第三話 ダチと制服と私
入学初日に制服をダメにしてしまった。
ちんちくりんを運ぶのにアイレーシュが汚れないように持とうとして二回ほど落としたあたりで、これはラチがあかんのでもういいかと、結局俺一人で運ぶことにした。
いわゆるお姫様抱っこで抱えたので腕や胸あたりがぐっちゃり汚れた。自分でやらかしたことのツケなんで仕方ないと言えば仕方ない。
うわあこれ洗ってちゃんと落ちるかなあと考えてたら、「それはもう処分して」とアイレーシュ。
「洗ってキレイになってもなんだかイヤだし、傍にいる私が気になるわ。また新しいのを用意します」
だそうだ。そんな四六時中傍にいるわけでもないだろうに、こういうところで神経質なのはやっぱいいトコのお嬢様なんだな。
ちなみに俺が着てる制服はアイレーシュが作ってくれた特注品。
作ってもらっといてなんだがわざわざそんなに金をかけなくても、と思ってたけど、女子校だからそもそも既成の男子制服がなかったんだな。
アイレーシュは家のお抱えの仕立て屋を呼んでノリノリでデザインを考えてた。女って服のこととなると他人が着る服でも張り切ったりするよなあ。
道すがら、手が空いてヒマになったのか、アイレーシュがこのちんちくりんについて教えてくれた。
「この子はマナコスレイカ。こう見えて私たちと同い年ね。魔法の才能はけっこうあるしそっちの成績はいいんだけど、見ての通りのバカね。学園中でも有名よ。もちろん悪い意味で」
「容赦ねえなおい」
「ウチとは家同士が古くから付き合いがあって、私もこの子とは昔からの知り合いなの。どこに出しても恥ずかしい幼馴染ってところね」
恥ずかしいんだ。まあ恥ずかしいよな。現在進行形で醜態晒してるしな。
「しかしマナコスレイカって変わった名前だな。こっちではわりと普通な名前だったりするのか?」
「いいえ? バチクソ変わった名前よ」
「バチクソって。そんな乱暴な言葉遣い、お嬢サマがどこで覚えるんだ。 ……あれ? もしかしてそれ俺の影響?」
「バチクソあなたの影響ね。最近は家の者にもたまに言葉遣いを窘められるわ。そんなことでは嫁の貰い手がなくなってしまいます、ですって。うふふふ、そうなったらどうしましょう」
目を細めて笑う。楽しそうだなあ。
「勘弁してくれよ。そんなことになったら俺が親父さんに詰められちまう」
アイレーシュの親父さんには俺も何度か会ったが、大物貴族らしい威厳のあるオッサンだった。
「そうね。お父様もキッチリあなたに責任取らせるかもね」
アイレーシュは両手を口に当ててクスクスと笑った。いったいどう責任取らされるんだろう。海に沈められるとか? 怖え。
「ともあれ、やっぱ変な名前なんだな、こいつの名前は」
「そうね。この子が生まれたときに預言者が来て『この子と名前がカブる人がかわいそうなので変わった名前にするように』っていう預言を与えられたのよ」
「なにそのクッソ無礼な預言。両親もそんなムチャな預言フツーに受け入れんの?酷くね?」
「え? 訪問預言者の預言にわざわざ逆張りする必要ってある?」
「え? あ、そんなもんなの?」
おかしなこと言うのね、みたいな顔をされてしまった。こっちにはこっちの文化の当たり前があるってことなんだろうか。
「あと、この子のご両親はお二方ともそれはよくできた人格者よ。だって生まれてきた我が子がこんな…… こんな残念な子でも惜しみなく無償の愛を注いでいらっしゃるのですもの」
「なんという説得力!!」
アイレーシュのマナコスレイカについての言い様は散々だが、聞きようによっては気の置けない友人をわざと悪く言っているようでもあった。
そんな話をしながら保健室の前についた。
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真面目な話、ウチみたいに細々やってる弱小作品だと読者のフィードバックを得にくくて、ことあるごとにこんな方向性でいいのかなって迷ってしまいますよね。