンゲを作った所に生地を入れて、混ぜ合わせて完成。
後はプレートに薄く油を敷いて、余熱で熱くなったオーブン?的なのにプレートを入れる。
ある程度焼き目と、膨らんだ所で取り出してふっくらに仕上がったパンケーキをお皿に乗せていく。
ハチミツとバターを別皿に乗せてから、待っている3人の元へ運ぶ。
「ミナト、これは?」
「これはパンケーキと言います」
「パンケーキですかぁ?」
「美味しいのこれ?」
「美味しいと思いますけど、苦手な方も稀にいらっしゃいます」
「ふーん」
フォークを取り、パンケーキを軽くつつくメイベルさん。
その横では、
「相変わらず美味だな!」
「柔らかいのに、食べごたえのあるにこの感じぃ……たまりません」
美味と絶賛する2人。それを見ていたメイベルさんは、もう一度パンケーキに視線戻す。
それからフォークを縦に持ち、パンケーキに押し当てる。
すると、パンケーキが簡単に切れてフォークを呑み込んだ。
「うそ、やわらかッ」
そのまま、縦に下ろしてから一口サイズにカットしてから、刺して自身の口へ運ぶ。
「え、ウソ……美味しい……」
「良かった」
思わず口から出てしまう。
美味しかったのなら、何よりだ。
そんな事を思うと何故か急に顔を赤らめるメイベルさん。
「ご、50点よ」
「そ、そか……50点か、手厳しいな」
「しょ、精進することね」
余り口に合わなかったかな?スフレが駄目なのか?
まぁ、何にせよ50点は正直嬉しくない。
次で何とか満足の行100点は行かねば。
「ん?サラはパンケーキが嫌いと言うことか?」
突如、メイベルさんの横から顔を出してから言うソイレーンさん。
「え?」
「そういう事ですよねぇ?」
何故かミーシャも続いて、メイベルさんを挟む様に立つ。
「え、あ、や」
「なら、私とミーシャで食べてやろう。なぁに、50点の物をミナトは食べてほしく無いだろうからな」
「そうですねぇ勿体無いので私達が食べてしまいましょー」
容赦無くフォークがサラさんのパンケーキへ、伸びいく。
「パンケーキならまだあーー」
「ーーダメッ!これは私のよ!こんなに美味しいのを上げる訳ないじゃん!」
パンケーキを守る様に体で守るメイベルさん。
その姿を見てから、ソイレーンさんとミーシャがニコニコと笑みを浮かべる。
「な、何で笑ってんのよ?ーーアッ!」
此方に勢いよく振り返ってから、何とも言えぬ表情を浮かべて顔を赤らめる。
「ご」
「ご?」
「ごめんなさい……本当は美味しいわ……」
赤面して、そっぽ向きながら言うメイベルさん。
そんな彼女が面白く、そして可愛くて思わず笑みが溢れる。
「フフフ、また作りますよ。いつでも言って下さい」
「あ、ありがと……」
メイベルさんの可愛い一面を見れただけでも、今日は収穫あったな。
19話 終