1章-2
「こんな恋愛なら、しなかったらよかった……」
夏菜は、電話を切った後に、くしゃくしゃの顔で大粒の涙をこぼした。
1年付き合った4個上の宏樹との恋愛は、順調だった。東京と大阪という遠距離恋愛だったが、お互いに月に2回は時間を作って会っていたほどだ。付き合って8ヶ月を迎えた記念日に、宏樹からプロポーズとともに指輪をプレゼントされた。恋愛経験の少ない夏菜にとって、人生でこれまで以上に幸せなことはなかった。しかし、宏樹の一つの過ちによって無情にもその恋愛は終わりを迎えた。
夏菜は幼い頃に父を亡くし、母と3個下の妹と3人で暮らしていた。小学校に上がる頃には、少しでも母を楽にさせたいという思いから、家のことはなんでも率先して手伝いをしていた。また、妹の学費のことも考え、高校卒業後は地元の百貨店の雑貨屋で働いていた。
自分のことよりも相手のことを優先して行動ができ、それに加えて子犬のような人懐っこい性格のため、誰からも愛されるマスコットキャラクターのような存在であった。
しかし、恋愛に関しては、その優しい性格が仇となり、裏切られてしまうことが多かった。
「もう恋愛なんてしたくない」
夏菜は、携帯電話に残っていた宏樹の連絡先を消去した。布団の中で目を瞑れば、宏樹との楽しかった日々が走馬灯のように頭を過ぎる。なかなか眠りにつけない夏菜は、少しでも気持ちを紛らわせようと携帯電話を手に取り、大好きなアーティストの動画を開いた。
そのとき、動画の始まる際に流れる広告が目に止まった。それはオレンジ色の背景に、白い文字で「生活にエッセンスを加えてみませんか?」と書かれた広告であった。
普段は広告などには興味がない夏菜だったが、この時ばかりはいつもと違っていた。それは宏樹との失恋直後ということもあったのかもしれない。夏菜は何かに吸い込まれるように、その広告を指で押した。