第2回 メンバー
今回はアルトの他のメンバーが登場します。
夕方を過ぎた頃、いつものスタジオにいつもの面々が現れる。
「よぉ隼人。歌詞書いてきたか?」
開口一番のその言葉は、隼人の痛いところをついてくる。
「うぅ・・・いきなりそれですか・・・和馬さん」
アルトのメンバーの1人、ベース担当の矢口和馬、21歳。大学3年生だ。
「当たり前だろー。次こそは歌詞書くって約束しただろ?」
「書きましたけど・・・絶対に笑わないって約束してくださいよ」
そう言って、隼人は授業中に書いたルーズリーフを1枚取り出した。
数分後、スタジオが笑いに包まれる。
「だはははは!!!なんっつーか・・・すっげー純情!!」
「笑わないって約束したじゃないですか!」
慌てて隼人がその歌詞の紙を取り上げようとすると、それを和馬が阻止する。
「待てって。あいつらにも見せよーぜ。もうすぐ来ると思うから」
バッドタイミングに、ちょうどそのとき、アルトの他のメンバーが到着してしまった。
「今日は早いな」
リーダーの相沢透也。ドラム担当の24歳。
その後ろには、21歳、ギター担当の直人も一緒に現れた。
「リーダー!直人!見て見て!隼人の書いた歌詞」
和馬がひょいっと紙を2人に渡してしまう。取りかえそこなった隼人はそのまま和馬がいた場所にどさっと倒れこむ。さらに、その上から和馬に押さえつけられてしまった。
「だーもー!放せよー!」
「とにかく早く見てくれ!」
和馬から受け取った歌詞を透也と直人が一緒になって見る。
自分の書いた歌詞が見られるということで、隼人はすごく恥ずかしくなってしまった。
数分後、スタジオが感動の涙に包まれた。
「いい・・・いいよこれ!次の曲にしよう」
「いいんですか・・?こんな変な歌詞で」
心底不思議に思って隼人は訊ねる。なぜかリーダーの隣にいた直人は涙ぐんでいる。
「やっべぇ・・・俺、昔の彼女思い出しちゃった」
直人の彼女に対しては触れてはいけないという暗黙のルールがあるため、それ以上つっこむ人は誰もいなかった。
とにかく、隼人がぼけっとしている間に物事はあれよあれよと進んでいった。
曲作りに関して、先に歌詞ができることもあれば、曲が先のこともある。とにかく思いついたら試してみることが大事なのだ。
ギターの直人によって、隼人のつたない歌詞がマジでこれは最高だと思える曲になった。それをメンバーによって編曲し、1ヵ月後には完璧な曲に仕上がっていた。
◇
「ちょっと話があるんだ」
リーダーからそう言われたとき、なぜかメンバー一同緊張してしまった。
「あのリーダーが話があるなんて言って呼び出すんだぜ?絶対なんかあるって。解散宣言でもされるんかも」
スタジオに一緒に向かっていた和馬が縁起でもないことを言う。しかし、それもありうるかもしれないと隼人は思った。
「解散はしたくねぇけど、万が一そうなったらせめて最後に正体明かして潔く散りたいな」
「それわかります。俺もアルトのメンバーだって言いたい人がいるんだ」
隼人は友紀のことを考えながら何気なく言ったが、和馬によってそれをつっこまれてしまうことになる。
「なんだそれ。お前、好きな女でもいんのか?」
和馬にだけはなんとなく知られたくなかったが、ここまで言ってしまったら仕方がない。隼人はこくんと頷いた。
「俺の好きな人、アルトの大ファンなんです」
「うわっ!俺だったら絶対言ってる!」
よく我慢できるなーと和馬がぼやく。
と、そのときだ。目の前を自転車に乗った女の子が信号待ちをしているのが見えた。
「あ・・・・・」
佐山友紀だ。それに気づいた瞬間、彼女がこっちを向いてしまった。
「あれ・・?西村君?」
一瞬、友紀に今の会話が聞こえてしまったんじゃないかとひやひやしたが、そんなことはないらしい。
「すげー偶然。まだ帰ってなかったんだ」
時刻は今午後8時を過ぎている。友紀は制服だった。
「おばあちゃんちに行ってたの。西村君は?」
「えっ・・・と俺は・・・」
思わず口ごもったが、別にスタジオに行くなんて言わなければ絶対にバレることはない。
「ちょっと友達と遊んでたんだよ」
幸い、彼女が隼人の言葉を疑うことはなかった。
アルトのメンバーだと言ってしまいたい気持ちはある。
だけど、バラさないように意識している時点で、やっぱり自分はアルトが大好きなんだと気づく。
だから、お願いだから解散だけはやめてください、リーダー。
◇
「ライブをしよう」
メンバーの予想に反して、リーダーはあっさりとそう言い放った。
余談ですが…
アルトという名前は、ソプラノ・アルトからではなく、
イタリア語からこじつけで考えたんですけど…
そのうちリーダーが明かしてくれるでしょう。