16話 不幸体質では無いそうです。
ミーシャと共に教会へ行き、治した猫と親猫を預ける事になった。
何はともあれ、ミーシャがいい人で良かった。
さてと、俺はソイレーンさんの仲間を探すか。
てか、ソイレーンさんの仲間なら強者のオーラ的な何かを感じるのかな?
いやでも、ソイレーンさんにあった時そういうのは無かったから分からんか。
かと言って、教会前で待ってても分からんしな。
「ミナトさん」
「はい?」
「猫ちゃんのお礼をさせて下さぃ」
「いえ、構わないですよ」
「それでは私の気が済みません」
これはお断りがかなり厳しそうだし、仕方ない。
「では、お言葉に甘えて」
「はいッ」
満面の笑みを浮かべるミーシャの顔は眩しく、直視が出来なかった。
その後、ミーシャのオススメの喫茶店に入る。
入店後、店員からメニューを受け取り、目を通す。
しかし、初見のお店だ。何を頼めば良いのか全く分からない。
「ミーシャ」
「はい、何でしょぅ?」
「オススメはどれかな?」
「オススメですかぁ?」
人差し指を唇に当て考えるミーシャ。
数十秒悩み、出した答えは、
「分かりません♪」
満面の笑みで答えたのだ。
いや、まぁそんな予感はしてたけどね。
まぁ、こういう時は周りの客を見て、何か共通して頼んでいる物があれば、それが人気の証拠。
んーっと、周りには6人で共通しているのは……紅茶か。
「ミーシャは決まった?」
「そぅですねぇ……一応決まっていますぅ」
「了解。すみません」
俺の呼び声と共に元気な返事が帰ってくる。
早足で駆けつけた。
「紅茶を1つ。ミーシャは?」
「私も紅茶をお願いしますぅ」
「かしこまりました!」
店員は直ぐに厨房の方へ姿を消した。
紅茶が来るまでの間、何か話そうと思った。
「ミナトさんは普段何をしていらっしゃる方なのですか?」
そんなタイミングでミーシャから話題を降られるとはね。とりあえずは干渉能力とかは隠す方向で。
「冒険者で、ランクはEです」
「冒険者、なるほどぉ……ヒーラーですか?」
「いえ、どちらかと言えば前衛です。でも、あまり戦いは好きではないですね」
「……ヒーラーで無いのにも関わらず、あれだけの力を保有しているとぉ……」
ふむふむと、頷いてから突如辺りの空気が重く苦しくなる。
可笑しい、賑やかであった店内が静寂に包まれる。
そして、その強大な重圧を掛ける存在がいた。
「貴方、何者ですかぁ?」
笑っている、が……この返答、間違えればどうなるか……。
慎重に答えるべきか。
「……本当に冒険者です」
「ただの冒険者が失われた筈の治癒魔法、ヒーリング・リヴァイバルを使える筈がないんですぅ」
更に圧が強くなる。冷や汗が吹き出る中、辺りを見渡すと震えが止まらない者が出てくるのを確認し、
「そろそろその圧を止めないと他の方に迷惑を掛けますよ?」
俺の一言にキョトンとする。鳩に豆鉄砲でも食らったかの様だ。
そして、フフと笑ってから、
「まさか、他人の心配をするとは……驚きましたぁ」
圧が急に消え、辺りの空気の重さが無くなる。
「でも、教えてくだい。貴方はただ者ではないですねぇ?」
「……多分、そうです」
「そうですか、分かりましたぁ」
ーー高瀬湊人の治癒魔法を見た時。
止まった筈の心臓から鼓動、命の鼓動を感じる。
まさか、これは……。
「ヒーリング・リヴァイバル?いや、でも、あれは無くなっているはず……」
古代魔法のヒーリング・リヴァイバル。
あらゆる状態でも一瞬にして完全な形で治す。
神の魔法。
しかし、既に滅んでしまった技術。
何故、この方はそれを使えるのか?
でも、その前に。
そういえば、名前を言っておりませんでしたねぇ」
「あ、はい」
「私はミーシャ・ティンゼル。皆からはシスターミーシャと呼ばれて下りますが、親しき人からはミーシャと呼ばれております」
「なるほど、自分は高瀬湊人です」
「タカセミナト?ですかぁ?」
「はい、よくミナトと呼ばれます」
「では、ミナトさんとお呼びしてもぉ?」
「構いません。こちらはシスターの事を何とお呼びすれば?」
そうですねぇ、まぁ……。
「ミーシャとお呼び下さい」
それから、私とミナトさんで教会へ行き猫を預けました。
その後、御礼と少しだけ詮索したくてお茶をご馳走しようと、喫茶店に入った。
彼と、ミナトさんと話していて分かる。
あぁ、この人は善人だ。
だから、ヒーリング・リヴァイバルを人前で使える。
けど、二重人格や操作されている可能性は捨てきれない。
試そう。この空間を使って、
それから少しだけ力を解き、辺りの空気が重くなるのを感じる。
よし、これでいい。
この中でも正気で居られたら、完全に白。
さて、どうなりますか?
