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お祈りメール

作者: くさみつば

 朝。スーツを着た初老の男が札幌市大通公園のベンチに座っていた。


 「今日も、行くか」


 腕時計を確認した後、男が呟く。

 男はとある大手企業の平社員………だった者だ。つい先月、上司から暇を出された。

 男には妻はおらず、もちろん息子・娘もいない。

 親も去年に両方亡くし、その親にはどちらとも兄弟がいなかったので従兄弟もいない。

 親戚など、一人もいなかった。孤独だ。


 さて、男は何処へ向かうのか。

 通りを歩き、しばらくして着いたのはベンチャー企業のミール社。

 そのオフィスは雑居ビルの2階だ。




 「どうぞお入りください」


 「失礼します」


 男が入った部屋には同じくスーツを着た、男より若い数人の男女が机越しに座って待っていた。

 そう、面接だ。

 自分より若い世代に面接されるというのはどういう気持ちなのか。

 男はこの時、何も思っていなかった。強いて言うならば虚無感、または何かを失ったような喪失感と少しの緊張。

 他人はどうなのかわからないが、きっと悔しかったり、自分より成功している若者をみて世を恨んだりもするのだろう。


 「では、以上で終わります」


 「ありがとうございました。

 …失礼します」


 そう適当なことを考えていると、いつの間にか面接は終わっていた。

 もちろん、受け答えはしっかりとやった。


 ビルを出、小さく嘆息。

 手応えが無かった。ただでさえマイナス面の多い自分をアピールできなかった気がする。

 だが、くよくよしていても仕方が無い。と、歩き出す。

 太陽がほぼ真上にあり、ちょうど腹も減ったので帰ることにした。




 アパートに戻り、スマホを開くと2通のメールが来ていた。


 『………

  今後のご活躍を心よりお祈りしております』


 『………

  今後益々のご健闘をお祈りしております』


 嘆息。

 分かりきっていた、ことだ。

 もう50代に差し掛かろうとしている男を雇うような会社はこの都会ではほとんど無いだろう。

 貯蓄はまだある。保険に入っている事も考えればだいたい2000万か。

 だが、まだ現役時代でこれからの老後のことも考えると足りなさそうだ。

 考えながら、安いカップ麺をすする。


 「人生、こんなもんなのか…」


 男も、若い頃はそれなりに夢や希望を持っていたのだ。

 だが、それが実現不可能となった今、やりたいことなど無い。

 何も、やる気が起きない。起きる訳がない。






 ヴ、ヴーッ!


 スマホの通知音で目が覚める。

 昨日行ったケーペック株式会社の面接が夜遅くまであったせいか、もう朝の10時頃だった。


 『〇〇様


  ミール有限会社の斎藤で───』


 スマホのロック画面には、今しがた送られてきたメールの冒頭部分だけが表示されていた。

 全く、どうせお祈りメールなのだから冒頭ではなく末尾を表示してくれればいいものを。

 …いや、私が機械にそんなことを注文しても無駄か。

 惰性でメールを開く。

 冒頭〜中盤までは読む価値も無いので最後まで適当に指を滑らせて読み飛ばす。











 『…ご活躍をお祈りしております』

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