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未来の勇者のその隣で魔王は笑う  作者: 考える人
序章 魔王の日常
5/31

人狼 ①


 学院の者に『アークとはどのような人物か?』という質問をした場合、だいたい次のような答えが返ってくる。


 次世代の勇者候補――であるエリサ・シャユウの傍にいるやつ。


 実際、入学当初からエリサとアークは基本的に行動を共にしている。

 勇者候補と呼ばれるだけあってエリサの実力は、他と比べて抜きんでている。

 そのためか、アークはエリサの影に埋もれ印象が薄い。


 そんな彼が、学院の治安維持を携わっている風紀委員会に所属している、という事実を知るものは少ない。


 

 


 そしてそのアークは現在、風紀委員のペアであるメガネをかけた少女、コレアと共にある場所へと向かっている。


「えーっと……名前なんだったっけ?」


「ウォルフ・ウーブル二位生。入学当初から素行が荒く、月に一回ほどの頻度で大きな問題を起こしています。特に今年からそれがかなり目立っているらしく……そういうわけで、私たち風紀委員の指導対象になったということです」


「遅くないか?もっとはやく対処すべきだろ」


「仕方ありません、風紀委員は生徒会や教師陣が対処できなくなった仕事を回されますから。実力があっても立場は弱いのが風紀委員(私たち)ですので」


「そういや委員長が前にも、そんなこと言ってたような言ってなかったような……」


 二人は話しながら歩き、目的の場所にたどり着く。


「ここか?」


「はい、この付近でよく授業をサボっているという情報が入っています」


 そこは、旧魔法研究棟三号館の中庭。現在この施設はほとんど使われておらず、人も寄り付かない場所となっている。


「確かに、サボるにはうってつけの場所だな。まあ、今回は先客がかなりいたみたいだが」


「ひっ……!?」


 コレアはあまりのことに言葉が詰まる。


 二人の目の前には、20人ほどの生徒が血まみれになりながら、辺り一面に倒れている。

 その惨状は、ただの喧嘩ですませられるようなものでは到底なかった。


「なに、これ……いくらなんでもこれは……」


「あいつがウォルフってやつか?」


 アークが指さしたその先に、一人の少年とも少女ともとれる見た目の人物が佇んでいる。

 学院指定の制服、肩まで伸びた美しい銀色の髪、それらは返り血で一部染まっており、鋭い目つきでその場に現れたアークとコレアをにらむ。


「……はい、間違いありません」


 この光景を生み出したのはその佇んでいる銀髪の人物――ウォルフだと、二人は瞬時に理解する。


「なんだお前ら……こいつらの仲間か?」


 アークとコレアを倒れている生徒たちの仲間と勘違いしたウォルフは、敵意を含んだ低い声で威嚇し、下手に動けば、今すぐにでも飛び掛かりそうな形相を浮かべている。


「っ~~!!逃げましょう!いくらなんでもこれは生徒間で片付けられる問題じゃありません。すぐに警備のかたを――」


 予想していたより何倍も酷い状況に、コレアはアークに逃げるよう進言する。

 だがアークはウォルフから視線を外さず、その場から動こうとしない。


「アークさん!?」


 うろたえるコレアとは対照的に、アークはその場から微動だにしない。

 それどころかアークは、血まみれのウォルフの姿を見て笑った(・・・)


おまえ(・・・)……こんな面白いもん隠してたのかよ」


 まるで誰かに話しかけるような話し方で、アークはつぶやく。

 だがその場には、アークとウォルフ、コレア以外の人間はどこにもいない。


 アークの笑顔は、落ち着きの上にうっすらと浮かべられている。

 しかし、どこか興奮しているようにも見える。


 そんな不気味にも感じるアークの笑みを見て、コレアは得体の知れない恐怖を覚える。

 

 もはやアークにはコレアの姿が見えていない。

 この場にいたことすら意識にない。

 それほどまでに、興味の対象はウォルフへと移動している。


 ウォルフが近づいたら殺すとでも言うように睨みつける。

 しかしそれを意にも介さず、アークはゆっくりと歩いて近づいていく。


「寄るんじゃねえよ、殺すぞ」


「できるならやってみろよ、駄犬」


 その言葉を引き金に、ウォルフは全力で殴り掛かる――


 


 ところが、大きな音をたて、建物の壁へとたたきつけられたのはウォルフのほうだった。


「……え?」


 コレアには、何が起こったのかまったくわからなかった。

 アークのほうへ視線を移すと、蹴りを放った後のような姿勢になっている。


 だがコレアには見えなかった。

 蹴りをくりだす瞬間も、蹴り飛ばした瞬間も。


 蹴り飛ばされたウォルフも、自分が攻撃を受けたという事実を理解できないでいた。


「なにボーっとしてんだ?さっさと本気でかかってこいよ」


「言われなくともやってやるよ……」


 低くうなるような声で、ウォルフは壁から離れて立ち上がる。

 

「おいおい、俺は本気(・・)でって言ったはずだぜ。いつまでその姿でいるつもりだ、ウォルフ・ウーブル。


 ――いや、13番……って呼んだ方がいいか?」


 バカにするような含みを持たせてアークは告げる。


『13番』


 その言葉を聞いた瞬間、ウォルフは感情を爆発させる。


「黙れ!!その名で呼ぶな人間ガァァァァ!!!」


 それとともに、ウォルフ・ウーブルの姿が異形のものへと変わっていく。


 体躯は二倍ほどに膨れ上がり、深い銀色の体毛で覆われていく。

 顔や手足を含めた全身が、人間の持つ特徴からかけ離れていき、まるでオオカミのような特徴へと変化する。


「やっと本当の姿を見せたか、人狼(ウェアウルフ)


 そんな化け物に、睨みつけられているにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべ続けるアークの姿がそこにはあった。


さっそくブックマークしてくれた方、ありがとうございます。

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