終わりと最悪の始まり
これは勇者と魔王が存在し、争い続ける世界。
勇者は人族の代表として。
魔王は魔族の代表として。
互いに、その生を認めることができない二つの種族は、繁栄を、存在を、種族ぐるみですべてをかけて争う。
勇者が死ねば、魔族の世界が繁栄した後、また新たな勇者が生まれ。
魔王が死ねば、人族の世界が繁栄した後、また新たな魔王が生まれ。
二つの知的生命体が、終わりのない争いに明け暮れていた。
そしてここ魔王城では、今世代の勇者と魔王が雌雄を決していた。
魔王城と呼ばれる場所は薄暗く、明かりは等間隔に立てられているろうそくの明かりのみ。
不気味という言葉をそのまま形にしたような城である。
その大広間にて、二人の争いは行われている。
その動き、その技、その力。
誰の目から見てもそれは、一般的な人間の到達できる領域をはるかに超えていた。
人族の勇者はここにくるまで、仲間のすべてを失った。
魔族の魔王は人族の抵抗により、多くの部下や子供を殺された。
お互い恨む理由は十分であり、ただ争いあうことがすべて。
正当性など、どこにもありはしない。
そんな二人の戦いが、丸一日にもおよび決着がつく。
結果は相打ちだった。
勇者の剣が魔王の胸に深々と刺さり。
魔王の腕が勇者の胸を貫いている。
こうして、この時代の勇者と魔王、人族と魔族の争いは終わりを告げる。
しかし、また新たな勇者と魔王は生まれ、混沌の時代は終わりを告げることなく継続する。
それを予想してか否か、自分の実の親である魔王の死んだ姿を見て、次期魔王はただ静かに笑っていた。
この物語は、人族を救おうとする勇者の話ではない。
人々に尽くす聖女の話でもない。
国を思う王子の話でもなければ、才能あふれる魔法使いの話でもない。
自分勝手に生き、自分勝手な欲望のために、自分勝手な気まぐれのために、世界のすべてを巻き込む史上最悪の魔王。
そんな魔王の物語。
そしてその魔王によって巻き込まれていくすべての人族、魔族の物語。
愉悦部員見習いです。
愉悦を届けたい。