番外編or2話 赤薙先輩とデート?
1話目で完結したけど、思いついて書いた2話目です。確か。
どうも、 篠宮鈴都っス。
初回を読んでくれた方は分かると思うんスけど、 俺は高校1年生となり、 初日から遅刻というアホな事をやってしまった身長180センチの金髪男子です。
金髪だけどヤンキーとかではないです。
高校で俺は『赤薙 侑梨菜』と言う、 学年成績1位の天才・無表情な先輩と出会った。
俺は頭が良くなりたいと言う願いがあり、 先輩と一緒に勉強会をし、 目標の『学年トップ10』には届かなかったものの、 20位台後半には入れた。
そして殆ど無表情で過ごしていた先輩の笑顔を、 唯一3回も見た人間であり、 その笑顔に惹かれた人間である。
先輩は美人だけど無表情で、 勉強も運動も出来るし器用だが、 表情に関しては不器用で、 放っておけない人です。
ちなみに俺は自称イケメンです。
イケメンと美女、 いいよね。
そんな俺達は土曜日の今日も会う約束をしている。
「おい、 鈴都。 電話が掛かってきたぞ? 何かすげー礼儀正しい女からだ。 俺も使いたいからさっさと出てこい」
俺の兄貴の蘭都。
今は大学2年生で、 成績も上々。
家事もこなすし、 とにかく何でも出来る自慢の兄貴だ。
……まあ、 兄貴にとっての俺は『バカなデカい弟』なんだろうけどな。
それより早く電話出ねーと! 多分先輩からだ。
「いやぁ、 兄貴はいつでもバカ度絶好調ですよ。 多分今日もさぞ楽しませてくれるでしょうよ」
「おいいいい! 何勝手に出てんだ涼!!」
現在中3の年子の弟、 涼。
毒舌で王様気取りでドSのとにかくクソ野郎です。
しかも頭いいらしい。
「俺が出てなかったら切られてたかもよ? 遅すぎて」
小馬鹿にしてる様に笑ってくる。
アレは悪魔だ。
俺が早速受話器を取ろうとした時、 部屋全体に響き渡る程デカい声で名前を呼ばれた。
「お兄ちゃんどっか行くの? 彼女? アホにも彼女出来るんだね」
アホなのはお前もじゃ。
末っ子の亜奈。
今は中1になったが、 ガキっぽさは全然抜けていない。
俺と同じく茶髪だが、 俺は染めて金髪になっている。
……う、先輩に染め忘れたのバレたの思い出した。
受話器の先から、 何かを置いた音がした。
ぷー、ぷー。
……切られた……。
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暫くして、 俺は先輩と待ち合わせをしていた公園に来た。
ベンチには、 薄い緑色のワンピースを来た黒髪ロングの女性が座っていた。
「先輩、 遅くなりました」
そう、 この女性が赤薙侑梨菜先輩だ。
にしても、 制服以外の姿は初めて見るな……無表情じゃなきゃ可愛いんだけど……。
先輩は立ち上がり、 姿勢を良くして俺を指差して来た。
「篠宮君、 私は今朝、 君の家に電話をかけた。 でも、 出て来たのは別の男の子2人だった。 君の声はしたのに君は出てくれなかったから……」
「本当にすみません! 兄弟のせいで……」
「まあいいよ。 行こう」
そうは言ったけど、 先輩が無表情でも不機嫌なのがわかる……表情に出てるより怖え。
よし、 今日この時間にもっともっと仲良くならなきゃ! 少しずつポイントを上げていこう。
「私はココに入りたいけど、 篠宮君は来るか?」
「映画館? いいっすね!」
定番っちゃ定番だが、 大してポイントを上げられる要素は無いよなぁ……先輩は何を見るんだろう。
『僕は貴女を、 死ぬまで愛すると誓います』
ああそっか、 先輩恋愛物が好きだったんだよな。
告白が成功した女子に向かっても、 良かったって言ってたし。
それにしてもこの映画はつまらな過ぎるな、 死ぬまで愛するなんて重くないか? でも先輩はこういうのが好きなんだろうな……。
先輩の方を向くと、 先輩はやはり無表情だったが、 1つ分かることが有った。
『あ、 本当の無表情だ。 つまんなかったのかな』
先輩は恋愛物なら全てが好きと言うわけではないらしい。
「さて、 次はどこに行こうか」
出て早々次の場所を考え出す先輩。
そんなにつまんなかったのか……。
次に向かったのは洋服屋だった。
まあ、 ベタっちゃベタっスかね……もしかして先輩ベタな場所しか知らないんじゃ……?
