ヒトミ最強仮説
『……スター、マスター!起きてくださいYO!
うーん、やっぱり電流かなぁ?
AEDモード起動!』
「……え?何?」
『ちっ!』
「ここは……あー、まだ変態悪魔爺の所なんだ……。」
ここは爺の執務室のようだ。
ソファーセットの所がベットになっていて爺が寝ている。
点滴つきで。
何故かベットの横にボクが立っていてスケスケミニスカナースの格好をしている。
下着透けてますやん!そういう商売の人ですか?
……って、何故、ボクが向こうにいる?
ボクはここ……?
「おぉ……目覚めたか、小娘よ。ごほっ!ごほっ!」
爺が身体を起こす。
「やっと死ぬの?爺。」
「……いきなり失礼なヤツじゃな、貴様は。」
「というか何でボクがそこにいるの!」
「ああ、これは元小娘の身体じゃ。
小娘の身体は無事できあがったぞい。
当初の10倍の力を使ってしまったので癒しを求めて介護プレイ中じゃわい。」
「は?」
何言っているのか分からない。
『マスター、よろしいでしょうか?』
「うわ!誰?」
キョロキョロ見渡しても他に誰もいない。
というか両横の壁が邪魔で見えない。
『私は13式戦車の全自動管制システムです。
イーサンとお呼び下さい。』
「え?何?何?」
「内部からじゃよ。」
爺が教えてくれる。
「貴様の低スペックの脳みそではその身体は扱いきれんからのう。
制御システムを組み込んだんじゃ。」
爺が指パッチンをする。
「ほれ!姿見だ。」
目の前に鏡が出現する。
ボクの姿が映し出される。
少し鎧の形が変わっているが基本的には変化がない。
というかお腹が丸出しになっていてビキニアーマーに近くなってしまっている。
「おい!爺!痴女がレベルアップしているぞ!」
「ほれ……陸上選手とか水着ってそんなもんじゃろ?」
「あーって納得するわけないだろ、おい!」
『マスター、それペイントみたいなものですよ?
触ってみてください。』
「おぅ?あ、イーサンってヤツか。びっくりした。」
お腹をさわってみたり、股間を触ってみる。
カチン!とパンツから変わった感触が……金属製?
肌も変な感じだ。
人肌の感触ではない、微妙にやわらかいけど硬い?
『マスターは全身、神鋼でできています。
肌部分は液体金属ですね。
生体パーツは脳みそと舌ぐらいですね。』
「え!?どういうこと?」
「本来の姿を圧縮して今の姿となっております。
生体パーツを使ってしまうと要求スペックが実現できないためです。
脳みそだけはオリジナルを搭載して、心臓部に私のコアが入っています。
舌が生体パーツなのは神造物となってしまったマスターにせめて食生活だけでも楽しんでもらおうと思いまして。」
「圧縮?舌???」
「つまりじゃな、うんこをしない昭和アイドルのような者になってしまったということじゃ。」
「昭和?」
「見てみろ。」
画面に世界の様子が映し出される。
壁の中に町があって……化け物が外を闊歩している。
町の家にアップして……つぼ?
「それがその世界のトイレじゃよ。
水洗トイレもウォッシュレットもない世界じゃ。
貴様らにはきつかろうて。
だが、安心するのじゃ。
小娘は戦車じゃ、戦車はうんこなぞせんのじゃ。
他の転移者はうんこに苦労しているみたいじゃぞ。
良かったな、小娘よ。
貴様だけのお得な特典じゃよ。」
「お得……なるほど。確かに。」
『(うわっ!チョロい、なるほど。
得と思わせることと、話題をずらせばよいのか。
頭も良くなさそうだし、言いくるめればよいのか。)』
「じゃろう?」
にやりと爺は笑う。
「世界は魔物や危険な人間がうようよしておる。
そんな所ではかよわい小娘はすぐに死んでしまうじゃろうて。
だからその身体なんじゃ。」
ボクは自分の身体をみる。
相変わらず、胸と装甲に隙間がある。
「胸がまたなくなっているよ!」
「いや、元からじゃ。」
「チッ!ならこの隙間は何なんですか!嫌味ったらしい。」
「それは傾斜装甲にするためじゃ。」
「傾斜装甲?」
首を傾げる。
「ざっくり言うと正面からまともに攻撃を食らうより斜めにして逸らして弾く方が少ない装甲でも済むというお得な話じゃよ。
もっとも元が平たいせいでその角度が精一杯じゃが。
物入れにでも使ったらどうじゃ。
女子は胸から物を出すほうが雰囲気があるじゃろうて。」
「それは巨乳の話だー!」
「ふぉっふぉっふぉ。
実際にそこは内部に繋がっておって物が取り出せるのじゃ。」
「内部?」
「イーサンよ、つづけてやれ。」
『とりあえずとちらを。』
目の前に画面が現れる。
『これが本来のあなたの姿、13式戦車です。』
何かやたらとシンプルな戦車が映っていた。
大砲が菱形のカバーで覆われ、全体的に突起物がない。
近未来の戦車?なのかな?
キャタピラの横も装甲で覆われているが、やっぱりびらびらは付いている。
こだわりなのか?
六角形のハッチが開いてボクが出てきた……マイクロビキニで……。
頭のゴテゴテはそのままなのかよ。
「もっと痴女になってんじゃん!」
『それは全て戦車のパーツですからねえ。
装甲が展開して戦車となっていますから。』
「?」
『全てが圧縮されたのが今の状態で、展開後の姿がその画面ですね。
スーパーロボットがトランスフォーム的なことだと理解すれば結構ですよ。』
「おぉ……いや、おかしくない?」
「圧縮が得意なんじゃよ、ワシ。
それにその姿でも重量は30tはあるぞい。」
「デブを通り越してんじゃん!」
「戦車としてはめっちゃ軽いぞい!」
画面にかんじきが表示される。
「そのままでは接地面が少ないからのう。
ずぶずぶ地面に沈みこむのじゃ。
それで魔法でかんじきを履かせたような状態になっとる。」
「かんじき?……あっ!雪の上を歩くヤツだ。」
「大地の魔素に干渉していてな、小娘は巨大な魔法のかんじきを履いておるような状態を保っておる。
それで重量を分散させておるから歩いても平気じゃぞ。」
「普通は重量低減とか……」
「そんな魔法は存在せん。
それに重量は武器じゃぞ。
発砲スチロールと鉄の玉が落ちてきたとしてどっちじゃ?大怪我をするほうは?」
「鉄……。」
「軽量級のボクサーとヘビー級のボクサー、どっちが勝つ?」
「ヘビー級。」
「軽自動車とダンプカーが正面衝突したらどうなる?」
「ダンプが勝つ……」
「剣を持った冒険者と30tの小娘、どっちが勝つ?」
「……ボク?」
「そうじゃ、ヒトミは賢いのう。ふぉっふぉっふぉ。
そもそも重量が違うし、密度も違う。
剣なぞ貧弱な武器は折れ、重量の軽い冒険者なぞ紙っきれと一緒じゃわい。」
「えへへ」
ほめられてまんざらでもないヒトミであった。
「重量は武器だ!つまりヒトミは最強だ!」
爺は拳を突き上げる。
「ボクは最強だ!」
つられてヒトミも拳を突き上げた。
『(ちょろ……。
まあ、間違ってはいませんが。
そもそも私は負けませんし。)』