番外編2or第3話 笑える天才
番外編が終わって、ここからは続きが思いついて書き始めたものとなってます。
完結まで繋がると思います。
先輩とスマホでやり取りする様になって早くも1週間が経った頃、 季節は夏となっていた。
先輩は 家でやる事が無いらしく、 毎日の様にメールをして来ていた。
夏休みが始まった7月、 先輩からとあるメールが来た。
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とあるファストフード店で俺は昼飯を食べていた。
丁度補習授業の後だったが、 補習授業と言っても全員強制なので俺がバカという訳ではない。
テーブルに置いていたスマホが振動した瞬間、 店中の人達にガン見された……すんません。
「あ、 先輩からのメールだ。 今日は昼に送ってくるのか」
いつも先輩がメールしてくるタイミングは夜7時から9時の間なのに珍しいな。
俺はスマホを開いてメールの内容を確認してみた。
ーー 『今日、 会えませんか? 』 ーー
え? 俺に会いたいって事? ……だとしたら嬉しいし、 こんな事滅多に無いから勿論OKだ。
ーー『勿論です。 今〇〇にいます』 ーー
何か自分で来いって感じになっちったけどいいか。
先輩すみません。
俺がスマホを置き、 ハンバーガーを食べようとした時、 何故か視線を感じた。
俺は店内を見渡すが誰もこちらを向いてはいなかった。
「何だ? でも明らかに見られてる気がしたんだけど……うおっ!? 」
窓側を見ると、 赤薙先輩が外から俺を見ていた。
そして俺が気づいたのに気づくとひらひらと手を振ってきた。
いつもの無表情で。
この氷の様な表情も本当に豊かになる日は来るのだろうか。
先輩は入店すると、 何かを注文してから俺の目の前にあるもう1つの椅子に座った。
「先輩、 メールしてから来るまでがめちゃめちゃ早くないですか? 」
「たまたますぐそこの洋服屋に寄っていてね」
確かに先輩は何か大きな袋を持っている。
洋服の事なので、 あまり聞こうと思わなかった。
それより俺が気になるのは店内に居るおじさん共の視線だ。
先輩が美人だからか皆見ちゃうんだろうねー……見んなよ。
「それより、 篠宮君に聞きたい事があるだけど」
「ん? 何ですか? 」
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先輩は周りを見た後、 俺に向かって小さく手招きをした。
俺が顔を近づけると、 先輩は両手を添えてこっそり聞いて来た。
「7月の18日、 何も予定ないかな」
「俺っスか? 俺は特に何もないですけど」
先輩は無表情だけど安心したようなカオをした。
いや、 多分俺がそう感じ取れるようになっただけで他の人からは無表情のままに見えてるんだろう。
先輩は再び 『耳を貸して』 と手招きをすると、 またこっそり聞いて来た。
「一緒に海に行かないかい? 」
海……先輩と一緒に?
いや、 でも2人きりじゃないかも知れないよな、 俺はどっちでも大丈夫だけど。
「私達2人で……だよ。 嫌かな? 」
嫌な訳ない。
俺は先輩が好きですからね。
「勿論いいですよ。 楽しみですね、 海」
でも、 何で急に海なのかな……疑問に思ったので聞いてみると、 先輩は無表情で照れていた。
「その……君との思い出を作っときたいなって思ってね」
俺との思い出……か、 いいけど、 そんな焦る必要は無いと思うんだけどな……?
「私、 今年一杯で引っ越す事になってしまったんだ」
何の表情も無くなった時の先輩は全く嘘を吐かない……今がまさにその状態だ。
つまり、 これは真実なのだ。
先輩が引っ越す……。
「そうなんですね、 どこに引っ越すんですか? 高校はずっと同じですよね……? 」
俺も焦っている……わざわざ話すって事は、 別の場所に行くに決まってるのに……聞いてしまっている。
「ごめん、 私は転校するんだ。 もう君の勉強を見てあげる事が出来なくなってしまうんだ」
さっきまで在った嬉しさが、 悲しさに変わっていて、 テンションはもうダダ下がりで、 俺は今きっと笑えていない。
「そうっスか……まあ、 もう二度と会えなくなる訳じゃないですもんね、 家の事情はどうしようもないですしね」
俺がつくり笑いをしながら言うと、 先輩は少し躊躇ってから口を開いた。
「……ん、 そうだね。 どうしようも、 ないんだよね……」
もしかしなくても、 二度と会えないんですか? その反応。
そんな遠くに行っちゃうんですか? 先輩。
そんな暗い雰囲気の中、 4日後の海の日程を決め始めた……。
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「あー……この日が来ちったよ」
7月18日、 先輩と過ごせる最後であろう日になった。
先輩は8月20日、 ここから電車を乗り継いで2日かかる所に引っ越すらしい。
7月一杯で高校から居なくなるらしい……お別れ会を開くらしいが、 その日先輩と居る時間はきっと無い。
まだ日にちはあるが、 最近先輩は忙しいらしく、 会える可能性は低くなっているのだ。
「……て事は、 今日しかないよな……」
俺は今日、 先輩に告白するか悩んでいた。
兄の蘭都に拠れば、 別れ際の告白は辛くなるからしない方が良いらしいが、 妹の亜奈が言うには、 言わなきゃ一生後悔するらしい。
どっちが合ってるんだか……。
「何が今日しかないんだい? 」
「おわっ! 」
先輩はごめんごめんと言った来たが、 全然先輩に気付かなかった自分にも驚いた。
「先輩いつから居たんスか」
「ちょっと前だよ。 篠宮君が何か言ってたから……」
じっと見てくる先輩と目も合わす事も出来ず、 『何でもない』 と誤魔化した。
