最終章 3話 3人娘
今日は4年ぶりの赤薙先輩とのデートで、 もう二度と出来ないと思ってたから涙が出て来そうだ。
嬉しすぎて。
俺がそう思いながらベッドで起き上がろうとしたら、 亜奈が俺の上に跨っていた。
「お兄ちゃん、 お早う」
「あ、 お早う」
亜奈よ、 ソコの上に座りながら腰を動かすのはオススメしないぞ、 絵面が何かヤバいからな。
亜奈は何故か腰を前後に動かしている。
亜奈どうした? ちょっとマジで止めてくれ。
「……よし、 じゃあ私行くね」
「あ? ああ……」
何だったんだアレは……それより亜奈のせいで俺は暫く布団から出られないんだが。
あ、 いや、 あんな事されたらちょっと……ねぇ?
俺は着替えると、 下に降りてった。
亜奈は俺の下半身をガン見している、 やめなさいコラ。
「抜いてきた? 」
「この作品でそーゆー発言は許さん」
亜奈は笑うと凄く満足したようにはしゃいで外に出た……人で遊ぶの好きだね本当に。
ん? え!? 木乃からメール!? ……アイツいつの間に登録しやがった……。
「気持ちよかったの? 」
「何がだ……ってうわっ!? 何で居るんだよ! 」
リビングのソファーには木乃が座っていた。
何で居るんだよマジで怖いな。
「いやだから刺激されて……」
「失せろ」
何だ、 この作品にもとうとうEウィルスでも入って来たのか!? ここだけは安全だと思ったのに。
俺が悔しがっていると木乃が何故か尻を突っついてきた。
「そこにカッコいい大人の男性が居たら、 エッチぃ事したくなるでしょ普通」
「それは変態だけだ」
いいか、 コレはコメディではないんだぞ? そーゆー発言してツッコミを入れさせんじゃない。
俺が苛立っていると、 木乃は右腕に抱きつき柔らかいモノを当てて来た。
「治っちゃったから次は僕が……」
「ヤメロ」
朝から2人に振り回されて精神的に疲れながらも俺は赤薙先輩との集合場所、 4年前も来た公園にやって来た。
先輩はまだ居なそうだな。
「約束時間までまだあるし、 飲み物でも買っておくか」
俺が飲み物を買って帰ってくると、 ベンチには人が座っていた。
黒髪のロング……そしてあの時と同じくワンピースを着た女性が。
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「あ、 篠宮君じゃないか」
「え……? 」
まるで、 あの時の先輩が居る様だった。
先輩は無表情から笑顔に変わる。
「なんて……こんな感じだったんですよね? 私。 お早うございます篠宮さん」
あ、 真似してただけか……一瞬、 元の先輩に戻ったのかと思ったよ……な訳ないのにな。
俺と先輩は、 お互いを見て微笑みあった。
「じゃ、 行きますか」
「そうですね、 どこから行きます? 」
「それは勿論……映画館で」
今日俺は、 4年前と同じルートを通るつもりだったため、 1番最初は先輩と見たラブストーリーの映画だった。
まあ流石に全く別の作品だが。
『あの時のとは違っていい作品だけど、 何かエロシーン多くね? 』
俺はそう思いながら先輩の反応を伺った。
寝てました、 やはりつまんないっスか、 でも4年前は先輩が観たいって言ってたんですからね。
もしかしたら映画館自体あんまり興味無いのかもな。
「いやぁ、 流石につまんなかったですね」
「先輩、 それ言っちゃダメです」
先輩にとってはそんなにつまんなかったんですね、 でも俺にとってはそこそこ感動出来る作品だったんですよ。
そもそも寝てたらそりゃつまんないですよ。
よし、 次は服を買いに行く!
