第8回 俺とつきあえば?
急に恋愛モードに入ってしまいました。
まぁ気楽に読んでください;;
「デビュー!?」
「うん。たぶん夏頃にできると思う」
幼なじみの英二に初めてメジャーデビューの話をしてみた。案の定すごく驚かれたが。
「英ちゃんにはいつも迷惑かけてるから、1番に教えたかったんだ」
その言葉に、英二は少しだけ困ったような顔をした。
別に深い意味があって言ったわけじゃないんだけど、その反応に隼人は驚いた。
「マジですげーな。じゃあ、正体明かすんだ」
「まだわかんない。名前は公表すると思うけど」
そのとき、廊下を歩く菜穂を見かけて、こないだ彼女が落とした生徒手帳のことを思い出した。
「あ、ごめん。ちょっと・・・」
隼人は急いで菜穂を追いかけていった。
「佐山さん!」
アネゴと呼ぶと言ったのにすっかり忘れてしまっている隼人は、苗字でそのまま呼んでしまった。
「おはよー。どうしたの?」
「これ、こないだのライブハウスの前に落ちてたんだけど」
見かけたとは言わずに、隼人は生徒手帳を渡した。はじめはそれを不思議がっていたが、やがて思い当たる節があったらしく、すぐにそれを受け取ってくれた。
「わ・・全然気がつかなかった。ありがとう」
「いいよ。お互い様だしね」
じゃあと言って教室に戻ろうとすると、急に後ろから「あっ」と菜穂の声がした。
菜穂は生徒手帳の中身をおそるおそる確かめてしまったという表情をしている。隼人が見ていることに気がつくと、明らかに顔をそむけるのがわかった。
「見た?」
たぶん写真のことだろう。
「見た」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が続いた。
「俺からも質問だけど・・・それ落としたとき、一緒にいた男って彼氏?」
「え?違うよ。たぶんいとこのお兄ちゃんだと思う。一緒にライブ見に行ったんだ」
「・・・・・・ふーん」
「・・・・・・うん、じゃあ」
ダッシュでその場から菜穂は駆け出していった。
たぶん隼人は気づいていた。菜穂の気持ちと、それから自分自身の気持ちに・・・・・・
◇
「ちょっと待ったー」
気がつくと菜穂の後を追いかけている自分に気づいた。教室に入ろうとした菜穂を強引に廊下まで引っ張り出す。
「わっ・・・なによ?」
「ちょっと言いたいことがあったんだけど、その前に1つだけ」
隼人はなんとなく深呼吸をする。
「アルトって知ってるよね?」
「知ってる・・・けど、あんまり好きじゃない・・・かも」
そんなような気はしていたが、いざ面と向かって言われると少しショックだった。この調子だと、本当に目の前の人間がそのボーカルだとは気づいていないようだ。
「友紀は好きだよ。よかったじゃん」
そう言われて曖昧に隼人は頷く。
本当は今、自分がアルトのボーカルで、今度デビューすることが決まったということを話そうと思っていたのだ。だけど、好きじゃないと言われたらそれも微妙だ。
やっぱ言えないよな・・・
そう思ったとき、菜穂が何かを言おうとしていることに気づいた。
「んっ・・と、生徒手帳の・・・ごめん。あの、なんていうか」
写真のことを謝ろうとしていることに気づいて、隼人は顔が赤くなるのを感じた。
「大丈夫。変態だってことは内緒にしとくから」
「変態じゃないよ!」
「隠し撮り?」
「違う。友紀にもらっただけだって!」
そんな会話を繰り返していて、隼人は菜穂の表情がころころ変わるのを見て苦笑した。
「やばいわ。すげーハマったもん」
「はぁ?なにが?」
「もっと長い時間かけるものだと思ってたけど、そういうわけでもないんだな」
ひとり言を呟くと、菜穂がわからないと言って首をかしげた。
隼人は意味もなく髪の毛をかきながら、目線をそらす。
「あのさ・・・・俺とつきあえば・・・?」
言い方が微妙だとすぐに思ったが、もう1度言い直すなんてこっぱずかしくてできなかった。
しかし反応はない。ちらりと菜穂を見ると、彼女は半信半疑な表情でこっちを見ていた。予想外の反応だ。
「え、なに?」
「だって・・・西村君って友紀のこと好きなんだと思ってた」
「たぶんこないだのライブハウスで誰かさんに変態扱いされなかったら好きだったと思うよ」
そこまで言うと、菜穂は頬を赤くしてまた俯く。だけど、大きくこくんと頷くのがわかった。
◇
その頃、一宮プロデューサーと新たにアルトのマネージャーになることになった男との間で、1つのことが決定しかけていた。
「ラジオの公開生放送ですか」
「はい。それにアルトを出演させるのはどうかとの話が来てるんです」
少しだけ考えて、一宮は頷いた。
「いいですね。そのくらいなら大丈夫でしょう」
友紀とつきあわずにこうなりました。
次回からまたどうなっていくんでしょう…か?