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天才は笑えない  作者: ☆夢愛
9/9

最終話 選択

これにて終わりです。

 高校では2学期開始の合図を告げる全校集会、 始業式が行われていた。

 そこでは、 転校生の挨拶、 校長先生の話が終わろうとしていた。


『──ましょう』


『では、 続いて新任の先生方の紹介です』


 深川に連れられて俺達新任教師は生徒の前に一列で並んだ。

 1人1人挨拶して行き、 次が俺の番となった。

 俺はマイクを持ち、 元気良く大きな声を出した。


『新しくこの高校に教師として来ました、 篠宮鈴都です! 今日からよろしくお願いします!! 』


 今日から俺の新たな1日が始まる──。

 ────。


「まさか先生に本当になるとはね、 諦めたかと思ったよ」


「な訳ねーだろ」


 教師となった俺に気安く軽く話して来たのは、 3年生となった木乃冬華だった。

 今はちゃんと笑顔も見せる様になり、 『笑わない天才』とも呼ばれない。

 身長は少し伸び、 156㎝となったらしい。

 身体付きは少しずつだけど大人っぽくなって行く。


「で、 先生はどこの担当なの? 」


「まだ担任は受け持っちゃいねーけど、 数学教師だよ2年生のな」


 木乃は不貞腐れた表情になり、 俺に寄りかかって来た──この娘は俺に振られた後もずっと俺を好きで居てくれた……かなり大事な人だ。


「僕先生と授業シたかったよ……」


 シュンとしてる仕草がまた可愛いものだが、 俺は一言『そうだな』と言って木乃を離した。


「先生、 どうなの今は? 」


「ん? どうって?? 」


 俺がそう言うと、 呆れた様に深く溜息を吐きながら言葉を続けた。


「赤薙先生だよ、 大学に戻ってからは暫く会えなかったんじゃない? 」


「あー……まあ大丈夫だよ。 先輩優しいし」


 俺はもう、 ちょっと前に先輩に告白をしていて、 OKももらって付き合っているんだ。

 そんな事、 当然木乃には伝えてある……色々助けてもらったし、 振ったしな。

 ……で、 木乃よ。 タイミング良く聞くが……


「今日先輩居なくね? 」


「見てないね」


 先輩はここで教師をやっているはずなのに始業式で姿が見当たらなかったのだ。

 それは一部の生徒の話題にもなっていた。

 先輩、 また遅刻か?? だとしたらヤバくね?

 俺がそう思っていると、 屋上の扉が勢い良く開く。

 ──────────────────────

「篠宮! ちょっと良いか!? 」


 ちょっと老けた深川が俺に問うて来たが、 俺は木乃に一旦挨拶してから話を聞きに行った。


「どうしたんすか? 」


 俺と深川は新しく造られた図書館の裏でこっそりと話していた。

 そして勿論近くに木乃は居る……盗み聞きが楽しいんだとさ。

 深川は少しだけ躊躇ったが、 すぐに事情を話してくれた。


「赤薙がまた電車の事故に巻き込まれたらしい……!! 」


「えぇ!?? 」


 嘘だろ!? 先輩がまた……!! また記憶無くなったら最悪だぞホント!

 ……俺が困惑していると、 深川は付け足す様に言った。


「ああ、 巻き込まれたと言ってもその中に居た訳じゃなく、 その場に居合わせたってだけだ。 安心しろ」


「驚かすなよババア……ぐほぉっ!! 」


 俺の口がふつーに滑ると、 鳩尾に膝蹴りを入れられた……暴力教師め……。

 俺は深川が許可を取ってくれたらしいので、 先輩の所へ向かう事にした。


「ここから1番近い駅の3番線上り列車で○○○って所に行け。 赤薙がお前を待っているはずだ」


「ありがとうございます深川先生。 先輩連れて戻ってきますんで! 行ってきます! 」


 俺は校門を飛び出した。


「うおっ」


 目の前に木乃が居た、 普通に授業サボってるよコイツ。

 もう俺立派な教師なんだからスルー出来ないからな? たく。

 木乃は俺に100円を渡して来た。

 そして目を閉じ、 上から物を言う……身長ひっくい癖に。


「それあげるから何か買ってくるか赤薙先生に何か買うかしな」


「100円で何か買えるかよ、 水で良いか? 」


「頼みまーす」


 木乃の表情は豊かになったものの、 体調の方は一向に治る事も無く未だに水しか飲めないらしい……この娘は17年間水以外を飲んだ事が無いんだと思うと、 とても可哀想な気持ちになる。