「ふむ、 私にはちょっと小さいかな?」
先輩は何やら試着している様だが、 俺は特に欲しい物が無く、 試着室の近くをうろついていた。
視界に女性用の下着が入った瞬間、 俺は脳内で先輩に着させてしまった。
死ね俺。
試着室のカーテンが開く音がしたので振り返ってみる。
「やっぱり小さいよね」
「!?」
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先輩は先程俺が妄想してしまった物と同じ下着を着けて俺に尋ねて来た。
先輩の言う通り、 少し小さく、 何と言うか、 その、 はみ出ていると言いますか、 はい、 すみません。
「そ、 そーっスね。 ちょっと小さいかも知んないっスね」
「篠宮君、 見ないで分かるとは思えないんだけど」
見ていいんなら見たいっスよ。
その言葉を喉元で止め、 先輩を試着室に戻す。
「篠宮君、 どうしてカーテンを閉めるんだ?」
その格好を他人に見られたくないからですよ先輩、 危機感持ってね?
先輩との買い物が終わり、 正午を迎えたのでレストランで食事をすることに。
「……先輩、 野菜サラダと水だけじゃ絶対腹減りますよ」
「私は今ダイエット中なんだ。 気遣いは必要ないよ」
「いやいや先輩、 限度。 主食がありゃしねぇっスよ」
さっき直に見たけど、 ただでさえ細いのにそれ以上痩せる意味あるんですかね、 骨になりそうな気がしますよ。
……な訳ないか。
先輩はフォークを置くと、 俺が食べ終わるのをじっと見て待つ。
いや怖いから。
食べ終わり店を出ると、 先輩がちょっと笑ってる様に見える。
「ふ、 ふふ……」
いや、 思いっきり笑ってるよなこれ、 何でだ?
先輩は『篠宮君』と俺の名前を呼ぶと、 俺の頬に手を伸ばして来た。
もしかして……。
「ふふふ、 君はやっぱり面白い。 どうやったらほっぺにご飯粒が付くのかな?」
先輩は笑顔で俺に付いていたご飯粒を口に入れた。
「あ……」
めっちゃ可愛い笑顔。
これだよこれ、 これが見たかったんだよ。
俺だけが知る先輩の笑顔!
俺が顔を抑えて悶えていると、 先輩は首を傾げて、 その後心配してきた。
先輩、 大丈夫です、 萌えてるだけなんで。
そう思った時には先輩はもう元の無表情に戻っていた。
先輩は人差し指をピンと立て、 思い出した様に喋り始めた。
「そうだ、 今日は私が行きたい所ばかり行って、 君が行きたい場所に行っていないね。 どこか行きたい場所はないか? 篠宮君」
そう言われて、 俺は真っ先にゲーセンが入ってきた。
どこでもいいと言われたので……。
「じゃあ、 一箇所行ってもいいスか?」
「うん」
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俺達はゲームセンターに入ったが、 ここで俺は思いもよらなかった言葉を聞くことになる。
「先輩、 何やります? 俺あのシューティングゲームがやりたいんだけど、 一緒にやりません?」
「え? ああ……シューティングゲームだね。 いいよ」
2つの椅子にそれぞれ座り、 シューティングゲームに使用する銃を構える。
何か先輩がそわそわしてる様に見えるけど、 気のせいかな……まあいいか、 楽しめれば。
有り得ない程のスピードでゲームオーバーとなった俺たちはただ呆然としていた。
「いやー、 負けちゃいましたね。 コンピュータ強いな」
いや、 コンピュータが強いと言うよりは何か、 こっち側が圧倒的に弱かったような……? 気のせいか?
