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天才は笑えない  作者: ☆夢愛
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最終章 4話 愛の告白カウントダウン

「おはようございます、 赤薙先輩」


「おはようございます、 篠宮君。 あとここでは先生の方で呼んで下さい」


「あ、 すみません」


 先輩と再会して早二週間となる今日でこの高校の実習も終わりとなる。

 先輩の記憶復活を手助けしてくれるらしかった木乃は、 俺に告白をしたっきり会わなくなった。

 どうやって俺から逃げてんだか知りたいぜ。


「今日で、 お別れですね。 生徒達と」


 先輩は、 余程楽しかったのか寂しそうに言葉を口に出した。

 俺は先輩の肩に手を置き、 首を振った。


「ここに来れる可能性はまだまだありますよ、 だって俺達教師目指してるんですから」


「そうですね」


 先輩は作り笑顔を見せ、 自分が実習するクラスへと向かおうとして振り向いた。


「そう言えば、 ここ最近木乃冬華ちゃんが来てないんですよ。 何か知りませんか? 」


「来てない!? 」


「ええ、 何の連絡も無いんですが……」


 アイツ、 失恋したのでショックだとか言うのか!? いや確かに失恋は辛いけど……休むほどじゃ……。

 何せ、 俺に振られた亜奈もちゃんと来ているのだから。

 数日前、 俺は亜奈からの告白を受けた後、 ちゃんと振ったんだ……俺が2度と先輩と付き合う事が出来ないかも知れないと、 優しく恋をしてくれた亜奈には申し訳ないが、 俺の気持ちだから──あとそれ以前に兄妹だし。


 でも亜奈は翌日には元気に……いや、 そう装ってるのはバカな俺でも分かる。

 だけど妹も頑張ってるのに木乃は来ないなんて……。


「ちょっとメールしてみるか」


 俺は人目につきにくい校舎裏に行き、 木乃にメールを送った……教師と生徒がメールしてると疑われるしな。


 ーー『大丈夫か? 木乃』ーー。


 木乃からの返事は5分経っても来なく、 俺は仕方なく亜奈の居る担当クラスへと走った。

 向かっている途中で元担任だった深川に遭った。

 何か有ったのか聞かれたが、 メールの事なんて話せる訳も無く、 『何でもない』と答えた。


「あれー? 篠宮先生顔色悪くない? 」


「本当だゾンビみたい」


「いや人の兄貴に何言ってんの。 私お兄ちゃんと似てるんだからやめてよ」


 うん、 本当にゾンビって何だよ、 てか俺そんなに顔に出てる? 分かりやすい?

 ──────────────────────

 それにしても、 俺今そんなに酷い顔してんのか……? そんなに木乃が来ないのが心配なのか……?

 多分、 それも有るけど俺のせいで来なかったってなると後味が悪過ぎる。


「何でも無いよ皆、 じゃあ授業始めましょうか深川先生」


「ん、 ああ……」


 やっぱ深川も俺の事を心配してる様だ……けど、 今は授業に集中しなきゃ──この生徒達は巻き込んじゃダメだ。

 授業が終わると、 俺は久々に亜奈に呼び出された。


「お兄ちゃん、 何が有ったのか教えてくれる? 赤薙先生じゃなさそうだよね」


「いや、 だから何も……」


 俺が言おうとした言葉を壁を殴って遮る妹。

 お前……力ヤバくね? めっちゃ響いたぞ。


「冬華ちゃん……でしょ? 」


「……! 」


 気付かれていた……そりゃそうか、 俺が告白を受けたその次の日から毎日来てた家に来なくなったんだもんな。

 誰だって気付くよな……。


「木乃を……振っ……てないな」


「……は? 」


 いや俺まだ振ってねーぞ木乃の事、 今考えたら。

 アイツ俺に言うだけ言って帰ったんだった、 勝手に振られたって言ってただけじゃねーか。


「ちょっと俺早退して木乃の家に行ってくる。 先生にはテキトーに言っといてくれ」


「はぁ!? 」


 何考えてんだお前ってなるよな……分かるよ、 ごめんな亜奈。

 ちょっくら話聞いてくる。

 俺は門の外へ出て、 木乃の家の方向へ走って行った。


 ピンポーン、 ピンポーン。

 誰も出て来やしない、 ここ誰も住んでねーのか? しかも木乃まで出て来ないしな……。

 その時、 俺のスマホが鳴った。


「ん、 もしもし? 」


『先生、 今僕ん家居るでしょ? そこには居ないよ』


 木乃からの電話だったが、 それを言うだけ言って木乃は通話を終了した。

 家じゃないって、 何処だよ! ……よし。

 俺は次に自分の家に来て、 部屋を全部探したがどこにも居なかった……そして再び木乃が電話をかけて来た。


「お前どこに……! 」


『家の中には居ないよ……そうだね、 探してくれるならヒントをあげる』


 ヒント!? クイズ気分かこいつ……!!