「じゃ、 待ってろよ」


 俺は木乃に手を振ると駅へ向かった。

 えーと、 3番線上り列車○○○だっけな、 よし。

 俺は電車に乗り込んだ……ちゃんと切符買ったよ!

 ──────────────────────

 ーー『次はー、 屁垂ー、 屁垂ー』ーー


 このナレーション書く意味有んのか? とか思いながら俺は1つの駅を目指す。

 ……えーと、 駅4つか……どんくらいかかんだろう。

 こーゆー時に先輩メール送って来ないんだよなぁ……何の為に有るんだか。


 ーー『先輩今どこですか? 』ーー。

 ーー『○○○』 ーー。

 ですよねー、 分かってましたよはい。

 先輩ならそう返すって分かってましたようん。

 30分ほど経つと、 ○○○駅に着いた。


 ……何で『屁垂』はそのまま表記されんのにココは○○○で表記されんだ? そう思ったのは俺だけなのだろうか……。


「この駅広いな……どこだ先輩」


 電車の事故が有ったからだろうが、 人が大量に居る……よく俺が乗った電車動いたな。

 あ、 ここでSTOPになってる……アホだな。

 俺は人と人の間を掻い潜り、 尚且つ先輩を探していた。


 そんな時、 俺はふと立ち入り禁止テープが貼られている方に眼をやった。

 大怪我を負っている人が担架などで大量に運ばれて行く……。

 先輩も1度はあんな目に……そしてアレで義父様達が……考えただけで胸が痛む。

 もし先輩があの時の事を思い出し、 精神が崩れかけていたらどうしようとか不安だった。


「ちくしょう! 全然ここがどこだかも分からねぇ! 」


 俺は1つ思いつき、 人が少ない階段付近へ移動してスマホを開く。

 恐らくメールは気付けない……ならここは堂々と電話だ! ──そして俺は先輩に電話をかけた。

 この音で分かりゃ良いんだけど、 やっぱ騒音が……先輩は出る事無く電話は切れた。


 失敗した訳じゃない。

 今ので先輩が混雑してる方に居るってのが分かった、 伊達に勉強してねーぜ、 俺☆

 ……恥ずいから誰か埋めて。


 俺は階段の上から1階の混雑している様子を見て、 もう1度電話をかけた。

 ……出ねぇ、 まだ下だな。

 俺は上からじーっと下を眺めるが、 肉眼の限界か脳の限界か誰が誰だかよく分かんねー。

 動いてるし。


「くそっ! 先輩マジでどこだよ! 」

 すると、 急に後ろから膝カックンをされ、 そのままこけた……痛え。


「全く……いつ見ても本っ当に面白いな君は」

 ──────────────────────

 俺はその聞き覚えのある声、 聞き覚えのある台詞にすぐに振り向いた。


「篠宮君、 迎えに来てくれたのかい? 丁度良かった、 タクシーに乗ろうと思ってた所なんだ」


 そこに居たのは前よりも髪が伸びた、 喋り方が元の頃に戻っていた赤薙先輩だった ── 。


「先輩……喋り方……」


 喋り方は元に戻っているが、 無表情では無くなっている……これは……?

