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天才は笑えない  作者: ☆夢愛
1/9

笑いなよ?

本来は1話で完結だったこの作品は、1話目がとても長いですごめんなさい。

2話分に分けられる程ではなかったので纏めてしまいました。


私の書くラブコメでは最も古い作品です。

恥ずかしい文章ですが、どうぞよろしくお願いします。

 家の窓を開け、 仄かに暖かい弱めの扇風機に当たっているような心地よい春風を受け、 俺は……寝そうになっていた。


 篠宮しのみや 鈴都りんと15歳。

 俺は今日から市立の高校の一員となる。


「くっそ、 意外と入らねーな制服。 小ちゃ過ぎたな……失敗した」


 制服相手に苦戦していると何の確認もせずに部屋の扉が開く。


「おい、 もうすぐ7時になんぞ。 のんびりしてんじゃ……」


 大学生の兄、 蘭都が勝手に入ってきたのだ。

 兄貴はいつもそうだ、 何の遠慮もしやしない。

 俺の格好を見て肺活量が異常とも思える程深い溜息をつくと、 兄貴は部屋から出て行った。


「180もあんのにんな小せえもん着てっからだろバカが。 さっさとそのボサボサの金髪直してこい」


「中3の間に異常に伸びたんだよ! って、 髪の毛忘れてた!」


 えー、 分かってきたと思うんですが、俺は見た目はパーフェクトだが頭はちょっとだけ悪いです。

 つっても、兄貴を見返すために高校じゃめっちゃ頑張って成績上げまくるけどな。


「ん?」


 出て行ったはずの兄貴が扉の隙間からこっちを覗いている。

 何か嫌な予感。


「成績悪い奴が成績上げまくれるわけねぇだろ。 地道に頑張れよ。 それと早くしろ」


 いちいち腹立つ兄だこと。

 へいへい、 さっさとしますよ! たくっ。


 部屋を出て一階のリビングに向かうと、 兄弟3人と親に冷めた目で見られた。

 遅くなってスンマセンでした。

 中1の妹がロングからショートに変えた黒髪を整えながら近づいてくる。


「入学式で遅刻とかやめてよね。 私が恥ずかしいから」


 いや、お前も今日入学式じゃねーかよ。 超ゆっくりしてんじゃねーかよ。

 テレビを見ながらくつろぐ一個下の長髪の弟は妹と俺を見て呆れた表情をしている。


「何だよ、 涼」


「いや、 どっちもバカなんだから準備くらいさっさとしたらいいのによ……って思ってな」


 全くもって可愛くねぇ兄弟達だ。

 俺は腹が立ったわけではないけど、 朝飯を食い忘れて出て行った。

 ……何か最後に聞こえた気がしたな……まあいいか、さっさと行こう。

 実は聞こえたのは涼の『ほらバカだ』という一言だった。

 ──────────────────────

 高校に着くと 8時7分になっており、入学式が始まる8時10分にはギリギリ間に合ったが先生には怒られた。

 俺はその日、 入学初日から遅刻した男として有名になった。


 入学式を終え、 クラスでの自己紹介を終え辱めを受けた俺は、 休み時間の間校内をフラついていた。


「はは……入学初日から有名人って、 涼が聞いたらめちゃくちゃネタにされそうだな……」


 ショックでフラフラしていると、 後ろから声をかけられた。

 何だろう…… 静かで、心が安らぐような優しい声だった。


「君、 新入生だよね。 もうすぐHRの時間なのに2年の校舎居て大丈夫なのか?」


 声とは逆に、 いやまあ大人しそうだけども……明らかに感情が無いんじゃないかってほど無表情で、日本人形みたいに髪の毛が長く、 それでいて顔もスタイルも(俺的には)いい女性が立っていた。

 てか、え? もうそんな時間? てか俺いつの間にか1年校舎出てたの? うおぉ……ヤベェ。

 2年のってことは先輩だよな。

 良い印象与えたかったけど失敗したな……てか失敗し過ぎだろ俺。


「先輩名前は?」


 ごく普通に聞いてみた。


赤薙あかなぎ 侑梨菜ゆりな


 ごく普通に返ってきた。


「侑梨菜先輩ありがとう! またね!」


「また」


 馴れ馴れしいことを忘れて走り去る俺に侑梨菜先輩は二文字で返事をした。

 しかも無表情で。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 数時間後、 俺はクラスの誰とも会話も出来ず最悪のスタートを切っていた。

