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アルト  作者: 若林夏樹
7/18

第7回 デビューしたい

 土曜日、学校が休みの日はたいてい隼人はスタジオに1日中こもっていた。

「デビューしよう!!」

 隼人がそう言い出したとき、和馬と直人は「はぁ?」と呆けた声を出し、リーダーだけが何も言わずに顔を上げた。


「おい隼人ー・・・デビューなんてそんな簡単にできるわけないだろ〜」

 和馬が呆れたように歌う。たった今即行で作ったデタラメな曲だった。

「俺もできるんならしたいな〜」

 和馬の調子に合わせて、直人もギターで歌い始める。


 隼人はちらりとリーダーを見ると、いつのまにか俯いて楽譜の手直しをしている。

「リーダー・・・デビューしたいです・・」

「無理」

 あっさりと彼は言い放った。

「簡単にできるもんじゃないよ」


「リーダーがうんって言えばもうメジャーデビューできるってこと・・俺は知ってるんです」

「俺はうんって言う気はない」

「なんでですか!俺が高校生だからですか!?」

 リーダーが顔を上げた。眼鏡ごしにまっすぐな視線を向けられ、隼人はそれ以上何も言えなくなってしまった。


 直人と和馬が驚いた表情で固まっている。2人は今何も言わないほうがいいことを知っている。

「俺は・・・例え今デビューしたとしてもだめになるような友達はいない」

 リーダーは何も言わない。

「今が俺たちにとってのチャンスなんです。きっと・・・これが最初で最後の・・・・・」


 今さらになって大声を出したことを後悔し始めていた。

 思い返せば、リーダーに反抗したことは初めてだった。だから、今めちゃめちゃ怖い。


 結局その後はダッシュで逃げてしまったので、リーダーがどう思ったのか隼人が知ることはなかった。


            ◇


 翌日は日曜日で打ち合わせを行う日だったが隼人は気分が乗らず、なんとなくこないだ歌わせてもらったライブハウスまで来ていた。

 中に入らずに、ただあのときの興奮を思い出していた。


 歌いたい・・・またライブしたい・・・!

 その思いはだんだん強くなってしまった。今さらもう戻ることはできない。


 と、そのときだ。ライブハウスの中から見知った人が出てくるのが見えた。

「佐山さん・・・?」

 それは佐山菜穂だった。隣には若い男がいて、とても仲良さそうに見えた。

 なぜかこれ以上見ていられなくなった。


 気がつくと、無意識に隠れてしまっている自分がいて、隼人は情けなくなってしまった。

 なっさけねー・・・こんなんだからリーダーにも心配されるんだろうな。

 メンバーの迷惑にはなりたくない。


 菜穂たちが立ち去った後、道の真ん中に何かが落ちているのが見えた。

「・・・・・・・?」

 思わず拾い上げると、それは菜穂の生徒手帳だということがわかった。

 それだけなら明日返すだけの話だ。しかし、生徒手帳からはみ出しているものが見えて、逆に気になってしまった。


 ――なんで自分の写真があるんだろう・・・?


            ◇


 その後、おそるおそるスタジオに行くと、プロデューサーの一宮がいた。

「あれ・・・一宮さん、どうしたんですか?」

「ああ、透也君から話があると言われて来たんですよ」


 部屋の奥にはすでに他のメンバーが到着していた。和馬がこっちに来るように手招きをしてくる。

 そこへ行くとき、リーダーの前を通る。なんとなく緊張してしまった。


「これで全員揃いましたね。それで、話とは?」

 一宮が静かに切り出す。もちろん、それに答えたのはリーダーだった。

「単刀直入に言います。デビューの件、ぜひこちらからお願いしたいと考えています」

「えっ・・・!」


 1番驚いたのは隼人だった。思わずリーダーを見ると、無表情だった彼の顔が急に優しくほころんだ。

「なんだよ。デビューしたいって言ったのはお前だろ」

「そうだけど・・・いいんですか?」

「正直、お前が高校卒業するまではって思ってたんだけどな。俺が高校中退だから・・・だけど、やっぱりこれが最初で最後のチャンスだって俺も思う。逃したくない」


 リーダーが中退したなんて初めて聞いた。驚きと嬉しさでどう反応していいかわからずにいると、すぐ後ろにいた和馬に頭をぐしゃぐしゃとされた。

「隼人やるなぁ!リーダーにたてついたもんな!」

「そっそんなつもりないよ!」

 さらに直人にも頭をぽんぽんと叩かれ、これ以上言い訳することができなくなった。


「よかった・・・じゃあ、本格的にこの話を進めていきたいと思います」

 一宮が嬉しそうに立ち上がると、待ってくださいとリーダーがそれを制する。

「生意気を言うようですいませんが・・・俺たち、いきなり顔を出すのはちょっと・・・」

「わかってます。ですが、いつかはそのときが来ることを忘れないで下さい」


 リーダーがこくんと頷くと、一宮も納得したように頷いた。


 アルトのメジャーデビューが決まった。

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