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天才は笑えない  作者: ☆夢愛
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最終章(と言っても二章しかない)4年後。

 前回から四年が経ち、 俺は高校を卒業し教師になる努力をしていた。

 そして、 今年から教師として生きる事が出来る様になった。

 つっても実習生だが。


「お兄ちゃん、 そろそろ行かないとヤバいかもだけど、 一緒行く? 」


「ん、 ああ」


 大学生になって2年目の俺だけど、 一人暮らし出来る気がしなくて未だに前と同じ家に居る。

 だけど兄貴や涼は家を出て行ってて、 残ってるのは俺と高校2年生になった亜奈だけだった。

 腹立つ兄弟でも、 居なくなると心細いものだな……何せアホしか残ってねーからな。


 俺が実習生として行く学校は、 4年前までは赤薙先輩と、 2年前までは俺が過ごしていた高校だった。

 ふっ……、 意外と懐かしくない。


「じゃあ俺は向こうだから、 じゃあな」


「うん、 頑張ってねバイビ! 私のクラスだといいね」


「まあその方が楽かもな」


 高校に着くと俺は職員玄関の方へ向かったが、 癖で堂々と正門から入った為、 めっちゃ注目された。

 へい、 後輩どもよ。 学校は楽しいか? なんてな。


「おはようございます。 今日から2週間実習させて頂きます、 篠宮 鈴都と申します。 よろしくお願いします」


 職員室で挨拶を終え御辞儀をした俺が顔を上げると、 そこには高校時代に見た懐かしい先生達がいた。

 全然変わってねーし、 意外と最近会った人も居てやり難いなおい。


「ん? お前あの篠宮か、 金髪染め忘れてる」


「はい、 そうです」


 1年から3年までずっと担任だった深川には嫌な覚え方をされている……ん? ちょっと待って、 『染め忘れてる』??

 俺は手鏡をバッグから出し、 自分の髪の毛を見た。

 染め忘れてる……。


「すみません……!! 今度こそ染めてくるんで!! 」


 初日から謝る……俺はふと入学した時を思い出した。

 同じ事を繰り返すって、 俺どんだけ学習力ねぇの? そう言えば高校時代1回も茶髪に出来てねーな。


「いや、 それで構わんよ。 君がその髪色以外だと誰かわからんからね」


 校長先生も変わってない……しかも笑いながら言ってきた。

 高校時代ずっと金髪で申し訳ございませんでした。


「さて篠宮、 お前は私のクラスでいいか? 」


 元担任がそう言う。

 ──────────────────────

「はい、 勿論でございます」


 その方が何かとやりやすいので即答した。

 全校集会が始まる数分前になると、 先生達はザワつき始めた。

 何があったのか聞いてみると、 あと1人の実習生が来てないらしい。

 おお、 俺よりも大胆な遅刻だな。


『ええ、 今日から2週間、 この高校で教育実習生として生活する事になった先生達を紹介します』


 深川は相変わらず俺以外の生徒の前だと猫を被っている。

 その猫剥ぎ取ってやろーかコンニャロー。

 まず1人目の大人しそうな女性が挨拶を終えると、 次は勿論俺の番となった。

 あ、 しまった、 何言うのか忘れた。

 挙動不審でロボットの様に動く俺を見て、 先生達は呆れ生徒はバカにし笑う。


「えーーーと、 俺は篠宮 鈴都と言います。 今日から教育実習生として2週間過ごさせていただきます。 えーーーと、 んーーーと、 よろしくお願いします」


 俺は頭を下げると同時に涙が出そうになった。

 何で毎回こんな感じなのかな俺は……。


「篠宮って……」


「もしかして……」


 2年生連中がザワつき始めた。

 恐らく亜奈の兄と言うのが分かったんだろうが、 皆の衆、 妹は無関係だ、 バカにするのは俺だけにしてくれ。


「……何してんのよアホ兄貴」


 何を言ったのかは聞こえなかったが、 亜奈は眉を曲げ、 ムスッとした表情でこっちを見てきた。

 申し訳ございませんマジで。


「やっぱ篠宮は篠宮のままだな」


 深川がそう笑うが、 これでも頭は良くなったんだからな。

 記憶力の悪さは変わらないけどな。

 その後、 職員会議が終わると、 HR(ホームルーム)の準備をした深川に呼ばれ、 教室へと向かう。

 教室は2年4組……アレ? 何か記憶にある様な。


「お前達ー、 集会でアホやらかした教育実習生が来てくれたぞー」


 どんな紹介の仕方っスかね、 先生。

 ほら、 皆バカにして来てるんだけどねえねえ。


「皆、 一応私のお兄ちゃんなんだからやめてくれるかな? 」


 その言葉が聞こえた直後、 全員が黙り込む。

 あ、 やっぱり亜奈のクラスだった……さらに恥かかせてごめん……。

 そう思っている俺の傍では深川先生が腹を抱えて笑っている。

 あんたどんだけ俺で遊ぶの好きなの?

