2章-1 スタート
「特にやることもないし、やってみるか。」
修一は、興味本位でそのアプリをダウンロードした。心のどこかでは、同じ繰り返しの毎日に対して、嫌気が差していたのかもしれない。この行動は、広告に書いていた「エッセンスを加えてみませんか?」という言葉に、修一はどこか期待を持っていたことの表れでもあった。
ダウンロードをしてアプリを起動すると、ニックネームとパスワード、簡単な自己紹介文を記入する画面が出てきた。修一は少し考えた後に、「ソラ」という名前で登録をした。しかし登録はしたものの、修一はこのアプリについて詳しく理解をしていなかった。そこで得意のネットサーフィンを活かして、このアプリについていろいろと調べてみることにした。
簡単に『シルシ』というアプリは、ラジオのような自分の声をリアルタイムで配信するアプリであることがわかった。配信者は、自分の部屋を作る。そして、そこにリスナーと呼ばれる配信を聴きたい人が出入りしながらコメントをするというものであった。
例えば、何かを企画して本当のラジオ番組の様に配信をする人や、暇つぶし程度に生活音を配信する人、弾き語りをする人など、特別配信には決まりがない。所謂、それぞれに配信者のカラーが出るということだ。
修一は仕事柄、話すことに対して苦手意識はないが、携帯に向かって1人で話すことに抵抗があった。
(とりあえず、暇つぶし程度に誰かの配信でも聞いてみるか)
修一はソファーに腰掛け、トップ画面に出てきたオススメの部屋に入ることにした。