11 兄妹のマガ玉
「私もいく!」
奈津美がそう言い出した。さらに、
「私も!」
優美も言い出した。直後にらみ合いをし始める奈津美と優美。
「お嬢さんたち、遊びにいくんじゃないよ」
バハムートがそう説明した。
「わかってるよ。誠くんの手助けをしたいの」
優美が照れもせずにそんなことをいう。すると、奈津美も「私も!」とつづける。
「どうするんだい、旦那」
バハムートが誠に向かって言った。誠はふたりが喧嘩しないなら、という条件で同行を承知することにする。
「それなら、戦う力をやらなければな」
誠のときと同じように、宝箱をふたつ彼女たちの目の前に置く。そうして装いも新たなふたりの姿が現れる。
優美はローブのような水色のワンピース姿、対する奈津美は――。
「どうして私だけこんな格好なの……」
半泣きになっている彼女は、露出の多いビキニアーマー姿となっていた。
「でも強そうだし、いいんじゃないの」
と所詮他人事の優美。
「私も優美ちゃんみたいなのがよかったよ……」
奈津美の周囲に暗い影が落ちる。
「まずは、ここから北へ向かおうか」
バハムートは「この辺だな」と、誠のエスホの地図上を指しながらいう。
「茨城県だね」
地図をのぞき込んだ奈津美がそう付け加えた。
「でも、どうするの? 歩いて行くと結構かかるんじゃ?」
優美がそう言えば、といった感じで口にする。
「大丈夫だ。わしがついておる。ちょっと広いところにいくぞ」
そう言って、グラウンドへ向かうことになった。
だだっ広いグラウンドの中央で、バハムートは力み出す。すると、彼の姿が巨大な竜へと変化していった。誠たちなら十数人は楽に乗れる大きさだ。
バハムートの背中に乗り込む誠たち。すると大きな白い羽を羽ばたかせて大空へと舞い上がっていく。
「確かにこれなら早そうだね」
風でめくれるワンピースのスカートを押さえながら優美が言った。
☆☆☆
「この辺りに桜二池中学という学校があるはずだ」
飛び回りながらバハムートが言う。誠はエスホのGPSを使って学校を探す。
「あ、ここじゃない?」
めざとく見つけたのは優美。つづけて「近いね」と付け加える。
目的地に向かって指示を出す誠。こうして三人は桜二池中学に辿り着いた。
学校では異変が起きていた。ここにも隕石が落ちているのだ。学校中はパニックになっている。多数の怪物が隕石から現れて、周囲の生徒へと襲いかかっていた。
校内の一角で、怪物たちが円を描くように陣取っているのが見えた。その円の中央にいる男女の生徒がふたり。
ひとりは日本刀を構えている整髪の男子。もうひとりは鞭で怪物を近寄らせないポニーテールの女子だ。
「あれはオークだな。豚の怪物だ。力はあるが知能はない。素早くもないから、対処しやすい奴らではある」
日本刀を構えた男子は、自らオークの集団に突撃し、迫り来る敵をカウンターで仕留めていく。女子はその後をつづいていき、男子に迫ってくる打ち漏らした敵に鞭を打ち付ける。
バハムートは彼らのそばに着地する。
すぐさまに応戦する誠たち。奈津美は大剣を振り回し、慣れないながらも確実に敵を始末していった。優美は杖を振るう。すると杖からは火の塊が噴出し、敵を炎が飲み込んでいく。
「助太刀感謝する!」
男子生徒がそう叫び、誠たちと合流する。女子生徒も鞭で敵をあしらいながら合流し、連携をとるために隊列を組み直した。
仲間が一気に増えたことで、無数のオークは次々屍に変わっていく。そして隕石の中に飛び込んだ誠たち。残りのオークも壊滅させ、校内に平和が戻った。
「一時はどうなることかと思いましたわ」
鞭使いの少女が息をつきながら呟いた。
「僕は古山健。桜二池中学の三年だ。こっちは妹の神田涼香、同じ中学の二年だ」
「古山健って、もしかして……古山財閥の?」
訊ねたのは優美。
「ああ、その通りだ」
健は眼鏡をクイッとあげながら答える。奈津美が不思議そうに、
「兄妹なのに名字が違うんですね?」
「私は神田家に養女としてだされたんですよ」
ようやく息を整えた涼香がにっこりと笑った。
「それで君たちは?」
誠たちは、それぞれ自己紹介を済ませる。そしてバハムートにより、ここまでマガ玉を持っている人を探してやってきたのだと説明した。
「マガ玉っていうのはこれか?」
紐を通してネックレスにしてるマガ玉を取り出して見せる健。涼香も持っているらしく、同じように取り出した。
「幸先いいじゃん。すぐにふたり見つかったよ?」
優美が明るい声をあげる。誠の両手を掴んでやったやったと飛び跳ねる
その様子を見ていた奈津美は、一層暗い影を背負った。
その暗い影は、周囲の景色も飲み込まん勢いだった。