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アルト  作者: 若林夏樹
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第5回 変な噂

 菜穂と教室に戻ってくると、廊下では友紀と英二が待っていた。

 友紀が特に何かを気にしている素振りは見られないので、英二が上手くフォローしてくれたのだろう。隼人は幼なじみに感謝した。

「そうだ!昨日のことで思い出した」


 急に菜穂が声を上げる。

「昨日アルトってグループがライブハウスに来てたよ。友紀、好きだったよね?」

「えぇぇ・・・それ朝もテレビでやってたけど、本物なのかなぁ・・・」

 どうやら友紀は半信半疑らしい。

「わかんない。私あんまり好きじゃないから」


 その姉妹の会話は隼人にとってヒヤヒヤものだった。だけど、菜穂がアルトを好きではないことに少しだけほっとした。

 よかった・・・もし好きだったら、歌声でわかっちゃったかもしんない・・・・・


「それにしてもこうやって4人揃うと、入学式のこと思い出すなー」

 英二が自然な流れで話を変えたと思ったのだが、その内容に対して隼人は疑問を抱いた。

「入学式?」

「なんだよ隼人、覚えてないのかよ。俺たち2人座る席間違えて、佐山さんたちのトコ座っちゃったじゃん」


 そういえば、高校の入学式で、隼人と英二は純粋に間違えて隣のクラスのイスに座ってしまったことがあった。

「それって佐山さんたちの席だったの?」

 きょとんとして訊くと、英二がケラケラと笑った。

「ほんとに覚えてないんだなー」


 友紀と菜穂のほうを向くと、友紀は困ったように笑っていたが、菜穂はにやりと笑って、

「その頃から変態だったんだね」

 とぼそっと呟いた。

「――――――っ!!」

「うそうそ。冗談だってば」

 軽く笑って菜穂は受け流すが、隼人にとっては友紀の目の前でもう何も言ってほしくないというのが本音だった。


            ◇


 放課後、1人足早に帰ろうとしたとき、何人かの別の高校の制服を着た女の子が正門近くでたむろっているのが見えた。

 特に気にすることもせず隼人が通り過ぎようとすると、

「あのー」

 と、なぜか声をかけられた。心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。


「すいません。ここに西園寺先生っていう人いますか?」

「西園寺・・・?さぁ、いないと思いますけど」

 素直に答えたが、彼女たちはうーんと何かを考え込んでしまった。そして、互いに顔を見合わせて頷く。

「絶対ここの先生だと思うんですけど・・・」


 だけど、たぶんいないと思う。そんな金持ちそうな苗字の先生は。

 と、そのときだ。

「西園寺先生なんていませんよ」

 正門の前を自転車で通りかかった佐山菜穂が困ったように笑いながら近づいてくる。それから隼人の手をぎゅっと掴んだ。一瞬どきっとした。

「行こ?早くしないと図書館の席いっぱいになっちゃうよ」


 何のことなのかさっぱりわからなかったが、菜穂に目で何かを訴えかけられたので隼人も合わせることにした。


「西園寺先生なんてこの学校にいたっけ?」

 純粋に悩んで菜穂に訊ねると、彼女は心底呆れたような顔をした。

「何言ってんの。そんな先生いるわけないじゃない。あの子たちはね、さっきも別の男におんなじこと訊いてたよ」

「え?なんでだろう」

「大体予想はつくけど・・・知りたいならこっそり見てみる?」


 その言葉で、正門まで戻ってみると、同じように彼女たちは男子生徒の1人に西園寺先生の質問をしていたところだった。しかし、隼人のときと違ってすぐに解放されているが。

「マジで何してるんだろ。あの人たち」

「声だよ。たぶん」

 こっそりと覗いていると、少しだけ会話が聞こえてくる。なぜかアルトがどうとか聞こえるのは気のせいだろうか。


「西村君も覚えてるでしょ?昨日覆面かぶったグループがアルトだって名乗ったこと」

「ああ・・・そういえばそうだったね」

 隼人は曖昧に答える。

「そのボーカルと背格好がよく似た男の子がここの制服着てたって。昨日ちょっとした噂になったんだよ」

「へー・・・・そうなんだ」


 びくびくしながら答えたが、よく考えてみて隼人はようやく気づいた。

「まさかそれって俺のこと!?」

「そうかもしんないね。あんなトコに制服で来てたのって、西村君ぐらいだし」


 やっべー・・・いつものクセでそのまま行っちゃったんだ。

「だからきっと声を聞いてんだよ。西村君にしつこかったのは、声質が少し似ていたんじゃない?」

 似てるも何も、俺が本人だ。確かに彼女たちはいい耳をしているのかもしれない。


「ありがとう。さっきは俺を解放してくれたんだ」

「一応、変態心に火をつけないようにね」

「言っておきますが佐山さん。俺は変態ではないんですよ。こう見えても純情男なんです」

「純情〜?私、西村君のことよく知らないし」

「じゃあ、これから知ってけばいいよ」


 それは何気なく言ったつもりなのだが、菜穂が俯いてしまったのを見て急にしまったと思った。

「もちろん、友達としてだよ!」

 慌てて言い直すと、菜穂はわかってると言ってこくこくと頷いた。

「じゃあ、佐山さんって呼ぶのやめてよ。友紀とごっちゃになる」


「・・・・・・・じゃあ・・・アネゴで!」


 たぶんこのとき、隼人はかなり的外れなことを言ったのだろう。わかってて、そう言った。

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