 俺が考え込んでいると、 先輩が説明を始めた。


「ああ、 私の記憶は元に戻ったんだよ。 無論、 記憶喪失の時の記憶もあるよ」


 先輩は優しく微笑みかけて俺の右腕を掴み立つのを手伝ってくれた。

 記憶が戻った……? どうやって……。

 不思議に思っていると、 スマホにメールが届いた。 木乃からだった。


 ーー『やっほ、 赤薙先生と会えた? どう? 僕は2年間何もしてなかった訳じゃないんだから。 お礼は500倍返しでいいよ、 じゃね☆』ーー。


 いや500倍返しは無理だけども、 そもそもどうやって記憶を戻したのかが知りたいぞ。

 ちょっと不気味に思っていると、 木乃では無く先輩が話してくれた。


「木乃冬華さん、 良い生徒だね。 毎日毎日君の話をしてくれたんだよ……そしたら自然と記憶が蘇ってきて、 この喋り方に戻っていた」


 アイツ……俺の為にそんな事を……本当にありがとう、 それに再開後の先輩の記憶は残っているから逆に失ったものは何もない。

 木乃の恋心1つを除けば……。

 彼女は自分の思いを犠牲に俺の望みを叶えてくれたんだ。


「はい……アイツは本当に良い奴ですよ。 信頼してます」


「浮気してないよね? 」


 いきなりの先輩の発言にもの凄くビックリしたが、 しっかりと肯定しておいた。

 焦るからマジでやめて先輩。


「俺は先輩一筋ですから! 」


 俺が言うと、 先輩は目の前に人差し指を突き出して来た。

 え、 何?? 今度は何?


「その先輩って言うの、 いい加減やめて欲しいなぁ。 もう恋人なんだし」


 ムスッとした表情で頬を膨らます先輩……可愛いです可愛過ぎです。

 俺は思ったのでなんと呼べば良いのか聞いてみた。


「赤薙さんとか? 」


「んー、 嫌。 何か他人っぽいし」


 教えてくれた方が早いんだけど可愛いなおい。

 ──────────────────────

「じゃあ、 何て呼べば良いですか? 」


「うーんと、 じゃーあ……」


 先輩はとびきりの笑顔で俺の腕を掴み、 歩き出した。

 そして人があまりいない所で振り返った。


「侑梨菜って、 名前で呼んでよ鈴都君! 」


 俺は照れながら言うその姿に再度しっかりと恋をし、 笑顔で返事をした。


「うん、 侑梨菜」


 先輩は直後に顔を真っ赤にして顔を隠した。

 やっぱ呼び捨てはダメかな?

 そう思ってると先輩は再びこっちを向き、 人差し指を立てた。


「も、 もう1回! 」


「あ、 うん? 侑梨菜」


「……っ!!!! ///// 」


 先輩は再び照れた……そして顔を逸らす。

 恥ずかしいのに何でもう1回を要求して来るんだろう……俺は疑問に思った。

 あと反応が超可愛いのでタクシーの中で耳元でめっちゃ言ってみた。

 ───────────────────────

 高校に戻ると、 先輩は色んな先生達に頭を下げ謝っている。


「じゃあ皆、 今日から全員新メンバー含めて頑張ろう!! 」


 校長先生の元気な挨拶に教師一同は微笑み合い、 負けないくらいに元気に返事をした。


「うす! 」


「はい! 」


「ああ! 」


「「「おう!!! 」」」


 その様子を廊下から密かに見つめる木乃。

 彼女は水をほんの少量飲むと深呼吸をした。


「先生お幸せに。 さて、 僕も頑張りますか! 」


 ──拝啓、 誰か様へ。

 篠宮でございまする。

 先輩と出会ってから6年が経ちましたが、 俺は何も変わってません……いや、 笑顔が増えたかな。

 先輩が記憶喪失になったり、 妹に好かれたり人に助けてもらったりしまして、 やっと大人になれました。

 もうここに、 笑えない天才は居ません。

 皆笑顔です、 元気にやってます。

 これから俺は侑梨菜を1番に愛し、 他の皆ともいつまでも仲良く楽しくやっていきたいです。

 今までありがとうございました。


 さようなら。







 ────『天才は笑えない』完結です────

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