 でも木乃の声が震えているのも俺は分かっていた──泣いてる?

 暫くすると、 木乃は喋り出した。

 ──────────────────────

『今度は僕が水を零しちゃったんだ……新しい水は持ってるから、 拭く用のハンカチとか持って来てよ』


 そうして通話は終了した。

 ──ハンカチ。

 なるほどな、 お前が居る所が分かったよ、 ハンカチでじゃねーけどな……。

『水』の方だ。


「持ってってやるよ、 ハンカチ」


 待ってろよ、 逃げんなよ、 意外と体力無いんだからな。

 ……何でこんな回りくどい事を。

 ───────────────────────

「ほらよハンカチ」


「あ、 先生」


 俺は屋上にやって来て、 木乃に青い水玉のハンカチを渡した。

 木乃が言ったのは屋上の事だったんだ。

 俺と木乃が初めて会い、 俺が木乃の水を勘違いして消火に使った時に居た所だ。

 そして今回木乃が零した水とは、 涙の事だったのだ。


「ありがとう先生、 でどうだった? 」


「何がだよ」


「女の子泣かせた気分は」


 最悪……なのかな、 罪悪感が凄いし。

 それより、 何でこんな回りくどい事をしたのか聞いてみた。


「運命の出会いを適当に再現しようかなって」


 木乃は数秒だけ笑い、 真剣な眼差しを向けて来た。


「先生、 僕の気持ちは知ってるだろうけど、 ちょっとだけ時間もらえるかな」


 時間をくれ?? それって告白された側が言うことじゃ……。

 俺が不思議に思っていると、 木乃は俺と向き合うようにして立った。


「ちゃんと、 ちゃんと振られたいんだ」


「!! 」


 木乃はそう言うと頭を下げた。


「先生、 貴方が大好きです。 初めて見た時から、 面白い人だなぁ、 一緒に居れたら楽しそうだなって思ってました」


 そんな風に思ってたのか……面白いかよ、 よりによって。


「一緒にご飯食べたり、 デートしたり……本当に色んな事を考えていました」


 ……本気、 なんだな……木乃。

 木乃は顔をあげ、 陽の光で輝く雫を一粒零し笑顔になった──。


「大好きです、 先生。 貴方の恋人になりたかったです……!! 」


 俺はその笑えていない笑顔に胸が痛んだが、 これから言わなければいけない事により一層胸が痛んだ。

 木乃、 お前の気持ちは本当にありがたいよ。

 俺なんかを好きになってくれて……笑顔を見せてくれて。

 ……だから……

 ──────────────────────

「ごめんなさい、 俺には好きな人がいます。 貴女とはお付き合い出来ません」


 俺が深く頭を下げながら言うと、 笑った声がした。

 木乃は笑顔で俺を見ながら、 ハンカチを返して来た。


「知ってる」


 ──俺達が屋上で行っていたやり取りを、 2人の女性が見ていた……勿論、 アノ2人である。

 ────────────────────────

「おっきろー! お兄ちゃん! 馬鹿野郎! 朝だぞ! 」


「ん……今バカって言った? 」


 亜奈は『気のせいだ』と言って階段を駆け下りて行く。

 いや絶対気のせいじゃ無いと思うんだ、 ほら、 上の自分の言葉見てみろよ。

 嘘つけねーぞ。


 ……実は木乃を振ってから丸2年経っており、 俺はとうとう本当にあの高校で教師をやれる。

 先輩も同じ高校の先生になれたらしいから、 2年振りに会ってみたい。

 先生としてもまた後輩だな。


 階段のしたから熱々のフライパンを1つ投げて来た亜奈は、 高校を卒業してもなお、 俺を支えてくれている。

 2年前はあんなにもアホだった2人だけで生き延びれるとは……我ながらよく頑張ったと思うよ。


「私も会社に遅れるから早よせーや!! 」


「どわっ! やっべ悪い!! 」


 俺は階段を駆け下りていくと、 珍しい物を見たかの様に驚いた。


「よう、 久しぶりだな鈴都」


「兄貴、 相変わらずアホ面してんのな」


 兄貴と涼が居た……2人共出番の少なさに痺れを切らして出てきたのだろうか……。

 とにかく懐かしいけど話す暇は無いからまたな!

 ……俺は家を飛び出る。


「……慌ただしいのは変わんねーのな」


「あのバカ飯食ってねーぞ」


「変わらないよお兄ちゃんは殆ど……あんたらも相変わらずだけどね」


 すっかり全員大人になった俺の家族は俺が家を飛び出る度に何か言うのが決まりなのだろうか。

 俺は校門に着くと立ち止まり、 左手腕を回した。


「うっし、 行くか! 」

 ───────────────────────

「ねぇお兄ちゃん達何で帰って来たの? 」

「最後くらい出ときたいだろ」

「まあ、次が本当に最後だけどな」

「えぇ!? 」

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