魔女の誕生 ―ハイリンダの青春録―
ダークで残酷的な描写がございますので、閲覧には注意を要します…………
静かな湖畔の悪魔の森の奥深くの影からチラリと見える奇妙な館。ここには数奇な運命に身を委ねた現代の魔女がいた―――
赤や金、茶や銀、藍や黄、様々な色が混じった髪。ローブから生える手足は細く、強く力を込めれば折れてしまいそうなまでにか弱い。
カビの生えた古書を開き、指で文字列をなぞる指は不確かな謎に満ちていて悍ましく、より繊細さを際立たせていた―――
「空に掲げし熱き照天の真円は…………」
―――彼女の名はハイリンダ
儀式や魔術を専門とする一族の末裔であり、男手に恵まれなかった父親から保険のために育てられた存在である。
読み終えた古書を戻し、扉を開け廊下へと赴く。
扉の直ぐ傍に置かれた、かつての妹達が眠る骨壺を一撫でし彼女は階段をゆっくりと降りていく。手すりの埃を手に纏わせながら―――
「そろそろ外に出ないと物が無くなってきたわね……」
―――後継者は男子のみ
ハイリンダの妹達は生まれながらにしてすぐにその役目を終えた。彼女の母親は度重なる出産と繰り返される死別に耐えきれず、若くして亡くなった。
その訃報を聞いた母親の両親は、怒りに震えハイリンダの父親を容赦無く斬殺し、ハイリンダを後生大事に育て上げる決意をした―――
「食べ物……供物……本……肉……」
―――ハイリンダの父親は
各地で邪神降臨の儀を行い、豊作や長寿を授ける秘法を行っていた。ハイリンダが8歳の時初めて目にした邪神の姿。それは禍々しくも美しく、そして彼女の心を捉えるほどに魅力に溢れていた。
父親の不在を見計らい、儀式に関する書物を書き写していた。そして自分の部屋で穴が開くほど読み耽っていたのだ……。
「ちょっと貰うわよ……」
―――ブヂッ! グヂュ……!
小さな檻に入れられた鳥の首を掴み、ナイフで切断していく。鳥は暴れ藻掻き苦しみの果てに息絶えるも、続いて脚を引き千切り、手荒く檻の中へ首と胴体を放り投げた―――
―――邪神は彼女の前に現れた
父親の真似事程度の感覚であったが、邪神は確かにその姿を彼女の前へと晒し、彼女は嬉々として燥ぎ回った。ハイリンダが15歳の時だ。
ポン、と装飾台の一つに供物として用意していた鳥が当たり倒れると、邪神の顔に斜めに亀裂が入り、若葉色の鮮血が小さな彼女の部屋へと飛び交った。
そして蜃気楼の様に邪神が消えると、彼女は呆然としながらも鏡に映った血塗れの顔を拭い取り必死で儀式の痕跡を消した。
父親に悟られぬようにこっそり忍び足で外へ出ようとすると、玄関には血に塗れ全身を朱に染めた父親の姿があった―――
「流石に鶏肉も飽きたわね……」
―――昼食の後片付けをし、残った鶏肉をパンに挟むとクルクルと紙で包み手荷物へと加えた。
檻の中の鳥は首が半分切れているも脚は元通り生えており、次第に首も元通りにくっついてゆく…………。
「アンタもついてないわね……」
唯一の不老不死仲間である檻の鳥に声を掛けると、ハイリンダは館の外へと出掛けていった―――
彼女の記録がまた見付かれば、随時公開していきたいと思います…………