10 異変と邂逅
当初、空に浮かぶ巨大UFOは、ただ漂うだけで何かをしてくることはなかった。
ニュースなどでは取り沙汰されるようになっていたが、しばらく動きがないまま数週間が過ぎる。大人たちも、どうすればいいかわからないといった風だった。
コンタクトを試みようとする集団や、接触しようとする軍隊など、毎日変化には事欠かなかったが、大した結果が得られたわけではなく、状況は変わらなかった。
そうして、いつしか、お空に浮かぶオブジェクトと化したとき。
その日の午後の授業中。
教室に巨大な隕石が落ちてきた。
混乱する教室内。窓側は壊滅状態だ。何人かは怪我もしていた。
女性教師が狼狽えながらも怪我をした生徒を救助している。無事だった誠も、救助活動に手を貸すことにした。
救助活動の最中、隕石の一部が可動し始める。それは自動ドアのように左右に開閉する動きだった。そうして隕石内部の闇が露出する。
隕石の内部からは続々とトカゲ男の化け物が現れた。
再びきこえる悲鳴。トカゲ男たちは、曲刀と小さな盾を構えている。ギラギラとした瞳で、近くの生徒に斬りかかった。
周囲が悲鳴と混乱で渦巻く中、誠は近くにあった椅子を振り上げて、懸命に撃退しようと試みる。トカゲ男はやりにくそうに距離をとりなおす。誠はその隙を逃さず、椅子の脚を相手に向けるように構えて突撃――トカゲ男は吹っ飛ばされて尻餅をついた。
トカゲ男が手に持っていた曲刀と盾を落とす。誠が素早くそれを拾って、見よう見まねの剣術で一匹ずつ撃退を試みた。しかし、いかんせん数が多い。誠も一匹ずつ撃退はしているものの、次第に相手も連携を重ねてくる。開戦直後のように、すんなり撃退できなくなっていった。
「苦戦しているようだな」
どこからともなく声がした。
いつのまにか誠のそばには、小さな白い竜が飛んでいた。
トカゲ男の手前、今更、竜が現れたところで驚くこともなかったが、人語を喋っていることに驚く誠。
「おまえに戦う力をやろう」
竜はそう言って、大きな宝箱を出現させた。
トカゲ男に警戒しながら誠が箱を開ける。すると中からは二対のブレスレットとレッグリスト。ベルトとサークレットが現れる。それらは誠の意思とは別に、彼の両腕、両足、腰、頭にとりついていく。
「竜装束という。戦う意思を念じれば、それぞれの部位が防具へと変わる」
言われたとおり誠は戦おうとする意思を念じてみる。するとブレスレットは小手に、レッグリストは足具に、ベルトは鎧とマントに、サークレットは兜に変化する。さらに左手の小手からは盾が現れた。盾には剣が収まっている。
盾から剣を引き抜くと、黄緑色の粒子が零れキラキラと輝く。
剣を一閃すると、真空の刃が生まれトカゲ男の群れを一掃する。
「適性もばっちりのようだな」
竜がそういうと誠の肩に降り立つ。
「まずはこいつらを片付けよう。ゆっくり話もできんからな」
言われるがままに、誠は隕石の中に突入していった。
「こいつらは《リザードマン》という化け物だ。察しの通り、おまえたちの世界の生物ではない」
隕石の中には無数のリザードマンがいた。誠を見るなり襲いかかってくるが、軽く剣を振るだけでリザードマンは真っ二つとなって、散っていく。それでもそのことしか知らないように、どんどんと誠に襲いかかってくる。
数分後――。
リザードマンを片付けた後、隕石から出てくる誠。
「誠くん!」
奈津美と優美が同時に声をあげる。ふたりは一瞬にらみ合うが、すぐに誠に目を向けて、我先にと彼の前に寄ってきた。
「大丈夫? 怪我してない?」
「楽勝そうだったね。さすが誠くん」
対照的な反応を楽しむ間もなく、竜が話を始める。
「わしは、バハムートという」
ゲームなどで何度か見たことがある名前だった。
「この世界は、別世界からの怪物たちによって食われようとしている。その原因はアレだ」
バハムートはお空に浮かぶオブジェクトと化したUFOを指す。
「あれには別の銀河からやってきた、竜人族が乗っている。竜人族は銀河を調律する役目があってな……急速に進化をしているこの星の人類を、危険視しているのだ」
誠は自分が関与した『ニュートゥルース』のことを思い浮かべた。今となっては人の手に渡ったものだが、その後の技術の革新は計り知れない速度で進んでいた。
「もちろん、反対派も存在する。わしはその反対派に所属しているのだ。そしておまえには、あの船《竜船》に入り込み、強硬派を片付けてもらいたい。そうしなければこの星は滅ぶ」
誠は、竜人族に狙われたのが自分のせいだと感じていた。そして自分には、いまとなっては戦う力がある。自分がなんとかしなければならない、そう感じていた誠はバハムートの願いを了承する。
つづけてバハムートはこう説明する。
「まずは五つのマガ玉を持つ者を集めよ。彼らと協力し、竜船に挑むのだ」