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アルト  作者: 若林夏樹
9/18

第9回 公開生放送

 デビュー曲発売日まで2週間を切り、いよいよ本格的にその準備をすることになった。


 散々話し合った結果、記念すべき最初の曲は『花びら』に決まった。隼人が作詞しただけあって、それはすごく嬉しかった。

 すでにタイアップも決まっているらしい。夏休みに上映予定の映画『真夏のサンタクロース』だ。出演者が超有名人でかなり驚いてしまった。


 それからもう1つ。CD発売日にラジオに出演することが決定している。しかも公開生放送だ。

「隼人、今日学校休む理由言ってあんのか?」

「あ・・たぶん風邪ってことになってると思います」

「んー・・・それじゃあ顔出すのまずいだろ」

 直人の言葉に、隼人は大丈夫だと言って、とあるアイテムを取り出した。


「じゃーん!伊達眼鏡〜!」

 意味もなくドラえもんの道具を出すような調子で言ったが、誰もウケてくれなかった。

「まさかそれかけて変装なんていうんじゃねーだろうな」

 和馬が呆れて言い放つ。


「そうです。これかけてワックスで髪立たせると、俺意外にかっこよくなるんです・・・っていうのは冗談で、別人に見えるって前に友達に言われたことがあって・・・・・」

 そのときにテンションが上がっているのはどうやら隼人だけらしく、他のメンバーはしばらく何も言わなかった。

 やがて和馬が立ち上がってこっちに歩み寄ってきた。そして、隼人の髪の毛をぐしゃぐしゃとし、強引に眼鏡をかけさせる。

 隼人の言う変装のできあがりだった。


「バレる」

 それがメンバーの感想だった。

「だったらお前、ただ帽子かぶってたほうがまだバレないと思う」


 結局、隼人は帽子を深くかぶることになった。

 実際にやってみると、意外に顔が隠れてしまい、下手にいじるよりもこっちのほうがいいかもしれないと思った。


 確かにバレるわけにはいかない。学校もそうだが・・・・・

 菜穂にバレたくないしなぁ・・・

 好きじゃないと言われた以上仕方がない。だけど、少しでも好きになってもらえるように頑張ろうと隼人は思った。


            ◇


 7月の上旬の水曜日がやって来た。

 公開生放送のスタジオで、隼人は初めてアルトだと面と向かって自己紹介した。


「はじめまして!パーソナリティの秋本陽子です。うわー・・・私大ファンなんです」

 ショートカットの女性がテンション高めに自己紹介をする。

「皆さん素敵です!顔出さないなんてもったいないですよ」

「いや、はは・・どうも」

 和馬が照れくさそうに答えた。


 その後、簡単な打ち合わせをし、おおよその流れを掴んだ。


 そして、正午少し前、隼人たちがスタジオ入りすると、すでにその周りには大勢の観客がいて驚いてしまった。圧倒的に女性が多いが、男性もいた。

 秋本も驚きのあまり、感心してしまっている。

「こんなにお客さんが多いの、初めてかも・・・」


 今さらになってなんだか緊張してきたが、大丈夫だと自分に言い聞かせて帽子を深くかぶり直した。

 とにかく・・・落ち着け。

 それから、明らかに自分より緊張している直人を見て、なんとか落ち着くことができた。


 正午。放送が始まった。


 秋本が最初の挨拶をしてから、すぐに話が本題に入る。

「――それでは、お待ちかねの今日のゲストは・・・アルトの皆さんでーす!」

「よろしくお願いしまーす!」

 同時に周囲の観客がわぁっと盛り上がる。


「アルトは未だに顔を出していない正体不明のグループでしたが、その人気は今ここに集まっているファンの方々の数を見ればわかります!かくいう私も大ファンなんですよー」

「わ、ありがとうございます」と、リーダー。

「最初ですので、まずは自己紹介からお願いします。じゃあ・・ボーカルの隼人さんから」


 瞬間的に、隼人は自分に気合を入れる。

「はい。ボーカルの隼人です!」

 外の観客が盛り上がる。この瞬間、隼人はアルトとして初めて世間に受け入れられた。


            ◇


 放送終了後、隼人たちは新曲『花びら』にサインを入れた。それを視聴者へのプレゼントにするらしい。

 とにかく、これで初めてメジャーデビューしたアルトの活動は終わった。


 自宅に帰ってから、ようやく自分のケータイに着信があることに気がついた。

 佐山菜穂だった。


「あ、もしもし佐山さん?電話気づかなくてごめん。どうしたの?」

 かけ直してみると、しばらく向こうから応答がなかった。隼人は急に不安になってしまった。

「佐山さん?」

『・・・・・・今日高橋君から、西村君が風邪ひいたって聞いて・・・』


 幼なじみの高橋英二がきっとそう言ってくれたのだろう。隼人は風邪のせいで今日休んでいる、と・・・

『迷惑かなって思ったんだけど・・・大丈夫・・?』


 その言葉を聞いて、どうしようもない気持ちになった。

 菜穂は自分が今日風邪で休んだと信じて疑っていないのだ。

 それがわかって、辛かった。


「大丈夫だよ。心配かけてごめん」


 嘘ついて、ごめん。

帽子をかぶったはいいものの、

本番ではおそらくとっていたと思います。

ヘッドホンつけるので…

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