13話 旅の準備が出来たそうです。
戦いの中、突如現れた謎の男シュナイド。
急な出来事にそれを見ていた観客達は黙り込み、3人が姿を消すまで黙って見ていた。
そして、その沈黙を打ち破ったのが、
「皆の者!今回の戦い、これにて終了!突如現れた男、シュナイドについてはこちらでも想定外の出来事だ!だから、シュナイドについてはこちらで調査する!」
女王グレイスである。女王の言葉に少しだけ納得が行かない民衆。
しかし、これ以上追及をすることは女王に対して反する事と同義である。
この国をより良い方向へ導いた方へそれは、失礼きわまりない。
だからこそ、民衆は黙ってそれを受け入れ、納得が行かないが胸にしまった。
因みに赤竜帝と騎甲姫との掛け金は何故か決着がつかない、に一部票が入っていたので掛け金は決着がつかない、に投票した者が受け取っていった。
そしてその日闘技場、司会者や関係者を集めた会議が行われていた。
「あの謎の人物、シュナイド……」
「騎甲姫と同等に渡り合い、赤竜帝に慕われる存在か……」
「パッと現れてからすぐに消えた存在、まるで幻影か弓女でも見ていた感覚だったな」
重苦しい中、謎の人物シュナイド(ミナト)の存在に悩む一同。
だが、
「素晴らしい!!」
「ああ!」
「これでまた戦い、何かあれば賭けることが出来るな!」
空気が一転し、明るい空気に切り替わる。
「通り名をなんとしよう?」
「旋風のシュナイドはどうだ?」
「いや、風は起こしてないだろ」
「いやいや、新たな風を起こすって意味さ」
「あの感じは怒涛な攻撃を耐え、更に相手に敗けを認めさせた天帝の威光がありそうだから、天帝のシュナイド」
「天帝って感じか?確かにカリスマ性はありそうだが」
シュナイドの話題が持ちきりの中、1人黙り込みふと思い付いた名がある。
「幻影……幻影のシュナイド」
ぽつりと一言、その言葉に全員が黙り込む。
ハッと気付き、明らかに逸脱した名前。
もとより、ネーミングセンスを100%疑われている!
やらかしている、そう男性は思う。
思春期の少年が考え付く事を、大人である自分に尚且つ、真顔で答えた自分を心の底から殴って黙らせたい。
恥ずかしくて男性は顔を伏せて更に顔を赤くする。
「いいぞ!」
「それだ!!」
「幻影のシュナイド……!」
「しっくりくるな!!」
だが、本人とは別の考えであり、むしろ称賛の声が大きい。
あ、良かったと言う気持ちと同時に、この場にいる全員が童心をまだ持ち続けている大人なんだな、と新たに認知をした。
ーーー
マクシミリアン城内。
騒ぎを起こした原因の2人を女王の前に立たせる。
因みに何故か俺も立たされている。何故だ……?
「それで、頭は冷えたのですか?」
女王の一言に横目で見合う2人、そしてお互いに指を差し合い。
「ああ、この阿呆が下だと分かったからな」
「ああ、この阿呆が下だと分かったからのう」
正に一触即発。
その瞬間また、同じように互いに殺気を放つ。
「トカゲ風情が……!何を人様に歯向かっているんだ?」
「低能なサルがッ……この竜帝に逆らおうてか?」
「本当に息の根を止めてやろうか?」
「口だけのサルが騒ぐでないわ」
睨みだけで人を殺せそうな勢いで互いに牽制しあう。
俺はチラッと横目で女王の方を確認する。
困ってんだろうなぁ……。
「水を持ってきなさい」
などともはや我関せずのスタイルなのか、使いに水を頼んでいた。
いや、困ってないんかーい。いやいや、流石にハートはもう困るだろう?
あんだけの戦いを目の前で見ていたんだ。
そりゃあね、母親が死ぬかもしれなかった状況ですからねぇ!
思いつつ辺りを見渡すがハートの姿がない。
「あれ、ハートは?」
誰に聞いたわけではなく、ポロッと漏れる様に言う。
「おお、ハートなら部屋で寝てるよ。襲っても良いんだぞ?ミナト」
ムフフフーと笑いながら言うレイラ。
「いや、襲わないけど……」
その一言で何故かショックを受けている気がするレイラ。
少しだけ場が和んだ瞬間、咳払いが一つ。
咳払いの方に、俺含め3人がそちらへ向く。
「そろそろ宜しいかしら?」
女王の一言にソイレーン、レイラが一瞬睨み合うが直ぐにやめる。
「今後の事ですが、私はタカセ様に世界各地へ赴いて頂き、厄災王の欠片の破壊。そして、魔人討伐をお願いしたいのですが」
「俺は構いません。河野君もどういう目的かは存じませんが、旅に出ていますので」
「ありがとうございます。因みにコウノ様の旅の目的は観光と申しておりました」
「あー魔人とか欠片の旅ではないのですね?」
「ええ、当初はそうだったようで」
「というと?」
「コウノ様の方にも欠片による魔物の強化、襲撃があったみたいです」
なんか運が悪いのか良いのか分からないな。
「河野君は無事なのですか?」
「はい、無傷で討伐したとの事ですね。そして欠片の襲撃でコウノ様の旅の目的の1つに欠片の破壊、魔人の討伐が追加されて今、それも兼ねて旅をしているそうですよ」
「なるほど、ありがとうございます」
流石、河野君。この世界に完全に馴染んでいる。
俺なんて迷ってソイレーンさん、レイラにハートを危険にさせたんだ。
それに河野君は俺みたいに障壁が無いと思う。
だからこそ、実力で倒した河野君は本当の強者だ。
「……さて、話を戻しましょう」
やけに重いな女王、どうしーーあっ……そうか、話を戻す=討伐の旅、と言うことは……。
「ミナト、この国に残って私らと共に住まんではくれんか?」
レイラが儚げなく言う。そう、これだ。
頼む、もう今回はすんなりいって欲しい。
思いつつレイラと向き合う。
「レイラ、ごめん……俺は行くよ」
「……そうか」
「けど、この国を守って欲しい。俺が帰ってこれる様に守って欲しいんだ」
「……ズルい男よ、ミナトは……そんな事を言われてしまっては、守らなければならないではないか」
「ごめん」
一言謝罪すると、レイラは突如ソイレーンさんの方へ勢い良く近づく。
「分かっておろうな、人間」
「何がだ?」
「ミナトはこの世界には正直言えば疎い。1人で旅と言うのも心配だ」
いや、それ本人の前で言うことではないよね?