「この服和風で先輩似合いそうですね」
俺が先輩に服を見せると、 先輩はスマホで合成してみせた。
凄いな。
「あんま似合わないんじゃないですか? 」
「そっスか……」
そう言えば4年前はここで先輩の胸を……。
それにこの後だよな、 そのスマホ買ったの……懐かしい。
途端に俺のスマホが振動する。
ーー 『勃った? 』ーー。
亜奈からだったが、 急に何だ。
てかお前も勝手に登録したんかい。
「先輩、 そろそろご飯食べに行きましょうか? 」
俺がそう言うと、 先輩は時計を見てから『行きたい所がある』と言った。
──そこは4年前も来ていたゲームセンターだった。
先輩、 まさか覚えて……? る訳ないか。
そう思っていると、 先輩はあのシューティングゲームの銃を見つめる。
そして微笑み、 俺の方を向く。
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「これだけは覚えてます……初めて来たゲームセンターで、 初めてやったゲーム。 それがこれで、 隣には……貴方が居た気がするんです」
先輩は……全てを忘れた訳じゃなかった。
深く記憶に残ったものは消えていなかったのだ。
「このスマホを見ると、 今でははっきりと貴方の顔が浮かびます……私の記憶の奥深くに強く刻まれた思い出は、 貴方を思い出させるものばかりでした」
「先輩……」
俺は情けなくも涙が溢れ出てきてしまった。
俺の事を覚えていなかったが、 それでも記憶の奥深くには思い出と一緒に記録されていた事に……。
もう届かないと思っていた光が掴めそうな気持ちだった。
「じゃあ、 やりましょうか! シューティングゲーム」
「そうですね」
俺と先輩は、 あの頃よりも強くなってシューティングゲームを楽しんでいた。
「あのねーちゃん真顔なのにUFOキャッチャーすげーな」
「うん! 全部くれたし」
俺は気付く事はなかったが、 空になったUFOキャッチャーのケースの向こうから、 楽し気な俺達を見つめる者が居た。
「……つまんない」
──午後5時頃、 日が沈み出す。
「楽しかったですね」
「そうですね」
俺と先輩は夕焼けが紅く染まって行く中、 2人にで歩いていた。
先輩はバス停の前で立ち止まり、 時間を確認する。
「……時間、 どうですか? 」
「もう来ちゃいますね」
俺はもう終わりか……とがっかりしていたが、 先輩は荷物を持ち、 笑顔で俺に話しかけて来た。
「また今度も一緒に遊びませんか? 」
え、 良いんすか? でも、 帰りが……。
先輩に確認すると、 彼女は首を縦に振り答えた。
「人生楽しんだ者勝ちですよ」
彼女がそう言うと、 バスがやって来た。
先輩は静かにバスに乗った。
「ではまた月曜日学校で」
「はい……! 」
俺は先輩のバスを見送り、 荷物を持って前を見た。
「お兄ちゃん、 今日、 赤薙さんとデートだったんだね……」
「亜奈……? 」
亜奈は悲しそうな表情をしているが、 俺にはその理由が全く分からなかった。
亜奈はずっと黙ったまま動こうともしないし……。
その瞬間、 雷の鳴る音がした。
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そして直後、 雨が降り出した。
しかも結構大粒。
「ヤバい亜奈! 早く帰るぞ! 」
俺も亜奈も傘は持って来ていない……なぜなら今日は雨予報ではなかったからだ。
それに亜奈は自転車があり、 雨だと危ないから歩く又は走るしかない。
俺は亜奈の自転車に亜奈のバッグと荷物を乗せ、 自転車を押して走り出す。
「亜奈! 行くぞ! ぶぇっ口に入った! 」
亜奈は何故か歩こうとしない。
何やってんだ本当に、 風邪引いちまうよ!
