表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルト  作者: 若林夏樹
11/18

第11回 初デート

 夏休み。こういう長期休暇は隼人にとって都合が良かった。とにかく1日中スタジオに入り浸る。

 ちなみに、スタジオと言っても他人が考えるようなものではない。元々一宮が所有していた部屋を改造してそれっぽくなったのがアルトのスタジオだ。

 だから、誰もいないときに1人でいることなんて結構ある。


 そして、今日もそうだと思ってスタジオに入ったら、なぜか2人の人間がいた。1人は和馬だったが、もう1人は女の人だった。

「よっ、隼人ー!」

「げっ・・和馬さんいたんですか」

「げってなんだよ、げって」


 隼人の視線はすでに和馬から女の人に向いている。そういえばこの人は前にも会ったことがある。

「あ・・・和馬さんの彼女さん・・・でしたっけ?」

「久しぶり、隼人君」

 綺麗に化粧された顔がにっこりと微笑む。すごく美人だ。


「おーい。何度も言ってるだろ。そいつは年齢サギの人妻なんだって」

 あいかわらず机の上に座って、心底不愉快そうに和馬が言う。

「ちょっと和馬君。年齢サギってなによ。私まだ29歳なんだけど」

「それでハタチとか言ってんだから立派なサギだろ」


 ようやく隼人も思い出した。

 彼女は、去年までよくスタジオに遊びに来て、差し入れを持ってきてくれた和馬のいとこだった。確か名前は・・・咲さんだったか?


「和馬君モテるんだから、彼女の1人でも作ればいいのに。そうすれば、その減らず口もなくなるかもしんないしね」

 咲がぶーたれる。

「俺はベースさえあればいいのー。ってか、今はアルトとして頑張りたいから彼女気遣う余裕がない」

「だからデビュー前に、ずっとつきあってた彼女と別れたんだ」


「えっ・・・!」

 隼人は驚いた。

 和馬に彼女がいたことは知っている。だけど、別れた話なんて聞いてない。

 和馬さんはいつも彼女が好きだって言ってた・・・まさか別れたなんて・・・・・・


「俺がアルトと彼女、両方背負える余裕ができたらもう1回告白しにいくよ。そんときに向こうに彼氏がいたら、俺は黙って影から応援するんだよ」


 いつもひょうひょうとしている和馬が急に大人に見えた。

「隼人?どうした?」

 和馬から問いかけられ、隼人は答えられなくなってしまった。

 自分は逆だった。デビューより前に、好きな人に告白した。だけど、夏休みになっても1度もデートしていないし、今まで全然気遣っていないことに気づいた。


 俺はアルトと菜穂、どっちも守ることができるか――?


 急に不安になってしまった。


            ◇


「ごめん・・・待たせた?」

「ううん。私が早く来ただけだから」

 7月の終わり、隼人は菜穂をデートに誘った。

 菜穂の私服を見るのは初めてではないのに、デートが初めてだからだろうか。なんだか妙に緊張してきた。


 ここへ来てようやく隼人は行き先を全く考えていないことに気づいた。やばい・・・

「どっか行きたいトコある?」

 試しに訊いてみると、菜穂は少し困ったような顔をして隼人の表情を(うかが)ってきた。

 そして、一言。


「西村君って電化製品に強い・・・?」


           ◇


 菜穂の話によると、佐山家では最近DVDプレーヤーの調子が悪くなり新しく買ったらしいのだが、説明書を見てもつなげ方がよくわからないそうだ。

 それをやってくれないかと隼人はお願いされた。

 電化製品とは相性がいいほうだと思う。だからそんな頼みはお安い御用だったし、どさくさに紛れて菜穂の家に行けるのはラッキーだった。


「散らかってるからね」

 何度も念を押されて、ようやく入れてもらった佐山家は綺麗な一軒家だ。全然散らかっていない。

「お邪魔しまーす・・・」

 かなり緊張しながら家に入ると、いつも友紀や菜穂から感じる匂いがあった。こういうのを家の匂いっていうのだろうか。


 家の中は静かだった。

「今みんな出かけてるからそんなに固くならなくて大丈夫だよ」

 菜穂は気楽に言うが、彼女はわかっているのか?一応俺男なんだけど。


 DVDの配線は隼人が思っていたよりも簡単なものだった。説明書を見てつなげていき、10分でその作業は完了した。

 その頃、菜穂はお茶を淹れてくれていた。


「すごい!できたんだ!」

「うん。俺結構機械に強いのかも」

「わーありがとう。助かった」


 会話がそこで途切れた。どこかでコチコチと秒針の刻む音が聞こえてくる。

 やべぇ・・・2人きりなんだよな・・・・

 意識する、この瞬間。


「――ここって佐山さんの家でもあるんだよな。なんかそう思うと新鮮だな」

 軽い調子で言うと、菜穂は何か答えようとして・・・やめてしまった。


「どうしたの?」

「あ・・・ううん、別に・・・」

「言いたいことあるんだったら言ってよ。気になるじゃん」

 急に不安になってきた。奈穂がこくんと頷くのを見て、ますます緊張してきた。


「あのね・・・私たちってつきあってるんだよね・・・・・?」

 どくんと心臓が高鳴った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