俺達は、 来たバスに乗り、 初めて2人での遠出をした。
バスに乗ってる間、 何も話さない時間が続いていく……いや、 もしかしたら先輩は話しかけてきていたのかも知れないが、 俺は全て聞こえてなかった。
───1時間半後、 俺達は目的地に到着した。
「すげぇ」
殆ど何もない街だが、 近くに広がる海は晴天の為か、 目を奪われるほどの輝きを放っていてとても美しかった。
こんな場所があるなんて知らなかったな。
「前に君に海に行こうって言った前日に調べたんだ。 ここに、 君と2人で行きたいって」
喋る先輩を見て、 やはり俺は先輩が好きだと感じた。
そしてどうしてもこの関係が無くなると言う事実が受け入れられずにいた……せめて今日は、 目一杯楽しもう。
先輩の為にも。
「行きましょうか、 先輩」
「うん」
俺達は殆ど人の居ない静かな浜辺で2人で遊んでいた……。
一旦俺が飲み物を買って帰って来ると、 先輩は浜辺には居なかった。
「あれ? 先輩は……あ」
砂浜から結構離れた海の中に先輩は居た。
じっと立っていて、 遠くを見つめているようだ。
「先輩……」
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俺はふと先輩が海の中へ消えていく想像をしてしまい、 ペットボトルを置いて全力で海の中へ入って行った。
「先輩!! 」
俺は先輩の元まで泳いで行き、 先輩の細い左腕を強く掴んだ。
先輩はビックリした表情に変わり、 俺を見ている。
「……どうしたんだ? 篠宮君、 息が荒いし、 何か怖いよ? 」
俺は疲れていて、 まずは呼吸を整えた。
「すみません……マジでもう、 先輩が居なくなっちゃう気がして……」
「そっか……」
先輩は着ていた上着を脱ぎ、 藍色の水着姿となり、 上着をギュっと抱き締めた。
祈るように、 目を閉じて。
「この上着は、 君との最後の思い出になるかな。 これからはこうして、 会う事も少なくなっていくだろう」
先輩は目を開け、 俺の顔をじっと見つめてくる。
「君にはお礼を言うよ。 篠宮君のお陰で私は色んな表情が出来るようになった。 君が居たから、 私は今まで全く辛くなかった」
その言葉を言い終わると、 先輩は辛いのを我慢しているかの様な表情へと変わった。
「でも、 別れが来ると分かってしまったら、 胸が痛んだ。 苦しくなった。 辛過ぎて、 君に会いたくなくなったんだ」
普通は辛過ぎて会いたくなるものだと思っていたけど、 今の俺にはその言葉の意味が良く分かっていた。
「一緒に居る程、 別れが辛くなっていく。 だから今日で、 君と2人で会うのは終わりにしようと思ってる」
先輩の目からは涙が出てきていた。
暮れていきオレンジ色に染まる天が照らす海の中、 俺と先輩は……静かに心を落ち着かせていた。
そして、 絶対に聞きたくなかった言葉を聞く瞬間がやってきた。
濡れた手で涙を拭いた先輩は、 今までで最高の笑顔で、 その言葉を発した。
「篠宮君ありがとう……。 そして……」
『さようなら』
俺は何も考えられず、 放心した状態のまま、 暫く海に浮かんでいた……。
夜になり、 身体の乾いた俺達は宿に泊まっていた。
夜風に当たっていると、 部屋の戸が開く音がした。
先輩が俺の方を向いている。
「どうしても君に、 伝えたい事があるんだけど……いいかな」
俺が静かに頷くと、 先輩は俺の左側に遠慮がちに立った。
先輩は一度深呼吸をした。
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伝えたい事って何だろう……そんな事も考える事なく、 俺は空に浮かぶ無数の星を見上げていた。
「篠宮君、 私は……本当は伝えるつもりはなかったんだ」
「じゃあ、 何で言うんですか」
ちょっと……いや、 かなり冷たく当たってしまった俺は、 先輩に対して八つ当たりをしたんだと内心後悔していた。
先輩は、 いつもと違い今日は色んな表情を見せてくれた。
最初会った時は、 無表情で他人に興味がなさそうな人みたいに思えたが、 今はもうソレさえも変わってきている様だ。
そのまま向こうでも頑張って……またその事を考えてしまっている。
先輩はさっきの俺の冷たい態度で怯えている様だった。
ああそうだ、 今日が最後の日なら、 いっそ言っちゃおう。
「先輩、 俺先輩の事が好きです」
これから会えなくなるなら、 やはりこの気持ちは伝えた方が絶対いい──そう思ったのだ。
「え……」
先輩は目を大きく開け、 固まっている。
「もしかしたら俺、 会った時に先輩を好きになったのかも知れません。 いざ言うとなると、 たまに分からなくなる事があるけど、 これだけは自信持って言えます」
俺は先輩の肩を掴み俺の本気の気持ちを伝える。
「先輩の全てが好きです、 愛しています! 」
それを伝えると、 先輩の全身は硬直し、 肌は真紅に染まり、 慌てたような、 照れた様な表情となった。
「あ、 あの……篠宮君、 実は……」
先輩は一瞬口篭り俯くと、 すぐに俺の顔を見て、 口を開けた。
「私も、 篠宮君が大好きです……!!」
今までちゃんと聞いた事の無い様な、 先輩の本心を聞く事ができた。
俺も先輩もその後は大して照れる事なく、 微笑み合い、 2人で同じ言葉を口にする。
『愛しています』
そうして俺達はその後、 2人で同じ布団で眠りについた。
この幸せはこの数分の間だけ……明日には消えて無くなるこの時間は、 俺達にはとても短く、 儚過ぎるものだった……。
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朝になり、 バスで元の街に戻った俺達は、 その後の1日を、 大切に過ごした。
そして、 7月30日。
先輩との別れの日がやって来た。