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なんでもない一生
隣のアパートにある大きな貯水槽から、唸るような低い音が鳴っている。
これまで気づくことはなかったが、こうして布団に寝そべり襖の縁ばかりを眺めていると、その音の存在は大きなものに感じられた。
蛇口から落ちる水滴が、水の張った茶碗に落ちる。台所から微かに、水の音が響いていた。
起き上がらなくては。
そう思った。
しかし、私はもう焦ったり急いだりする必要はないことを思い出し、入れかけていた体の力を抜いた。
昨日の雨で溜まった水が、トタン屋根の隙間から漏れ出し、壁を伝い、部屋の畳を湿らせていた。
外から子供の笑い声が聴こえてくる。5時だ。
家に帰る子供たちが5時の鐘と共に近づいてくる。
赤紫色の夕日が、汚れた窓硝子を通り抜けて、私のしわがれた腕に射していた。
そして、玄関にある大きな古い時計が鳴る。
私はまた、ゆっくりと目を瞑った。