 辺りを見渡せば幾つかのグループは出来ているというのに……虚しい悲しい切ない下らない(俺が)


「あ、 そうだ」


 アホなことを考えてる途中に浮かんできたのはアノ先輩の顔だった。

 無表情だし、 何考えてるか分からないのが記憶に残りすぎて気になってきたのだ。

 俺はアホ丸出し……って何だよ。

 とにかく急に元気よく立ち上がり、 担任となった女教師の所へ向かった。


「先生、 2年生で 赤薙 侑梨菜って人、いるじゃないですか、あの無表情の……」


 自分で失礼だと思ったが、それしか思いつかなかった。

 先生は頭を掻き毟ると、『アイツか』 と溜息をついた。

 あれ? もしかして問題児だとか……?

 ──────────────────────

 頭を掻き毟りながら続ける担任……頭掻くの好きだな先生よ。


「アレは稀に見る天才だよ」


 ……天才? 天才っつった今? え、 あの無表情の先輩が天才? あ、 無表情でいる天才?


「勉強に関してはアイツは学年、 いや、 学校一の脳を持ってるよ。 その上何気に運動も出来るんだ。 な? 天才だろ?」


 先生は再び頭を掻き毟る。

 天才……マジでいるのかこの世に……俺はテレビにたまに出るやつらくらいかと思ってたよ。

 そんなことを思ってると、 頭の中に兄弟達が入ってきた。


『テレビに出てる奴らは実在してるわ』


 んなこと分かってらぁ! いちいちうるせーなこのヤロー! 何だお前ら寄ってたかってこのヤロー!

 ……自分の語彙力にビックリせざるを得なかった。

 ふと俺はまた頭の悪そうなことを考えついた。


「天才の先輩に勉強教えて貰えば頭めちゃくちゃ良くなんじゃね?? 」


 思わず声に出してしまい、 クラスの皆に爆笑された。

 穴があったら入りたい気持ちだ。

 そしてその穴を埋めてくれ。

 って言ったら涼が喜んで埋めてきそうだな。

 ──────────────────────

 コンコン、 とドアを叩く音がしたので、 クラス中がドアの方向を見る。

 ドアが開くと、そこには艶やかな黒髪ロングの女性が立っていた……無表情で。

 そう、赤薙先輩が来たのだ。


「先生、 このクラスに金髪を茶髪にし忘れた身長の高いちょっと抜けてる男子生徒、 篠宮 鈴都君はいらっしゃいますでしょうか」


 先輩、 何てこと言ってんすか……そして何で髪の毛染め忘れたこと知ってんすか。

 それより、 何で名前知ってんすか。


「あ? 篠宮ならそこに居るが、 どうしたんだ?」


 先生、 良い加減頭掻くのやめなよ。

 先輩はこっちを向いて凄く静かに……凄く無表情で近づいて来る。

 怖い怖い、 来る、 きっと来る……何を考えてんだ俺は。


「はいこれ、 走った時落ちたよ。 ソレは大事な物なんだからしっかりね」


 先輩は俺の学生証明書を渡して来た。

 ナルホド、 これで名前が分かったのか……でも髪の毛は?

 それより、 声だけ聞いてれば優しい感じで何か……感じるのに何でこんな無表情なんだろうか……。

 俺は先程考えていたことを思い出し、 勇気を出して先輩に言った。

 いや、 告白とかのじゃあなくて、 恐怖に打ち勝つ方の。


「先輩、 ちょっといいですか?」

 ──────────────────────

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「篠宮君、 屋上に連れてこられたのはなぜ? 私寒がり何だけど」


