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アルト  作者: 若林夏樹
4/18

第4回 ライブ終了後

「はじめまして!アルトです!」


 その声に盛り上がっていた会場が少しだけざわめきに変わる。

 何人かが客席からいろいろな質問が飛び交ってきたが、それに答えることなく隼人は喋り続けた。

「それじゃあ、まず1曲目!聞いてください。『Boys』」


 隼人の言葉が終わると同時に、直人のギターがジャンと音を立てて鳴り響く。

 最初は半信半疑だった観客も徐々にヒートアップしてきて、初めて聞くだろうその曲に合わせてジャンプして盛り上がる。

「行くぜー!!」


 隼人のテンションも普段と比べ物にならないほどハイだった。

 懐かしー・・・このカンジ。やっぱライブは最高だ・・・・・・

 歌っている最中はそれ以外のことを考えられなかった。とにかく30分という短い時間を余すことなく使い切った。


            ◇


「サイッコー!!」

 ライブ後の打ち上げでも。まだ4人のテンションは上がりっぱなしだった。

「やっぱライブはいいよな!またやろうぜ、リーダー!」と、和馬。

「そうだな。考えとくよ」

 リーダーもいつになくハイテンションだ。そういうとき、たいてい口元が緩むんだと昔直人に教えてもらったことがある。


 隼人もまだ心臓の鼓動を抑えることができなかった。

 1曲目の『Boys』から始まり、最後の曲『花びら』まで何かの世界に浸り続けていた。


 打ち上げの最後に、リーダーが締めくくった。

「とにかく今日はおつかれ!またこうやってライブできたら絶対やろう!」


            ◇


 翌朝、昨日のテンションがようやく下がり、下がりすぎて隼人の頭はぼーっとしてしまった。

 やべー・・・今日授業起きてられるかなぁ・・・・・

 朝ごはんをもそもそと食べながら、何気なくいつも見ている朝のニュースを見る。

 ――信じられないものを見た。


『では、芸能スクープのコーナーです。メンバーの顔が明らかになっていないグループ「アルト」が初めて公の場に姿を現しました!』

 ぶっっっっ!!!

 思わず飲んでいた牛乳を口から噴き出してしまった。


 なっなんで・・!?

 ニュースを見ていると、それは今度発売になる週刊誌が報じたものらしく、覆面レスラー4人組がアルトだと名乗ったところから歌った曲まで割と詳細に語られていた。

 まさかこんなふうにニュースになるなんて思わなかった・・・・・


            ◇


 こんなふうにニュースにはなったものの、別に隼人の正体がバレたわけではない。学校に行ってみても普通にみんなが挨拶してきて、いつも通りの日常が待っていた。

 英二からは妙な視線を送られるが、隼人が遅刻寸前に登校したため、まだ会話をしていない。


 朝のホームルームが終了したとき、案の定英二が隼人の席までやって来た。

「まさかこうなるとは思わなかった」

 正直にそう言うと、英二が気難しい表情をした。

「正直俺も思わなかった。マジでアルトってすげーんだな」

「すげーって何が?」

「顔出してないインディーズがメディアでこんな注目されるなんてないだろ。普通は」


 そういうことは隼人にはわからなかったが、たぶん朝のニュースで1番有名だと思われるものに報道されてしまった。

「だけど大丈夫だろ。覆面してたし、あれを見てた人なんて俺の周りには絶対いないだろうし」

 妙に自信満々に隼人は答えたが、何気なく見た教室の外を歩く人を見て固まってしまった。


「あ・・いたいた。やっぱり友紀と同じクラスだったんだね」

 そこにいたのは昨日ライブハウスで会った、変態扱いされた女の子だった。佐山友紀に似ているからよく覚えている。

「なんで・・・えっ!?」

「昨日『佐山さんに似てる』って言ってたけど、間違いじゃないかもね。私たち双子だから」

 その言葉に隼人は胃の中の消化物が逆流してくるかと思った。


菜穂(なほ)、どうしたの?」

 友紀がやって来て、その子を出迎える。彼女の名前は菜穂というらしい。後で聞いた話だと、菜穂が姉の二卵性双生児だそうだ。

「ううん。昨日ライブハウスで」

「ちょっと待ったー!!」


 隼人は慌てて大声を上げて、その会話の流れを断ち切った。とにかく彼女に口止めしなきゃと手をがしっと掴み、

「話があります!」

 屋上へと連れて行った。


            ◇


「昨日のことは誰にも言わないでください!」

「へ?別に女子トイレに侵入してきたことなんてもう覚えてないから大丈夫だよ」

「え・・・・・」

 隼人はアルトのことを口止めしたつもりでいたのだが、菜穂はわかっていないらしい。というよりも、もしかしたら彼女は気づいていないのかもしれない。

 だったらこれ以上言うべきではない。


「それより、昨日ぶつかったときこれ落としたでしょ?」

 菜穂が差し出したのは、隼人の生徒手帳だった。昨日制服姿でそのままライブハウスに行ったのだ。トイレで着替えようとしたとき、落としてしまったらしい。

「ありがとう」

「いいよ」


 まるでアネゴのような笑顔に、なぜか隼人はどきっとしてしまった。

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