レイラさん?
「確かに」
納得されても困るんだけど!?ソイレーンさん!?
「だろう?そして、拳を交えて分かった事がある。貴様は強い、だからお前にミナトを任せる」
「……赤竜帝」
ぽつりと一言、その後膝を曲げて地面に着けて頭を下げる。
「誠に感謝する」
その姿にポカンとするレイラ。そりゃあ先程までいがみ合っていた2人。
その相手が頭を下げる、それも膝を地面に着けて体勢を低くしているのだ。
「……お主はそこまで頭を下げるとは思わなんだ」
「私だって、必要とあらば頭を下げる。それに頭を下げれば可能な事なら、いつでも下げよう」
「フッ……ハッハッハッハッ!」
「な、何を笑う!?」
「フフフ、いやすまない。予想に反した事をするものでな」
「はぁ……お主に頭を下げなければーー」
「ーー改めて名を教えてはくれぬか?人よ」
その言葉に勢い良く顔を上げるソイレーンさん、それに対して優しく微笑むレイラ。
驚愕し、半分だけ口を開けていたソイレーンさんだが口角を僅かに上げてから、
「10傑の1人、騎甲姫ソイレーン・クルト・シオンだ」
「うむ、知ってはおろうが我は、赤竜帝レイラ・クリムゾン」
それからソイレーンさんが立ち上がり、レイラと握手を交わす。
……案外、互いの実力はしっかりと見て信頼におく程仲は良くなったんだな。
これで俺は安心して旅に出れるだろう。
「女王、とりあえずーー」
「ーーだが、ミナトはワシの物……その辺は重々理解しておろうな?」
突然、握っている手から締め付ける様な音が鳴る。
「ほぅ?赤竜帝、それを決めるのはミナトであろう??」
互いに笑みは絶やしていないが、腕に血管が同時に浮かび上がる。
「フフフフ……」
「アッハッハッハ……」
そして、
「「フンンンンンンンッ!!!!」」
一気に握り合う。
あー……もうだめだ。とりあえず、一旦放っておこう。
「あー……女王?」
「何でしょうか、タカセ様」
「世界各地に欠片が散らばったとなるなら、どこか情報が豊富にある場所や、街はどこにあるかご存知ですか?」
「それなら隣の国、中央都市アストンはどうでしょう?」
「中央都市アストンか」
確かあれだ、冒険者として名を上げるならうってつけの場所みたいな感じだったよな?
「ご存知ですか?」
「まぁ、噂程度ですが」
「では、話が早い、と言うことでそちらに向かうのが宜しいかと」
「分かりました。では、身支度でもしてきます」
「あれでしたら、足でも出しましょうか?」
だよな、そういうと思ったよ。
けど、今俺は、
「申し出はありがたいのですが、今回は自身の足で向かいたいと思います女王」
そう、自身の足で向かってこその冒険!
ゲームも最初は徒歩で他の街へ向かうんだ。
なら、俺もそれに習って最初は徒歩、途中で馬車からの何か、空を飛べる物でもあれば最高だな、うん。
「そうですか」
「はい」
「では、約3ヶ月程掛かりますが……それでもですか?」
「……すみません、足があるならお願いします」
さらば、俺の冒険の理想よ……。
願わくば、また何処かで俺が思うこと……ぐすん。
「そ!それなら!良い考えがある!」
いつの間にか互いに両手を掴み合いながら言うソイレーンさん。
しかし、レイラと争いあっているせいか、中々次の言葉が出ない為、
「……レイラ、そろそろ良いだろ?」
制止させると、レイラから手を離しソイレーンさんから距離を取る。
その後、ソイレーンさんが一息つき、
「空挺がある」
「最初から飛べる乗り物ってズルじゃん」
「何か言ったか?ミナト」
「ああ、こっちの話だから気にしないで」
咳払いが一つ。
「空挺なら2週間で着く」
「早いな」
「列車や馬車と比べればこんなものだ」
「まぁ、それもそうか」
地上なら山、谷、回り道様々な要因がある。
だが、空なら多分ほぼそういう事はないのだろう。
「直ぐに出るか?」
「そうだな、直ぐにーー」
ーーいや、少なからず直ぐに出て行くとなると、お世話になった人に挨拶が出来ないな。
「ごめん、少し時間を貰えないかな?お世話になった方に挨拶しに行きたい」
「分かった。では、私は空挺所で待っている」
そう言ってから反転して、空挺所に向かったであろうソイレーンさん。
「さて、俺も行くか」
俺はここでお世話になった人へ、挨拶しに足を運んだ。
13話 終