「え、 あ、 すみません。 日向でも寒いですか?」


 先輩は体だけ考え込むと、 大丈夫、 と頷いた。

 これだけ美人なのに、 なぜ笑ったりもしないのかなどと、 そんなことばかり考えていた。


「篠宮君? 用はどうしたの? 私は授業に遅れたくはないんだが……」


 地味に思ってんだけど、 先輩意外な喋り方してるよな……しかもはっきり目を開いて無表情だからそこそこ恐怖だ。


「先輩、 めちゃくちゃ頭いいんですよね?」


 真剣な感じで聞いてみると、 先輩は首を傾げた……が、表情は変わらない。

 ロボットかこの人は。


「さあ……。 私が頭良いのかはよく分からないけど、 2年生の中では成績トップらしい」


「先輩、 それで頭良く無いなんて言ったら周りバカにしてんのと勘違いされますよ」


「そうか、 難しいんだね」


 うん、あんたがとても難しい。

 まあ今更そんなこと考えても意味ないか、 よし、 本題だ。


「先輩! 俺に勉強を教えて下さい!!」


「いいけど、 どの範囲?」

 ──────────────────────

 え? どの範囲って? どゆこと? 待って俺ワカラナイ。

 先輩は俺の心中を察した様に言葉を続けた。


「私の知ってる範囲全てを教えた方がいいのか、 それとも君が今年学ぶ高校1年生までの範囲を教えればいいのかなんだけど」


 先輩、 その疑問を自分に問いかけてみてください。

 先輩を俺と同じレベルの脳と考えて、 その答えはどっちになるか考えてみて下さい。

 学校一と言われる人の脳内にある分全部教えられたら頭パンクしますよ、 爆発して使い物にならなくなりますよ。


「1年の範囲でいいです。 てかそっちでお願いします」


「そうか、 難しいんだね」


 先輩、 セリフの使い回しはやめて下さい、 こっちが虚しくなります。


「聞くけど君は何で頭良くなりたいんだい?」


 俺は聞かれた質問に正直に答えた方がいいのかどうか悩んだ……だって、 兄弟を見返す為なんて、 バカにされるか笑われるかのどっちかっしょ?


「……ちょっと、 見返したい奴等が居まして……」


 先輩は『そうなのか』 と言い階段の方へ向かって行く。

 え、ダメ?

 ──────────────────────

 先輩は立ち止まり、 こちらを振り返る。

 長く綺麗な黒髪を靡かせながら……。


「いいよ、 教えてあげる。 いつがいい?」


「本当っスか!? やった! えっと、 先輩はいつが空いてますか?」


「そうだね……ん、 いつでも大丈夫だよ。 私は部活にも入っていないし、 何より暇なんだ」


 暇なんだ……。

 と、いうことで俺と先輩の勉強会、 いや、 特別授業は放課後の1時間となった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 家に帰ると、 いつもなら帰りが遅い兄貴が居た。


「何だお前、 帰るなり機嫌がいいな。 何かあったのか?」


 いや、 むしろヒデーことばかりだったけども。

 ……でも今の俺は、 勉強を教えてもらえるってことで気分が良かった。


「へへ、 最初の中間考査、 俺は総合でトップ10に入ってやるぜ!」


 直後、 俺を含めた全員のテンションはだだ下がりした。

 俺までテンションが下がった訳は、 突拍子もないことを口にしてしまったというヤッチマッタ感があるからだ。


「ん、 まあ……頑張れよ」


「良くて60位辺りに千円」


「期待せずに待つよお兄ちゃん、 ふぁいとぉ……」


 兄貴、 無理して言わんでくれ……そして涼よ、 賭けるな。

 本当に金もらっちまうぞコラ。

 亜奈、 お前は最早テンション下がりすぎなのがバレバレだ。

 とりあえず皆ごめん……。


 この日は全員殆ど会話もせず寝た。

 いやいやいや、 俺が大胆発言しただけで何だよオイ。

 酷すぎんだろ。

 もう、 こうなったら意地でもトップ10に入ってやるかんな! ちくしょう!

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 昨日はイライラして全く寝れなかった……今日から頑張って先輩と勉強すんのによ。

 ん? 校門で誰か立ってる……黒髪ロング……もしかして!


「あ、 篠宮君。 おはよう、 今日もいい天気だね」


 あのね、 いい天気って表情じゃないですよ先輩。

 その顔は常に大雨状態っスよ。

 いつになったら止んで晴れになるのかな?


「今日から楽しい勉強会だ。 張り切って行こう」


「なら、 先輩がもうちょっと張り切って下さい」


 ……ん? あれ? 俺今声出した!? やべぇかも……。

「……」

 ─────────────────────

 先輩はいつも通りの表情でこっちを見つめてくる。

 ……ん? でも何か雰囲気が違う?