俺は亜奈の腕を引っ張って走る。
──。
家に着くと、 亜奈はずっと無言でソファーの上に座っている。
「亜奈、 風邪ひくから着替えて来い」
「……」
亜奈は黙っている……よし、 ならちょっとすみませんね。
俺は亜奈の眼の前に座り、 じっと見つめる。
「ほら、 早く着替えねーとその透けた服ずっと見るぞ、 下着も見えるしちょっと胸も見えるぞ」
俺がそうやってると、 亜奈は俺の顔を自分の胸に埋めた。
……へ? あ、 濡れててメチャクチャ苦しいけど柔らか……。
「いいよ、 もっと見ていいよ。 私の事、 見て……」
「亜奈……!? 」
亜奈は服を脱ぎ始め、 そしてくしゃみをした。
涙目になりながら、 また俺の顔を抱きしめる。
今度は直に肌に触れて……ヤバい、 妹相手に変な事考えたらダメだ。
俺は亜奈の腕を解き、 バスタオルをかけた。
「亜奈! 何だどうした!? 何で急にそんな……」
そう言うと、 亜奈はますます苦しそうな表情になり、 泣き出した。
今までの子供っぽい泣き喚き方では無く、 堪える様に涙を流す。
「お兄ちゃんが赤薙さんと別れちゃって悲しんでるのを見て……どれだけ私が苦しかったと思う!? 」
「亜奈……」
亜奈は先輩が消えた3年間、 1人離れずに俺と居てくれた……それには、 俺が心配だと言う意味が有ったらしい。
でも、 どうしてこんなに苦しんでるんだ……?
「私はお兄ちゃんが好きなの! ……好きに、 なっちゃったんだよ……」
「え……」
まさかの告白に、 俺はただただ立っているだけだった……。
亜奈が俺を好きになった……兄の、 俺を……。
それがどんなに辛いのかは、 想像すればすぐに分かった……。
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昨日、 俺は亜奈に告白された……そう、 妹にだ。
そんな俺は驚きを隠せなかった……ん? あれ? また亜奈が俺に乗ってるのか? 重いぞ。
俺が目を開けると、 そこに居たのは亜奈じゃなかった。
「先生おはよ。 どう、 起きる前にもう大きくなってたけど、 ナニ想像してたの? 妹の裸? 」
「うお!? 」
俺の上には木乃が座っていた。
しかも、 触ってやがる。ヤメロ、 誰にも触られた事ないのに。
「てか、 ちげーよ……いや何で知ってる? 」
木乃は思い切り右手を握った。
痛い痛い!! ヤメロもげる!
「僕は昨日……先生達を尾けてたから」
マジかよ、 てかお前毎度毎度どうやって家に入ってんの? たまに亜奈すら起きてない時に入って来てるよね? 不法侵入だぞおい、 まあうちは誰も気にしてねーけどね。
「先生さ……ん、 やっちゃったね~」
「く……な、 何をだ……!? 」
木乃は手を上下に動かしながら何か意味深長な事を言いだし、 俺を見る。
「赤薙先生に妹さん……2人を同時に悲しませる事になっちゃうとはね~」
てか手ェ止めろマジで! これはダメだろ! 他のどの作品よりも行動ヤバいんじゃねーか!? ヤメロマジで!!
「どういう事だよ……! た、 確かに亜奈は悲しませる事になっちまうけど……っ! 先輩は違うだろ……!? 」
てかそろそろヤバいマジでヤバいヤメロヤメロヤメロヤメロ読者減るーーー!
木乃はギリギリの所で手を止め、 いつもよりちょっとだけ鋭い目つきになり俺を見て来た。
「先生じゃなくて僕」
その直後思いっきり木乃は手を動かした。
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俺は数分後李リビングに降りてきた。
「あ、 お兄ちゃんおはよ。 早く食べなよ、 行ってきまーす」
「ん、 ああ、 行ってらっしゃい」
……まさか木乃にも好かれてたとは……これはちょっとヤバい状況な気がする。
けど、 亜奈は妹で木乃は生徒……どうやってもそこと繋がる事はないから大丈夫か……?
俺達の関係は複雑な線を描いて行った。
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後で木乃にやり返し……ダメだ絶対。