最初で最後のファーストキス
一時間くらいたっただろうか。博士がこちらに歩み寄ってきて、耳元でこうささやいた。
「いいか、良く聞くんだ。意識は戻ったが、もってせいぜい十分だ。今のうち、話せることは話しておきな。俺は部屋を出るから、うまくやれよ。」
また、二人きりの空間に戻った。まえと違うのは、君が目を覚ましてこっちを向いていることだろう。
「あれ……どうしたの?ヴィロン、泣きそうな顔してるよ?」
そう言った彼女の声は、とても元気と呼べるものではなかった。僕は君を直視することもできなくて、君の声だけにみみを澄ますこともできなかった。
君を見たら、泣いてしまうから。
抑えていたものが、あふれてしまうから。
「ねえ、大丈夫?……あれ、何か私も涙出てきちゃった。変だね、かなしくなんてないのに。」
君の言葉が、胸に刺さる。
僕は何も言わず、君のことを抱きしめた。
「本当に、今までありがとう。いろいろ迷惑かけてばっかで、何もしてやれなくてごめん。」
君は何が何だかわからない様子で、
「なに、そんなに本気になってるの。迷惑だなんて思った事無いよ。何かこうしてるともう永遠に会えないみたいじゃない。」
冗談のつもりかもしれないけど、本当にそういう状況なんだ、とは、言えなかった。
いつまでも、こうしていたい。
でも、それはかなわない夢。
君も普通じゃない事態を察したんだろうな。周りをぐるりと見渡して、もう一度僕のことを見て、小さく
「キスして。」
とだけ言った。僕にとっても、君にとっても、最初で最後のキスだった。
くちびるが触れる。涙は乾いてはきたけれど、少ししょっぱかった。
きっと今までで一番長い一瞬だった。
僕がくちびるを離したときには、君はもう冷たくなっていて、
もう涙しか、出なかった。




