レベル0
朝、ベットから少し気だるさをまといながら起き上がる。
「おはよー」
人間世界だったら誰も返事しないであろう朝の挨拶だが、魔法世界にいる今、何処から湧いて出たのか妖精たちが返事を返す。
「魔力くれ」
「レベル上げろよ」
「朝ご飯」
「朝から突っ込ませるなよ!疲れんだろ!」
図々しいやからである。これでも一応、彼らがいるおかげで僕は、僕たちは魔法が使えるもんだから文句が言える立場かと言ったら
「文句言えないだろ。感謝しろ」
「いいか、いくら力を使わせてもらっている立場っだからと言って僕がぺこぺこすると思うなよ。俺がもともと住んでた日本にはな、『親しき仲にも礼儀あり』と言ってだな……」
妖精たちと口論を三十分ほどしているうちに登校時間ギリギリになってしまうのは今日に限った話ではない。
小さい小屋のような家なので、身支度を最短距離で行えるのが功を奏した。朝ご飯を抜き、最低限のエチケットだけは済ませ、つえを手に取る。制服にしわがついているが魔法で飛んでいる間にどうせしわがつくので気にすることは無いだろう。
「妖精たち、いつも通り力を貸してくれ」
「任せんしゃい、私の力でひとっとび」
つえを地面につき、目を閉じる。魔法のコツは力の流れを感じ取り起こしたいことをイメージすること。なるべく鮮明に。そうすれば大抵のことは魔法でできる……らしい。妖精にはそう説明されたが未だにあまり大きなことをやろうと思ったことは無い。それに妖精さんは「あまり変なことは考えない方がいい。魔法はそれなりの対価が必要になるからな、でかいことやるほどに」とも言っていたから余計にやろうとは思えない。
「流れる風は数多を運ぶ大いなる力、その力、我を運ぶ船となりたまへ」
体の周りを風が包み込む、それもつかの間、目を開けた時にはすでに僕は日本にある、公立高校の自分のクラス、二年八組の前の廊下に立っている。もちろん、目の前に人が瞬間移動してくるわけなので事情を知らない人は驚くが、最近はみんな平然と過ごすようになってきた。
「魔法使いさんおはよー」
「うぃっす」
こうしていつも黄昏ながら挨拶をしてくるのは親友のヒロユキだ。
「なかなかに人間のなれってのは恐ろしいねぇ」
「全くだよ。でも、あまり干渉しないでくれるのはこちらとしてもありがたい」
「ははは、笑わせんなよ。お前、去年の文化祭でも今年の新しいクラスでの自己紹介でもガンガン魔法披露してたじゃねーかよ。干渉させてんのはどちらかと言えばお前だ」
「すいません、反省はしません、辞める気もありません」
「だからお前は生徒全般から危険人物扱いされんだろ。全く、止めてくれる俺がいてよかったな」
恩着せがましいが全く持ってその通りなので言い返す言葉もない。
「早く席つけよホームルーム始まんぞ」
大体いつもこんな感じで僕の一日は始まる。
僕は魔法を使って登校している。簡単に言うなら魔法世界から人間界までといったとこだろうか。普通に歩いたら徒歩二時間、自転車は魔法世界に信号がないので一時間かからないぐらいといった感じなのだが、魔法世界はモンスターが出て遅刻するので魔法を使ってワープしている。
この説明だけでも突っ込みたい人はいるかもしれないが、ここはひとつ我慢してほしい。ちゃんと説明しますから。
というわけで、回想はいります。
3……
2……
1……
スタート
初めて魔法世界に行ってしまったのは中学を卒業して一週間ぐらいたった春休みのことだった。高校も無事合格し、特に遊ぶような友達もいなかった僕は春休みに入るや否やゲーム三昧、アニメ三昧の日々を過ごしていた。
そんなある日、中学では体育会系生活を過ごしていたせいか突然筋肉がうずきだした。
「筋トレしたい……」
そうして僕は外に出た。