 ──────────────────────

 それより妹は何者? 一言で全員黙らすとか。


「えー、 先刻の集会でアホやらかした篠宮 鈴都です。 よろしくお願いします」


 ついでにバカにするのはヤメテくれと言うと、 皆快く受け入れてくれた。

 俺の学年とは優しさが違うね、 ありがとう。

 俺が感謝していると、 1人の男子生徒が立ち上がり手を挙げる。


「篠宮先生! 篠宮先生と亜奈って家族? 」


「ん? ああ、 そうですはい」


 うん、 絶対分かってて聞いてきたよね、 両方バカにするつもりか? てか何で亜奈って呼び捨てなんだ? まあいいか。

 クラス中が盛り上がり、 亜奈だけは不貞腐れている。

 よく聞いてみると全員が亜奈を呼び捨てにしていた。

 何? 皆仲良いの? すごいな。


「静まれお前ら、 HR(ホームルーム)始めるぞ」


 深川が大きな声で言うと、 全員が一瞬で静かになった。

 このクラスの出来が良いのか先生と我が妹がスゲーのか一瞬で黙るのは凄いな。

 感心していると、 HR(ホームルーム)が始まった。

 ──────────────────────

「お兄ちゃん、 私に何回恥かかせる気? 」


「ごめんなさい」


 俺は休み時間の間、 亜奈に呼び出され説教されていた。

 こんな場面生徒に見られたら終わりだな俺。


「次からは気を付けてね」


 妹はそう言うと去って行った。

 はあ……ん? 何か臭いな……あ! タバコ吸ってる奴がいる!

 屋上でタバコを吸っている男子生徒の元へ向かう俺。


「コラァ! タバコはダメだぞ! 」


「……誰だよ」


 男子生徒はタバコをその辺に投げ捨てた。

 おまっ……! それはヤベーって! 火事起こるわ!