「……本当に冒険者です」
なるほど、冒険者ですか……だが、
「ただの冒険者が失われた筈の治癒魔法、ヒーリング・リヴァイバルを使える筈がないんですぅ」
黙り込む。辺りの空気が悪い、これ以上は他の方に悪影響が出てしまう。そろそろやめーー
「そろそろ、その圧を止めないと他の方に迷惑を掛けますよ?」
まさかの発言。今貴方は私に試されていたのですよ?
それなのに自身より他人を気にする。
確認で白、だけど。
「でも、教えてくだい。貴方はただ者ではないですねぇ?」
「……多分、そうです」
「そうですか、分かりましたぁ」
嘘をついている様子は無い。
色々と聞きたい事も多少あるが、これ以上は相手に警戒され続けるから、ここまで。
ーー突如黙り込むミーシャに何か不味いことでも言ったのか心配になる。
「ミーシャ?」
「はい?何でしょぅ?」
「なんか、俺変なこと言った?」
「プッ……アハハハ!いいぇそんな事無いですよぉ?フフフフフ」
「な、ならいいや」
何か違う意味で笑われてる気がするけど、まぁ死亡回避したと思っておこう。
てか、絶対あのプレッシャー人死ぬって。
笑いながらミーシャは水の入ったグラスを手に持った瞬間、
「あらぁ?」
音を立て、グラスが砕ける。
中に入っていた水がミーシャの手にかかった。
音を聞きつけ、店員が顔を出すと驚愕する。
「ごご、ごめんなさい!お怪我はありませんか!?」
「いえいえ、怪我はありませんよぉ」
「良かったです……グラスは洗って使い回すので、そのせいで劣化していたと思います……本当に申し訳ございません!」
頭を下げる女性店員に近付き、そっと肩に手を置く。
「ここまで謝罪をするのです。私おろか、神すら貴方を許すと思います。だから、お気になさらないで下さい」
「ありがとうございますッ」
深々と頭を下げる店員さん。
本当にミーシャは優しい。
それから店を出て、俺は噴水に向かおうとしたが、
「ミナトさん、先程のご無礼償わせて下さい」
そう言って俺は断れず、ミーシャに付いていくのであった。
付いていって妙な事がおきた。
物が壊れるのだ。時計屋では突然表記ガラスにヒビが入り、食用のナイフを持てば刃と持ち手が折れるなど、様々。
何度も物が壊れて、流石に参ったのか少し落ち込んだ様に見える。
「……私は不幸体質なんですぅ」
「な、なんで?」
「良く物が壊れるんです。それも最後に触れたら壊れちゃうんですぅ」
「あー……その気持ちよく分かるよ」
俺も結構そういう運を持っている。
借りた消しゴムを使ったら折れちゃったり、最後にリモコンを触った時はボタンが使えなくなったりね。
まぁ、ミーシャもそういう星のもとで生まれたのだろう。
「分かるんですかぁ?」
「タイミングが悪いってやつだね。俺も良く壊れるから」
「フフフ」
「どうした?」
「何か似た者同士ですね、私達ぃ」
「だな」
広場から離れた公園のベンチで休みながら言う。
ふと、公園にある時計を見る。
もう15時ぐらいか……広場に戻ってソイレーンさんに会わないと。
そう思ってベンチから立ち上がる。
「どちらに向かわれるのですかぁ?」
「ん?ああ、広場にね」
「あー広場ですかぁ」
「そ、広場にね。実は探してる人が居てね」
「探しているのですか?誰を?」
「あー……実は、探している人が分からないんだ」
「分からない?」
「恥ずかしい話ですが、そうなのです」
「フフフ、本当に面白い方ですねぇ」
笑顔で微笑むミーシャに思わず、照れ隠しで不器用に笑う。
いや、完全に変な笑いかたしてる。
へへへ、見たいな笑いかたしてるよこれ。
そんな事を思っていると、突然剣やらなんやらを構えた男女が俺とミーシャを囲う様に集まった。
見た感じ冒険者だろうか?