そんな事を考えながら先輩を見てみると、 ずっと銃を見つめていた。
もしかして反応しなかったんじゃ……!?
「先輩、 どうしたんですか? 」
俺が先輩に話しかけると、 先輩はエビみたいな勢いで飛び跳ねた。
え、 そんなびっくりする……?
先輩は何かを躊躇っているようだが、 少ししたら口を開いた。
「……ごめん篠宮君、 私、 ゲームセンターに来るのが初めてというか……そもそもゲームをやるのも初めてというか……」
「え!?」
まさかこの時代に16歳でゲームをやっていない人間が居るとは……いや、 ゲームが禁止されている家の人間ならあり得るか。
「先輩の家って、 どう言ったご家庭なんですか?」
「あ、 いや、 私がゲームをやってないってだけで普通の家だよ。 特に何の縛りもないしね」
そうなのか……てっきり厳しい家だと。
「でも、 スマホのゲームもやってないって事ですか? それって」
「え、 ああ、 私スマホ持ってないよ」
え!? でも前持ってたよな。
「雨の日、 で合ってるかな? その時のは拾った物だよ。 持ち主に後日返せて良かった」
そうだったんだ、 だから連絡もメールとかじゃなくて家電なのか。
よし!
「じゃあ先輩、 スマホ買いに行きませんか? 」
「え、 私お金無いんだけど……」
「俺が払いますから、 行きましょう!」
俺が手を引いた時、 微かに先輩の頬が赤らんだのには、 俺は気付かなかった。
スマホ高ぇよな……。
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日が暮れ、 辺りが静まり返る時刻になった。
「いやぁ、 無事買えて良かったっスね」
先輩はスマホをじっと見つめている。
いつもと同じ無表情の筈なのに、 どこか和らいでる感じがする。
俺はふと空を見上げ、 スマホで時間を確認した。
「先輩、 6時になっちゃいましたね。 もう帰りましょうか」
「ん、 そうだね……」
先輩は急立ち止まり、 スマホを弄り始めた。
もう覚えたのか……さすが先輩だ。
「篠宮君、 ちょっといいかな」
「はい、 何ですか?」
先輩は少しの間口籠り、 夜風で髪を靡かせながら
スマホの画面側を向けて来た。
その画面には、 俺も使用している連絡アプリが映っていた。
「私は、 お父様やお母様や、 その他の人達より……先に君のを登録したい。 その、 何だ……」
もしかして先輩……俺とスマホでやり取り出来るようにしたいのかな……?
先輩はスマホを軽く握りしめ、 多少照れた感じで近づいて来た。
「私と1番最初にメールをする人になってくれませんか? 」
俺の予想は珍しく、 いい方向で当たった。
俺も普段から大して笑わない方だが、 この時は嬉しさが溢れ出て笑みがこぼれた。
「もちろんですよ先輩。 こちらこそお願いします」
俺達はアカウントを交換し、 その日はそこで別れた。
ーー ブー、 ブー 。 ーー。
「あ、 先輩からだ。 新鮮だな、 先輩とのメール」
スマホを開くと、 先輩からの初メッセージが届いて来ていた。
ーー 『おやすみなさい』 ーー。
俺はスマホを片手にベッドに転がり、 先輩への初メッセージを送り返した。
ーー 『おやすみなさい先輩』 ーー。
先輩が常に表情を見せるようになるのはまだまだ先の事かも知れないが、 頭が良くて優しくて、 不器用でちょっと世間知らずで最高に可愛い先輩の表情は、 これから少しずつでも増えていけば良いと願っている。
俺はこれからも先輩と居たい。
ーー END ーー