やっと本気を出すみたいです
「上位互換……。」
ヒトミは考える。
ヒトミは上位互換がお得そうで大好きなのだ。
確かに頑丈そうな盾が付いているけど……。
「これならスカートみたいなヤツないほうがマシなんですけど?
そもそもこんな痴女みたいな格好って!
ビキニアーマーとか頭のおかしいヤツみたいじゃないですか!」
「ああ、それか……。」
軍服少女は手をかざすと巨大な画面が表れた。
そこには大砲をぶっ放しながら走行する戦車が映し出されていた。
ドーン!ドーン!砲身から巨大な炎が吹き上がる。
「小娘の国の戦車だ。
HENTAIの国が誇る、スラローム走行をしながら滑腔砲を的に命中させるというHENTAI性能を持つ戦車だ。
残念ながら小娘は真似できないがな。」
「……これが?……あああああ!!」
何かを見つけ叫びだす。
「キャタピラの横のびらびらですか?このスカートみたいなのって!」
次男のボンタン兄がこういうものも好きなので少しは知識があるヒトミであった。
ボンタン兄貴は反社会的な行動もするが、日章旗を単車につけたり、お国の兵器が好きだったりする。
反社会的なのか国家に忠実なのかよく分からない兄であった。
真面目に働いているし。
単車には斜め前にカウルが飛び出し、ぶら下がるかのようなチョッパーハンドルであった。
あれで本当に走れるのか甚だ疑問だ。
謎の生態系なのである。
映像の戦車にはキャタピラの横に装甲とゴム製のサイドスカートがつけられていた。
地面についてしまうのでキャタピラの3分の1ぐらいはむき出しだ。
「じゃあ、ヒトマルなんですか?ベースって?」
「うむ、小娘は苗字が四ツ木だろ?
シキって換えて今日から貴様はヒトミ シキに生まれ変わったのだ!!」
ばばーん!とどこからともなく効果音がでる。
軍服少女はレイバンを外し、手を伸ばして決めポーズをしている。
自○官募集というポスターでも作れそうだ。
「……いや、今日からも何も……何度も死んでると思うのですが。」
軍服少女は顔をしかめている。
ヒトミは気づいていなかった。
変態悪魔爺より軍服少女には自分が少しやさしくなっていることに。
ヒトミは少し興奮していた。
レイバンを外した爺が美少女だったのである。
ヒトミは美少女が大好きなのである。
パパは少し美人のママに変わった。
兄は美人な姉に変わった。
ヒトミは男を毛嫌いするようになった。
そして○○をつぶせば美人でやさしい人になるのだと誤解をしていた。
ヒトミは歪んでしまったのである。
軍服少女は後ろをむく。
「いや、まあ、なあ。」
ヒトミの目の前に画面が映し出される。
ボクが映っていた。
ぐしゃ!っと腹や腿が破裂して前に倒れる映像だった。
「な?」
次は一瞬でミイラになって崩れる映像。
「おぉぉ?」
今度は一瞬時間が過ぎてから胸の下から裂けて上半身がくるりと後方に倒れこんだ。
あとは似たり寄ったりのグロテクスなボクの死に様が繰り返された。
「……何コレ?」
「重量に耐え切れなかったり、魔力で肉体強化したら一瞬で魔力がなくなりミイラになったり?
傑作だったのは膨大な魔力に肉体が耐え切れず木っ端微塵になったヤツだな。
はっはっはっはっは!」
丁度、その映像が流れた。
それはもう花火のように炸裂して辺り一面が真っ赤になっていた。
「調整に四苦八苦していてな?
地上に降ろすとその盾と装備が重すぎてな?
魔法で誤魔化そうとしても強度が足りないとか、詰め込みすぎて破裂してしまうとか?
問題が解決していないのだよ。」
「……なんでそのまま地上に降ろすんですか?
ここで調整すれば良いじゃないですか?」
「いやな?地上の転移者には13人目が転移したというアナウンスをしていてな?
言ってしまった以上、すぐに降ろそうと思ってなあ?
ここだと重量関係ないし?
降ろして結果見るほうが早いし?」
「いや、何度も回収しているほうが無駄じゃないですかねえ。」
ヒトミはジト目で少女を睨む。
そしてコイツは軍服少女ではなく変態悪魔爺だったと思い出す。
さらに険悪な視線を送る。
パチン!少女は指を鳴らす。
ゴン!とヒトミは倒れこむ。
「ふい~。面倒ではあるが、じっくり調整するしかないか。」
じーっとヒトミをみる。
「面倒くさいな。
いっそのこと戦車そのものにしてしまうか……。」
軍服少女は執務室の椅子に座って画面を呼び出す。
画面には全く同じ軍服少女が表示される。
「うん?誰って?私?鏡?……なんだ、パロパロネかよ。
せめて2Pカラーにするとか、マフラー巻いて偽者っぽくしろよ。」
「おお!すまん、すまん。」
爺は触手スライムの格好になる。
「で?」
「ヒトマル戦車の設計データが欲しくてな?」
「……なるほど!戦車戦か!それはいいな。
次は戦車戦にするか!
しかし、ヒトマルか……ティーガーとか自走砲のほうが面白いと思うが?
ヒトマルのような高性能ではあまり面白くないだろう?
手動で狙うとか……ゲーム性を求めるなら自走砲が良くないか?」
「いや、そうではなくてな……」
「なるほど。
どのみちそのアホっぽい娘では無理だろう。
頭が焼ききれるぞ。
開発部から回ってきた試作品はまだあるかい?」
「試作品?」
「いや、いい。
聞いた私がバカだった。」
軍服少女が赤い玉を取り出す。
「おぉ!それか!」
触手スライムは引き出しを開け、ごそごそと同じ物を取り出す。
「私は管理神を創るつもりで調整したのだが、コレを使うかい?
それ、まだ何もしてないだろう?」
「うむ、すっかり忘れておった。」
「それと交換だ。」
「いいのか?」
「ああ、サバゲー用に戦車の設計、製造、管理用に創り直したい。
ちょっと待て、色々必要なデータを封入する。」
指を動かしてデータを封入しているのはよいが、テラは何故、にやけているのだろう。
「よし。」
お互いが画面に向って赤い玉を投げ合う。
パシッ!ぶにょっと受け取る。
「そいつに任しておけば何とかしてくれるはずだ。」
「ありがとうよ。」
「開発部にも運用データを自動的に送ってくれるようにしてある。」
「ん?なんでだ?」
「いや、言われて……まあ、いい。」
「ああ、なんか言ってた!でもそっちはいいのか?そんな遊びに使うようなデータで?」
「ああ、なんでも良いって言っていたからな。
所詮は試作品だから何でもいいからデータが欲しいそうだ。」
軍服少女は手を振り、画面が消える。
「さてと……。」
触手は赤い玉を飲み込む。
そして触手はヒトミを引ん剥き研究室のカプセルに放り込む。
触手スライムは爺の姿に戻り、机には複数の画面が出現する。
執務室の広い空間にアームが沢山出現して戦車の製造が始まる。
「見ておれ、小娘。ワシの本気を見せてやる。」