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アルト  作者: 若林夏樹
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第6回 チャンス

 昼間他校の女子が来ていたことをアルトのメンバーに話すと、案の定制服でライブハウスに来ることを禁じられた。

「よくバレんかったなー」

 直人が不思議そうに訊ねる。

「俺、知らない人と初めて話すとき、なんか声変わるみたいなんです。だからかも」

 でも、気をつけたほうがいいことはわかっていた。


「にしても、リーダー遅いな」

 台の上に座ってベースをボロンと鳴らしながら、和馬が呟く。直人が気づいて顔を上げる。

「プロデューサーに呼ばれたって言ってたけど」

「よし、隼人。ちょっと様子見に行ってこい」

「ええ!?なんで俺が・・・」


 結局そういう役回りは自分に回ってくるらしい。隼人はスタジオ内でリーダーを捜すことになった。

 大体プロデューサーと話しているのなら、見に行ったって仕方ないような気もするが。


 と、そのとき、黒髪の眼鏡をかけた男性――リーダーの透也が視界の片隅に入った。

「リーダー!」

 隼人が駆け寄ると、ちょうどプロデューサーである一宮(いちみや)が目に入った。いつ見てもやり手のサラリーマンに見える。

「こんにちは!」

「こんにちは、隼人君。ちょうどよかった」


 一宮が何か話そうとしたときだ。リーダーがそれを遮るように隼人の背中を押す。

「すみません。もう時間があまりないので今日はこれで失礼したいと思います」

 それは丁寧な言葉というよりも、強引に話を終わらせているようにも思えた。


「リーダー、一宮さんと何話してたんですか?」

 メンバーのところへ戻るとき、隼人はこっそりと訊ねてみた。

「次に出す新曲のことについてだよ」

 それ以上は言おうとしない。たぶん何かあったんだろうなと隼人は直感した。


            ◇


 翌日の放課後、また正門に他校の生徒がいるかもしれないと警戒していたが、どうやらいないようだった。

 隼人はほっとして自転車にまたがったが、

「隼人君」

 名前を呼ばれて、心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。


「一宮さん!」

 振り返ると、もうすぐ夏だっていうのにびしっとスーツを着こなしている音楽プロデューサーの姿があった。

「こんな所でどうしたんですか?」

「1度君とゆっくり話がしたいと思ってね。ちょっと今いいですか?」

「少しなら大丈夫です」


 隼人たちが向かった所は近所の喫茶店だった。隼人はウーロン茶を頼み、一宮はホットコーヒーを頼んだ。

 とりあえず一口飲む。

「隼人君はメジャーデビューしたいとは思いませんか?」


 いきなり何の前置きもない話に、隼人は口に含んだお茶を噴き出すかと思った。

「も・・もちろん思います!したいです!」

 熱を入れて話すと、一宮は苦笑した。

「私も同じ気持ちです。君たちはこんなところで埋もれていい存在じゃない」


 隼人はテンションが上がってくるのを感じた。この話を他のメンバーが聞いたらどう思うだろうか。絶対喜ぶに決まってる・・・!

「俺たち・・・デビューできるんですか!?」

「私はすぐにでもそうしたいと思ってます」

「なら・・!」

「ですが」

 一宮は一呼吸入れた。


「デビューしたら君は満足に高校に通えなくなるかもしれません」

「そんなん大丈夫です!卒業さえできればいいんですから」

「そうじゃないんですよ」

 一宮が深く息を吐いたのがわかった。


「実はこの話はずいぶん前からリーダーである透也君に持ちかけてるんです。しかし、いつも流されてしまいます・・・・・もう1度訊ねますが、君はデビューすることで今までどおりに友達とつきあえなくなっても構いませんか?」

 隼人は急に答えられなくなってしまった。まさかそんなことまで考えていなかった。

 もしそうなったらどうしよう。俺はアルトと友達、どっちを選べばいいんだろう・・・・・


 一宮はそんな隼人の反応を見て静かに言い放った。

「それを気にして透也君もなかなか了承しません。ですが、プロデューサーとしての経験から1つだけ言っておきます。今デビューせず、例えば君が高校卒業後にデビューしたとしても、絶対売れない。断言します」


 隼人は何も言えなくなってしまった。


            ◇


 喫茶店からの帰り道、隼人は無意識に高校へと向かっていた。

 デビューしたらもう友達とは今までどおりにつきあえなくなる・・・それを聞いて急に怖くなってしまった。

 何かを手に入れるためには、何かを失わないとだめなんだろうか・・・・・

 隼人にはどっちも失うことができなかった。どちらも大事なものだった。


 だけど・・・・・だけど・・・・・・


 こんなチャンスはもう二度と来ないかもしれない。今までこんなチャンスにめぐりあえなくて泣いた人はどれくらいいるのわからない。

 チャンスなんだ。


 隼人は固く手を握り締めた。

現実はこんなにあっさりいくとは思いませんが、

小説なんでアリということで……

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