一週間ぶりの太陽は僕にとっては敵対心むき出しといった感じで照り付けており、夏じゃないのがまだ救いといった具合だ。それでもせっかく外に出たからと家の前で体操を始める。たまに前を通るご近所さんにあいさつしつつ、ランニングコースを考える。
この辺は閑静な住宅街であるため走りやすいのだが代わり映えしないのがあまり好みではない、少し走った先、坂を下りた下が大通りに沿って店が立ち並んでいる道を走ろうか。
そうして走り始めたのはよかったのだが、住宅街を抜け、坂を下りる途中にある脇道に入りたくなってしまった。僕という生き物はどうも好奇心が強い。
入ってしまった
その道は、片側が建物を挟んで大通りが建物の隙間から見える形になっており、もう片側は竹や名前の知らない気が生い茂る林になっている。ちょうどその林の中、妙に奥行きがある様に見えた。普通だったらあまり気にする人はいないのだろうが、というよりもそもそも人通りすらないのだけれど、人目が苦手な僕はよく通っていたため気が付いてしまった。この林がこんなに奥行きがあるはずがないことに。
もちろん
入っていってしまった
結果、僕は魔法世界に行きついた。林はどのあたりからかはわからないが森へとつながり、そこを抜けた先は見知らぬ生物が駆け回る草原へとつながった。
翼の生えた蛇、頭が二つに枝分かれした牛、ツボに入ったスライムがカタツムリのように地を掃っていたりと、明らかに人間界ではない別の場所であることは一目瞭然だった。
が、しかし、僕は人間である。もちろんのごとく、お約束を守り、セオリー通り、アニメを見まくった厨二病患者でもするであろう……
頬をつねった
流石に頬をつねるかどうかは別として、百人が百人「これは夢だ」と思う状況ではなかろうか。
ではその状況がこういった結果になったらどうだろうか。
痛い
ここからは人それぞれになるだろうが僕は、自分を往復ビンタした後、殴った。今考えると非常に頭が悪い。
殴った反動で草原に倒れこむ、高い建物一つないこの場所に吹く風が心地よい。ここまでの風はもう日本では味わえないだろう。こちらの太陽は僕を包み込むように暖かく、奥の方に見える山々も絶景である。たまに響く謎の生物の雄たけびは心地よくはないがどこか新鮮で面白かった。
目を閉じる。この環境の中ではどうも真っ先に眠気が来る。
「……熱い」
太陽とは違った熱さが体の下から巻き付くように湧き上がってくる。何かおかしい、そう思って目を開ける。
「!?」
目の前には巨大な蛇の顔、ただ目線を下ろしていくと、どうやら人間界でも最大のアナコンダよりも生きては返してくれなさそうなフォルム。手のひらぐらいが一枚分といったうろこの間から、粘り気の強い粘液が出続けている。
「あのー、見逃してくれたりは……」
敬語が通じるはずもなく
「シャーーーーーー」
口を大きく開いて噛みついてくる。とっさに上あごと下あごを手でつかみ口が閉じないように抑え込む。
「まだ、ブックオスで買った漫画全部読み終わってないからまだ死にたくないんです。助けてー」
そう叫んだ直後、突然、蛇の怪物の体が燃え上がる。
「ジャアアアーーーーーー」
もがく蛇、巻き付きを緩めて森の奥へ逃げていった。
「大丈夫ですか?」
少し遠くから一人の少女が近づいてくる。とんがり帽子にマントの姿に杖はまさに魔法使いである。が、何処か人間界の人とは雰囲気が違う気がする。
「とりあえず村まで来てください、ここは魔物が目の見える範囲にいるぐらいな場所なんで危険です」
未だ起きたことに対して整理できない僕は言われるがままに少女についていった。
村までは少女との会話はなかった。
最近の風潮があまり好きではないので自分でセオリー外しといった感じで作ってくつもりの話ですので好みは分かれるかもしれませんが、こんな感じもいいなと思ってくれると嬉しいかも。
ゆくゆくはなんかの大賞にでも応募したいなとか思っているので、感想なんかいただけると嬉しい限りです。
では、次回また