「私は、 表情を作るのが苦手だからな。 自然と変わることもないし」


 先輩は手を振って先に校舎に入って行った。

 流石の俺でもわかる……悲しい気持ちにさせたはずだ。

 だってさっきの先輩の顔、 いつもと同じ無表情なのに、 暗かったから……。


 放課後、 俺は先輩のクラスに向かった。


「失礼します、 赤薙先輩居ますか?」


「篠宮君、 ここに居るよ。 さあ、 始めよう」


 傷つけたはずなのに……先輩は優しく呼びかけてくれた。

 そしてそのまま、 殆ど会話が無い時間が続いた。


「ん、 大変だ篠宮君。 気付いたら6時半になっている。 その上雨も降ってきた」


「あ、 マジか! すみません先輩、 早く帰りましょう!」


 先輩は頷くと鞄を持って教室を出た。

 俺は今朝のが気まずく少し経ってから教室を出た。

 昇降口に出ると、 先輩が外を見つめて立っていた。

 右手にはスマホを持っている。


『何だ? 何で帰らないんだ? ……あ!』

 先輩を見た所、 傘を持っていなくて、 外は本降りになっていた。

 ……気まずいとかなんか気にしてられるかよ。


「先輩! 傘、 貸しますよ」


 俺は自分の傘を先輩に差し出した。

 俺は兄貴達に連絡して傘を持ってきてもらおう。

 先輩は傘を差したが、 歩こうとしない。

 そればかりか、 こっちを向いてきた。


「篠宮君、 何しているんだい? 早く来ないと帰れないじゃないか」


 え?

 先輩は俺と一緒に傘に入るつもりらしい。

 だけど流石に俺は恥ずかしいし、 身長差が18センチだしなぁ。

 先輩は、 一度中に戻って来て俺の腕を掴み『行くよ』 と言った。


「あの……先輩は誰かに見られても平気なんですか?」


 疑問に思ったので聞いてみると、 先輩は一旦首を傾げた。


「ただ同じ傘に入っているだけだよ。 人は関係ないさ」


 まあ、 先輩らしいっちゃらしいのか? よくわからんな。


「それにしても君は入らなかったらどうするつもりでいたんだ?」


「え、 兄貴に傘を持ってきてもらおうかと……」


「ならこっちでも同じじゃないか」


 先輩は微笑んだ。

 ──────────────────────

 ーーーー昨日は結局のところ濡れた。

 まあ家は別だからね。


「さて、 気分を一新して行くか!」


 午前の授業が終わり、 昼休みの時間となると、俺は真っ先に先輩がいつも居る広間に行った。

 お、いたいた先輩。


「おーい……」


 そう呼びかけようとしたが、 先輩は俺に気づかず窓から校舎裏の方をじっと見つめている。

 俺も気になり違う窓から同じ方を覗いてみると、 校舎裏には2人の男女が居た。

 告白のシーンらしい。


「先輩でもああいうの気になるのかな……」


 女子生徒の方が頭を下げ、 男子生徒の方に手を伸ばすと、 男子生徒はその手を握り、 頭を下げた。

 どうやら告白は成功したようだ。

 女子生徒は泣いて喜んでいる、 良かったな。


「良かった」


 声がした方には先輩が居た。

 胸元に右手を置き、 優しい笑顔で彼女達にを見つめる先輩に俺は思わず見惚れてしまった。

 ーー 綺麗 ーー。

 その言葉が頭を過る。

 直後、 先輩は俺に気づき、 いつもの無表情に戻り、 手を振ってきた。


「篠宮君、 一緒に食べよう」


「はい」


 俺は笑顔で返事した。

 いつか、 俺といる時にもあんな笑顔を見せて欲しい……そう思い始めてた。


 それから毎日毎日俺は先輩と2人きりで勉強会を続けた。

 そしてとうとう、 中間考査がやって来た。


「うわぁ、 全然採れなかったらどうしよう……」


 俺が不安気にしてると、 先輩は俺の顔を覗き込んできた。


「大丈夫。 自分を信じろとまでは言わないけど、 今日までの2ヶ月間やって来たことをテストで発揮するだけだよ。 頑張ろう」


「はい! 」


 先輩、 ここまでありがとうございました。

 ……でも、 中間考査が終わったらこの関係、 終わっちゃうんですかね……?

 中間考査を受講している間……俺はそればかり考えていた。

 先輩はどうかんがえてるんだろう……。


 そして、 1週間後、 学年順位が発表される時が来た。

 先輩、 見てて下さい!