何か1枚の紙を片手にチラチラとこちらを見ていた。
え、俺……何かした?
「島に不幸をもたらす悪魔めッ!大人しく捕まれッ!!」
1人の男性が一歩出て指を差しながら告げる。
正直、何か悪いことをした記憶がない。
まさか……と思い、ミーシャの方へ一瞥する。
「……?」
驚愕か呆けているのか表情的には読み取れないが、反応を見る限りミーシャでも無さそう。
じゃあ俺……?何かしたっけなぁ……まぁ、謝るか。
話をするために立ち上がった瞬間、足元に矢が飛んできた。
「動かないでッ!」
「あ、いや、俺達は何も……」
「そんな事無い!手配書の似顔絵がそっくりなんだ!」
「え、ええ……因みにどんな顔ですか?」
「これだッ!」
勢い良く手配書を見せる男性。
そこに書かれた人物は、
「え?」
「あらぁ?」
ミーシャそっくりの、いやむしろミーシャの似顔絵が書かれていた。
それとほぼ同時で声を漏らす俺とミーシャ。
ゆっくりとミーシャの方へ振り向く。
「み、ミーシャ?」
「はい?」
「何をしたの?」
「ん~……分かりません♪」
「分かりません♪って、いやいや!何かしなかったら手配書何て作られないでしょう!?」
「でも、記憶にないんですよねぇ」
うーん、と唸りながら答えるミーシャ。
何とかならないのか?てか、ミーシャが悪い事をするような人物ではない。
絶対何か間違っている。
誤認か本当のそっくりさん。もしくは、てか最悪な考えは誰かに嵌められたか。
考えている内にジリジリと距離を詰める冒険者?達。
そんな中、
「これは何の騒ぎだ?」
1人、女性の声がこの集団に問い掛けたのだろう。
てか、待て……?この声は……。
「SSSランク冒険者だ!」
「まぁ、そうだが何の騒ぎだ?」
「はい、我々はこの島の冒険者で……実はこの島を荒らしに荒らして市場に大きく影響を与えた凶悪犯を見つけまして……!」
「ほう、どんなだ?」
「あちらです!」
間違いない、この声は……。
てか、やっぱり冒険者だったか。
安心した俺はベンチに腰を下ろした。
「ミーシャ、もう大丈夫だ。知り合いが来てくれた」
「……あ、いたぁ」
「え?」
何が?何かいたの?
ギャラリーが一層騒がしくなり、そちらに視線を向けると、姿を表した。
「ん?ミナトではないか!探したぞ!って……待て、隣に居るのは……」
「待ってくれ!彼女は何も悪いことはしてないッ!な、ミーシャ!」
言った瞬間だろうか、ミーシャが異常な速度で飛び出してから跳躍。
辺りにいた冒険者達を飛び越える。
飛び越えた先を見ると、何故か1人だけで走って遠ざかろうとしている。
その走っている冒険者の目の前まで、飛んで行き着地。
少したじろぐ冒険者だが、剣を抜いてミーシャに斬りかかる。
しかし、ミーシャは地面に手を付けた。
何やってるんだ!?間に合うか!?
斬りかかる冒険者へ手を向ける。
だが、向けた手をそっと制止させたソイレーンさん。
「なんーー」
「大丈夫だ」
何も心配はいらない。そんな含みのある言い方をする。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
剣を振り上げながら叫びながらミーシャへ距離を詰める冒険者。
「ああ、ミナト」
視線はミーシャの方を向いたまま声をかけるソイレーンさん。
「探していた人物はミーシャだ」
「え?じゃあーー」
続きを言おうとしたが、突如強い風圧がミーシャの方から発生し、思わず目を閉じる。
それと同時に何か物を降った音が耳に入った。
風圧が収まり、目を開け現状を確認すると、思わぬ光景が待っていた。
ミーシャの片手にはポールアックスがいつの間にか現れていたのだ。
それもミーシャよりも身の丈以上で全体的に大きい。
そんな事を思っていると、空から人が落ちてきた。
地面に当たる寸前で急停止してから、そっと地面に横たわる。
いやもう、何から突っ込めば良いのか、聞けば良いのか分からん。
とりあえず、分かっている事は、
「ミーシャ」
「んー?はぁーい」
「十傑だったんだ……」
「あー、そうなんですぅ十傑の内1人、砕殲斧のミーシャ・ティンゼルです♪」
ミーシャが十傑だったと言う事だ。
16話 終
次週はおやすみさせて頂きます。
お楽しみにしていたユーザーの皆様申し訳ございません。