 俺はタバコに置いてあったペットボトルの水を掛けて消火した。


「君! タバコなんて吸ってたら将来が辛いぞ! 」


 男子生徒は頭を掻き毟りながら俺に問いかけて来た。


「お前には関係ねーよ。 てか何が辛いんだよ」


「先生にお前って、 将来が辛くなるぞ! 」


「いやだから何が辛くなんだっつの」


「アホたれがああああ! 」


「アホお前だろっ!! 」


 言ったは良いが特に何も浮かばずテキトーに喋ってた俺は殴られた。

 あ、 内臓が悪くなるぞとでも言っておきゃよかったな。

 ──────────────────────

 いやぁ、 今時の子は手が早いね。

 俺は殴られた右頬を押さえながら座った。

 あー痛え痛え。


「……ん? 」


 上から小さいメモ用紙が降ってきた。

 紙には『水買ってこい』と書かれてある……もしかしてこの飲み物天の物でした? ……な訳ないか。

 俺が溜息を吐いてると、 上から女の子の声が聞こえてきた。


「君はやはり面白いな。 でもとりあえず消火に使った水の弁償をしてくれよ」


 屋上に来るための階段室の上には、 赤薙先輩と少し雰囲気の似ている黒髪ショートの女子生徒が座っていた。


「あ、 もしかしてさっきの水って君の? ごめん使っちゃって」


「うん、 僕の。 だから弁償してくれるかな? 1階に自販機が有って100円で売ってるから」


 あ、 買ってこいって事だね。

 今の生徒達は目付き悪いねーほんと。


「それよりいいか? 」


「何? 」


 俺はある一点をじっと見つめ、 指差した。


「パンツが丸見え……ゴフォっ!」


「僕は飲み物水以外飲めないんだから、 早めに買ってきてね」


 少女は飛び降りて俺の顔面を身軽に踏むと、 去って行った。

 首折れるかと思ったけど、 あの子小せぇし軽いな、 身長は多分150前半くらいだと思う。

 てか身軽過ぎんだろ。


 自販機でさっきと同じメーカーの水を2本買いながら俺は染み染みと考え込んでいた。


「はあ、 初日から散々な目に遭ってんな俺。 先輩に会いたいよ……ムリだけどな」


 階段の方から深川が俺を呼んでいる。

 え、 えと、 水後でも大丈夫だよな……? 俺は不安になりながらも深川の所へ向かった。


「最後の1人がやっと来た。 住んでる場所がかなり遠くてな。 実は去年も来れてなかったんだ」


 何だ、 遅刻は遅刻でもちゃんとした理由が有ったのか……俺と違って。

 そいつの挨拶を聞く事になったので残り4分の休み時間に教師が集められているらしい。


「とにかく時間が無い、 急いで行くぞ篠宮」


「はい」


 去年も来れてなかった……って事は、 歳上の人だよな……? やっぱ礼儀正しくした方がいいよな。

 職員室の扉を開け、 深川は時計を見る。


「あと3分か、 始めよう」


 深川は笑顔でその人に挨拶をするように促した。

 俺は思わず目を見開いた。

 ──────────────────────

「皆さん、今日から教育実習をやらせて頂く赤薙 侑梨菜です。 よろしくお願いします」


 赤薙先輩だった……4年前と全く変わらない姿をした先輩だったのだ。

 でも、 唯一変わったのは人前でも表情が変わる所。

 もう、 無表情な先輩は居なくなっていた。


 教師全員に挨拶をして行く赤薙先輩は、 俺の前に立った。

 先輩、 久しぶりですね。

 次の瞬間、 俺と先輩の事を知っている先生方が微笑んで俺達を見ていたが、 誰もが思いもしない展開となった。


「初めまして。 これから2週間、 お互い頑張りましょう」


「……え? 」


『初めまして』? 先輩、何言ってるんですか?

 あまりの衝撃に、 俺を含めた十数名の教師は目を見開いていた。

 先輩はその言葉を言うと、 そのまま職員室を出、 自身が実習する教室へと向かった。


「篠宮……授業が始まる。 行こう」


「……はい」


 授業の間、 俺はさっきの事が衝撃的過ぎて殆ど何も聞いていなかった。


「おい篠宮、 本当に大丈夫か? 今は授業に集中してくれ」


 俺は謝ると、 気を取り直して授業に取り組み始めた。


「どうしたんだろ……お兄ちゃん」


 授業が終わり、 昼休みの時間になると俺は屋上へ向かった。

 さっきのコはいるかな……?


「こっち」


 黒髪ショートのコは柵の上に座っていた。

 危ねーぞおい、 落ちたらどうすんの。


「はい、 水。 お詫びも兼ねて2つな」


「サンキュ」


 どことなく先輩と似ているこのコを見ると、 先程の先輩を思い出す……。

 先輩、 俺の事忘れてんのかな……俺そんな見た目変わった? 4年も経ったから……?


「どうしたの? 篠宮先生」


 名札を見たのか苗字で呼んで来た女子生徒は、 無表情だが心配してくれてる様だ。

 無表情だと、 より先輩と似てるな……。

 俺は今の気持ちを打ち明ける人が欲しかった為、 女子生徒にさっきの事を話す事にした。


「なあ、 君は4年前によく話してた人と再会して、 忘れられてたらどう思う? 」


「こいつ記憶力全くないなって思って馬鹿って考えて敬遠する」


 このコめっちゃ酷ぇ、 しかも無表情で言うから怖さもある。


「じゃあ、 その人が好きな人だったら? 」


 少女は一瞬固まった。

 ──────────────────────

 そしてじっと俺の目を見つめてる。


「……知らない。 ドンマイ、 じゃ」


 そう冷たい言葉を俺に言うと、 そのコは階段をゆっくりと降りて行った。

 先輩とは違って冷たいコだな……。

 クラスに戻って行く途中、 亜奈に声を掛けられた。


「お兄ちゃんどうしたの? 元気無いけど」


「ん? ああ、 この学校に今、 赤薙先輩が居るんだ。 けど、 俺に初めましてって言って来た」


 亜奈はかなりビックリした様子だ。


「そうなんだ……でも、 そう簡単に忘れちゃうものかなぁ」


 亜奈が先輩に聞いてみろと言うので、 俺は覚悟を決めて放課後、 先輩に話しかけてみた。

 それを壁の向こうから覗く人影に俺は気づかなかった。


「……」


「何ですか? 私に用って……」


「すみません急に。 どうしても聞きたい事があるんです」


 喋り方もまるで別人の先輩を前にし、 俺の身体は震えだす。

 そして俺は先輩に聞いた。


「俺の事、 覚えていませんか? 少しも」


 先輩は目を見開き、 焦った様な表情になると躊躇いながらも口を開いた。


「えっと、 私の中、 高生時代のお友達……とかですか? 」


 的外れでは無いが、 なぜ疑問系なんだろうか。

 俺はそう思いながらも、 自分と先輩の高校での関係を話した。


「私の……恋人……ですか……」


「そうです、 1年も経たず離れ離れになりましたが、 覚えてませんか? 先輩はその時と随分変わっている様ですが……」


 先輩は急に勢い良く頭を下げた。

 何か不安な気持ちになってきた俺は、 どうしたのか問う。


「私には、 高校時代から前の記憶が無いんです。 後から話を聞いたところ、 引っ越しの途中電車が事故を起こし、 私は1人生き残ったらしく……」


 ──記憶喪失……!? マジであんのかそんなこと!? てか、 引っ越しの途中って、 あの別れた後じゃねーか!!

 1人って事は親が死んでそのショックで記憶が!?


「ですから、 昔の私はもう居ません……忘れて頂けると有難いです。 では」


 俺は黙ったまま俯いていた。

 折角会えたのにこんな事ってあるかよ……。

 俺はその日、 暫く口を開かなかった。


「……」


 そしてそれも覗く人影。

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