 ……あ、 先輩真後ろに居る。

 マジで見てる。

 ─────────────────────

「ん、 まあ、 お前にしちゃあスゲー頑張ったと思うぞ?」


「……ああ」


「んな落ち込むなって。 2ヶ月でバカがこんな上位になれるなんて奇跡だかんな?」


 ……そう、 俺は有言実行を達成出来なかったのだ。

 結果は総合151人中27位、 トップ10には、 足りなかったのだ。

 確かに兄貴の言う通り、 俺がここまで上位に来れたのは奇跡かもしれない……だが、 ここまで手伝ってくれた先輩に申し訳ないと思った。


「鈴都にしちゃ頑張ったんじゃね? 俺は8位だったけど」


 相変わらず人を下に見てものを言ってくる涼。

 いや下なんだけども。


「え! 27位!? 私81位だったのに」


 亜奈は俺と同じくアホだからな、 仕方ないや。


「さ、 お前ら早く行って来い。 遅刻すんぞ」


 高校に着くと、 門前に赤薙先輩が立っていた。

 先輩、 会わせる顔がない時にいないでくれよ……。


「先輩、 ごめんなさい。 俺、 トップ10に入れませんでした」


「知ってるよ」


 言葉が胸を刺す。

 そりゃ知ってるか、 昨日一緒に居たもんね。

 発表の時。


「でも、 私も君に謝らなきゃいけない事があるんだ」


 先輩が? 俺に? 問題の教え方は間違えてなかったけど?? 何だろう……。

 先輩は俺の顔の前に何やら紙を突き出してきた。


 先輩の成績表のようだ。


「先輩……2位!?」


 先輩は紙を仕舞うと俺の顔をじっと見つめて来た。


「君と勉強会をしていたら、 自分の勉強が疎かになってしまっていたらしく、 この結果だ」


 え、 じゃあ先輩が成績下がったのって、 俺のせい!? ……そうだ、 先輩の事忘れてた。


 ん、 でも成績が下がったって事は、 勉強が疎かになったって事は、 先輩は天才っていうわけじゃなくて、 努力家だったのか……。


「教えていた私がこれじゃ、 君に悪いね」


 先輩の表情がまた暗くなる。

 俺は何も考えられず、 思わずある言葉を口にした。


「先輩! 笑ってよ!」


 先輩は無表情ではなく、 少し目を大きく開いてこちらを見ている。

 うんごめん先輩、 俺何言ってんだろうな。


「ぷっ」


 え?

 先輩は初めて、 俺の前で満開の笑顔を見せた。

 腹を抱えながら、笑っている。

 ──────────────────────

「ははは! 君、 やっぱり面白いね!」


 少しずつ笑いを堪えようとする先輩だが、 ツボに入ったのか、 中々笑いが止まらず腕で顔を隠し始めた。

 先輩、 そんな笑われると俺……穴に入りたくなります、 もうやめて。


「んんっ! ……ごめん、 笑い過ぎたよ」


「あ、 はい大丈夫です。 先輩の笑顔が見れたんで」


 何かキモく感じるけど、 俺は本心を口に出しただけだ。

 先輩は少しニヤけ、 俺に顔を近づけて来た。


「私、 頑張ったよね?」


 ん? 何を言い出すのかと思えば……俺は勿論『はい』と答えた。

 先輩は再び笑顔になり、 俺の顔を指差す。


「御礼に私に笑顔をくれないか?」


 はい? 笑顔? 何で?

 俺が悩んでいると、 先輩は無表情に戻り、 首を傾げた。


「ダメかな……私も笑顔見せたのに……ダメかぁ」


 無表情じゃなきゃ、 可愛い感じなんだけどなぁ……無表情じゃ怖いだけなんだけど……。


「……なら私も笑わないよもう、 先行くね」


 えー……すねちったよ。

 俺は先輩と離れたくないという気持ちが強くなっていたのか、 それとももっと深い気持ちなのか分からないが、 少なからず先輩に好意を持っていた。

 その事に気付くのは、 まだまだ先の事だ。


「先輩、 待ってって!」


 俺はもっともっと先輩の色んなかおを見る為、 これからも先輩と一緒にいようと思う。

 いや、 居たいんだ。

 そう心に決めて俺は先輩を追いかける。

 ーーーーENDーーーー

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