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美少女幼なじみに焚きつけられたワナビ俺、青春ラブコメしながらラノベ作家を目指す  作者: 織星伊吹


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31/42

第31話 頑張ったけど


 ――主人公の心情の変化にあまり説得力が無いような気がします。

 ――ストーリーの展開が遅すぎてつまらん。あと、無駄な描写多すぎ。

 ――全体的に良い作品にしようという印象は感じますが、ちょっと薄味過ぎます。

 ――クライマックスでなんでこの展開になるのか意味不明すぎ。イメージイラストが良かっただけに、なんかガッカリ。


 モニターに表示される批判的なコメントの数々を眺めながら、俺は小さく溜息をついた。

 新人賞の一次選考ではかすりもせずはたき落とされ、ウェブ小説のほうも批判感想がいくつか届いていた。


 ずっと協力してくれていたユメに一次選考が落選したことを告げることもできず、俺は気分転換に外出した。いつも通らないような道を歩いて行くと――人気の無い河原に辿り着いた。小さい頃は夏場なんかに良く訪れ、海パン一丁で遊んでいたことを思い出す。


 岩を叩く水音に耳を澄ませながら、砂利の中を進んで行く。涼やかな音は、頭の中に蔓延る大量のもやもやを少しだけ洗い流してくれる気がする。

 誰も居ないかと思っていたが、少し先の岩上でだらしなく寝そべっている人の姿が見える。


 秋の曇り空の下で一体何をしているのだろう。相当ヘンな奴に違いない。そう思いそそくさと退散しようとしたとき。そいつが俺に声をかけた。


「……アオハル!」


 ユメだった。寝そべっている姿を見て、なんとなく彼女なんじゃないかと疑った俺ではあったが、もう十七歳なわけだし流石に……と思っていたのに。……やってたよ。子供かっ。


「ねえ、待ってよ!」ユメが俺の後を追いかけてくる。


「……何してんの。こんなところで」


「……アオハルこそ」


「俺は……気分転換」


「じゃあわたしも」


 淡々とした言葉で、ユメはつーんと固まった。少しだけ怒ったときのユメの顔だった。懐かしくて思わず笑いそうになる。……俺は小さく溜息をついて、


「……落ちたよ。一次選考落ち。全然ダメだった……。ユメの協力もあったし、我ながら自信はあったんだ。だから、一次選考くらいは通るかなーなんて甘いことを考えてたよ。日本語が書ければ一次は通るなんて、ネットの戯れ言に耳を傾けるもんじゃないね」


「……そっか」


 顔を俯けたユメに、俺は愚痴をぶつけた。ボロボロと溢れ出て止まらない。

 瞳が涙で濡れていた。俺は泣いていたのだ。


 一次選考の突破率は10%を優に切る。十人中一人しかその先には進めない。小説を書き始めて半年程度のペーペーの青臭い処女作が落選したくらいで、なんで俺は泣いてるんだ。


 ……そうか――俺は、小説家になるための入り口にすら立てなかったんだ。

 そう思うと、悲しくなってくる。滾る想いが、身体を熱くする。勝手に涙が溢れ出てくる。


 一生懸命頑張ったのに。ユメにたくさん手伝ってもらったのに。

 面白い物語が出来上がったはずだった。心の底では受賞している筈だと信じて疑わなかった。毎晩就寝前に授賞式のことをニヤニヤと妄想していたことがたまらなく恥ずかしい。


 それなのに、かすりもしなかった。下読みの選考委員がテキトーに読んだのかもしれない。もしかしたら手違いで後日すいませんメールが届くかも知れない。


 ……ふざけんな、認めろよ。誰がなんと言おうと、俺は、落ちたんだ。

 導入シーンをもっと印象的にすべきだった。キャラクターをより魅力的に魅せられるシーンを組み込むべきだった。思えば、クライマックスシーンは行き当たりばったりだった。


 俺の執筆した物語に残るものは、後悔ばかりだった。

 ボロボロと溢れ出る涙が渇いた岩に染みを作る。女子の前で泣くとか、最強に格好悪い。それも、ほとんど自分の努力不足なのに。


「……アオハルは、頑張ったよ」黙って川を見つめながら、ユメはそう言った。

 彼女の優しさが逆に痛かった。俺はユメと笑って夢への第一歩を踏み出したかったんだ。そんなに気を遣ってもらうくらいなら、突き放されたほうがまだ気持ちよかった。


 結果、俺が口にする言葉なんて、たかが知れてる。


「……そうかな。才能無いんだよ、俺。ユメとは違ってさ」


 ユメが言葉を飲んだのがわかった。


「わたし、自分が才能あるだなんて思ってないよ」


「だけど実際にあるじゃないか。いろんな人に認められてるのが証拠だ。あれだけのイラストを描けて、高校生なのに仕事して。順風満帆、そんなの楽しいに決まってるよね」


 ――やめろ。


「ユメを見てると、たまに自分のことが惨めに思えてくるよ。アイドルユニットで明らかに人気が片方に集中しているときの不人気側の気持ちが、きっとユメにはわからないんだ」


「……わたしだって、最初から上手だったわけじゃない。何回も何回も練習して。ペンだこたくさん作って頑張ってきたんだよ。それに、今だって自分のイラストに全部納得してるわけじゃない。毎回書き終わるたびに思うよ。どうしてもう少し上手に描けないのかな、って。頭に浮かんだイメージ通りに描けないことが辛くて、悔しくて堪らないよ。アオハルにそのポーズはなんか違うとか、もっとこうしたほうが良いってアドバイスを貰う度に凄くへこむよ。何も知らないくせに……! って言い返そうとしちゃうのを必死で我慢してるんだよ。でも、自分の能力が足りてないこともちゃんとわかるから。だから気をつけながらまた描くの。……好きだから。イラストを描くことが何よりも楽しいから。止めたくなんてないから。……才能なんて短絡的な言葉で、クリエイターとしてのわたしを勝手に決めつけないで」


 ――イケメンサイドカーと決闘をすることになったあの日、ユメが静かに怒っていた理由がわかった。


 ユメにとって、俺の存在はただのお荷物なのだ。

 そんなお荷物野郎に、人気作家との良い話を勝手な都合で潰されたのだから、機嫌を損ねて当然だ。


 ……俺は、ユメのクリエイターとして成功を考えていただろうか? 本当に願っていただろうか。自分のことばかりになっていたんじゃないのか。


「…………最低だな、俺は」


「……え?」


「……俺は……今小説を書きたいだなんて、これっぽちも思わない」


 トドメの一言だった。俺にも。ユメにも。


「…………夢を目指すのは諦める?」


 悲しそうな声で、でも力強くハッキリとユメは言い切った。

 どうして俺は――ユメにこんなことを言わせているんだ。

 たった一回で、こうなってしまうくらいなら。俺に小説家は……きっと――。


「…………用事、思い出したから帰るよ」


 結局俺はただの臆病者だった。夢を目指すことはもうほとんど無理だと諦めているくせに、自分の口から言い出せないのだから。


「…………うん。わたし、もう少しここでのんびりしてるね」


「風邪引くよ」


「へーき」


「じゃあ……これ、貸しとく」俺は羽織っていたジャケットをユメに差し出す。


「わあ……アオハルってば、紳士みたい」


 困ったような笑顔で、ユメが笑った。


 帰り道、俺のスマホが鳴った。イケメンサイドカーからメッセージが届いていた。

『一次選考で落ちたときの原稿を送って下さい』



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